サプライズ来店
土曜日の午前10時。駅から徒歩5分ほどのカフェ&グッズショップ「Cinderella Terrace」に着くと、すでに行列ができていた。店先ではスタッフさんが「本日限定メニューはこちらになります!」と声を張り上げている。
シンデレラガールズとタイアップしたこの店舗は毎週末、テーマ別コンセプト喫茶としてオープンするため大人気だ。特に今日は「パッション系アイドルフェア」の初日とあって、開店前から熱心なファンが列を作っていた。
(なるほど……可奈ちゃんたちメインの日か)
このところ休日に限らず平日も、なんとなく彼女たちの情報を探す習慣ができてしまっていた。昨晩も夜更かししながらライブのセットリストを分析したり、SNSでファン同士の交流を眺めたりしていたせいか、気づけば寝不足気味だ。
ようやく自分の番が回ってきて店内に入ると、あちこちから元気な声が飛び交う。
「お兄さん初めてですよね?今度の新曲チケット予約まだ間に合いますよ!」
「こちらの限定コースターはランダムですけど……レア絵柄も入ってますよ♪」
スタッフさんたちもアイドルたちを思わせる制服姿で接客しているからテンションが高い。メニュー表にはフルーツたっぷりのパフェやドリンクが並んでいる。中でもいちごミルクフロートはピンク色の綿飴までトッピングされており、まさに「パッション全開」といった見た目だ。
(よし、今日はこれを頼もう)
注文を済ませて席につくと、隣のテーブルでは大学サークルらしき男子学生グループが歓談していた。そのうちの一人が唐突に言い出す。
「なぁ、最近可奈ちゃんかわいいよな」
「分かる!最初はガキっぽいと思ってたけどさ、この間の配信で泣いちゃったとき……俺も泣いたわ(笑)」
「わかるー!!」
彼らはノートPCの画面をこちらにもちらりと見せてくる。ライブ配信切り抜き動画のようだ。そこには、ファンからの手紙を読み上げながら嗚咽する矢吹可奈ちゃんの姿があった。
(あ、昨日俺もそれ見たな)
胸がギュッと締め付けられる感覚は一緒だ。ただ、ここで声を上げて賛同する勇気はまだ持てない。代わりに小さく頷いてコーヒーを口に運んだ。
そのとき──店の奥からスタッフさんが呼びかける声が聞こえた。
「皆様!只今より店内スペシャルイベントを開催致します!今日はなんと……矢吹可奈さんがサプライズ来店してくださいましたー!!」
「え!?」「マジで!?」「来たぁああ!!」という歓声とともに、店全体が揺れるような勢いで盛り上がる。
俺も思わず椅子から立ち上がりそうになる。視線を向けると、店の入口から小さな影がひょっこり顔を出した。
──矢吹可奈ちゃん本人だ。
スタッフさんに促されるままにステージ付近へ移動してきた彼女は、マイクを手にこう叫んだ。
「こんにちは~! 今日はたくさんの方にお会いできて嬉しいです!私、矢吹可奈です!よろしくお願いします!!」
その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。俺も無意識に手を叩いていた。
(本当に来てくれたんだ……すごい……)




