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【第五章:飢える偽物】

【第五章:飢える偽物】


小春を側女そばめとした俺の神社の裏には、彼女の部屋だけでなく、いつしか多くの女信者たちのための部屋が増築により連なっていた。


夜、女を抱いて抱いて、ただ無心に抱き潰す。

その昂ぶりの最中さなかだけは、あのお雪の、白銀の雪を赤く染めた最期の姿を忘れて眠ることができた。


幸福そうな小春を見て思う。


(……許されぬことだ。聖者を演じながら、俺はただの獣ではないか)


自嘲の念はあれど、その勢いは止まらない。

囲う女の中には町の有力者の娘、藩の役人の娘までもが「四郎様の光に当たりたい」と雪崩れ込んできた。

邪教として捕縛されるかと思いきや、ここはまだ戦国の余韻が残る寛永の世。

数士年前まで大名が数多の側室を囲うのが「強さ」の証であった時代だ。

現代の倫理など、この時代には届かぬ寝言に過ぎない。


愛する者を抱く時だけは、この身体も心も、本当に天国にいるような気がする。


だが、そんなものは刹那の逃避。

共有もできず、日常にもなり得ぬ、閉じられた悦楽だ。


(……何が「この世で一番の場所にしてやる」だ。俺はどうしようもなく偽物だ)


だが、偽物には偽物の、泥にまみれた責任がある。

神社に救いを求める民の声は日増しに大きくなり、歴史の奔流――島原の乱の足音が、すぐそこまで迫っている。


人の命を救った夜は、よく眠れる。その高揚感でお雪の亡霊を振り払える。


お雪、お雪、お雪。


彼女の血で染まった自分の両の掌を見たあの日から、俺の普通は変わってしまった。


寝る時には、瞼を閉じればいつも、あの日のお雪が笑う。


飯を見れば、お雪の言葉を思い出す。


胃の腑が逆流し、耐え難い吐気が襲う。


「四郎ちゃん、このかぼちゃ、甘くておいしいねえ」

「四郎ちゃん、このお餅半分あげる、おいしいよ」

「四郎ちゃん、背はまだお雪のほうがおおきいねえ、ようけおたべ、ようけ食べて、大きくなるんよ」


幼馴染だぞ、幼馴染。

十数年ずっとずっと一緒に居たのだ。

思い出が多すぎる。


俺は吐いては食べ、食べては吐き、胃液で喉を焼きながら無理やり栄養をねじ込んだ。


食糧の乏しいこの時代に、自分はいったい何をしているのか。


だが、食う。

だが、寝る。

生きて志をなすのだ。


だが、異変は起きた。


不思議なことに、吐く量が日に日に減っていくのだ。

胃の腑の動きが、代謝が、俺の知る「人間」の限界を超えて加速している。


周囲の民は、そんな俺を救い主として崇め、平伏する。


だが、その視線に俺は絶望した。


彼らには「自分より凄い存在をただ拝む」という、思考回路しかないのだ。


真似ようともせず、超えようともせず、理解しようとせず、自分と同じ人間だとも思いもしない、ただ縋り付くだけ。


教育という概念が存在せぬ世の、あまりに深い溝。


(……誰か、この時代に、俺を助けてくれる圧倒的な知恵者はいないのか)


島原の民の食糧は絶対に足りない。

一揆が起きれば、死の山が築かれる。


この根源的な絶望を、武力ではなく、論理と知恵で打ち破れる男。


ふと思い至る。そうか、「島原の乱」だ!


この時代、あの男が、まだ生きているはずだ。


(……あの人に尋ねれば、あるいは解決の糸口が見つかるかもしれん)


俺は旅の支度を整える。


出立の前、神社で最も巨大な神木へと向かい、いつもの「挨拶」を繰り出した。


「……双按」


生まれる前に漫画で見た、二つの力を一点に叩き込む技。

幼い頃から、遊び半分に近くの大木相手に練り上げてきた習練。

放たれた衝撃に、舞い散る葉がいつもより十数枚、いや数十枚多い。


何かがおかしい。


筋力が増しているだけではない。力が「伝わりすぎる」のだ。


木の芯がどこにあるのか。

どの方向に揺れやすいのか。

構造の「急所」が、指先から視界へと流れ込んでくる。


木や人や草や鳥が――すべて同じ「命の構造」として、見えてしまう。




そして人が。




人が、軽く見える。




(……天照大御神の仕業か。あの日、当たり前のことしか言っていないはずなのに)


あの女神が注ぎ込んだ、呪いにも似た「想い」が、俺の肉体を「人間」から引き剥がそうとしている。


俺は乳の香りがする我が息子、赤子の「天草五郎時行」を抱いてこう言った。


俺のいない間はこの子を総代とするように、

どうにもならなければ、かの中先代のようにどこまでも逃げるように、

まだ一人で立てもしない子だ、よくよく支えてやってくれと頼んだ。




天照大御神(GM):

「ク、ク、ク……!良い顔になったではないか、四郎。

 女を抱き、泥を食らい、吐き散らしながらも『今ここにある生』に執着するその姿。

 清廉な聖者など、見ていても欠伸が出るわ!


 そなたには我の我の痛み、我の恨み、我の全霊を注ぎ込んでおるのだ。

 ならばその肉体、その瞳、もはや人のことわりに留まることなど許さぬ。


 世界が『透けて』見えるか? 命の急所が『視える』か?

 ……それは我が見ている景色、そのほんの一欠片よ!

 さあ、旅に出るがよい。


 そなたが求める『知恵者』とやらが、この狂った日輪の加護を前に、何と言ってのけるか我も楽しみよ!




【試練:知恵者を求める流転の旅】


決定的成功:01〜05(邂逅:知恵者が向こうから訪ねてくる)

成功:06〜50(遭遇:今まで見たことがないようなものと次々と出会う)

失敗:51〜95(拒絶:邪教徒扱いされ、たびたび刺客に狙われる)

致命的失敗:96〜100(破滅:路銀を全て盗まれ、旅が終わる)




ダイスロール……『31』!【成功】




天照大御神(GM):

「おお! これは期待できるではないか。……くふふ、良い旅になりそうだな! 四郎!」


俺は船に乗った。

当初船酔いをしたが、じき慣れた。

船で移動したのは正解だった。


誰にも迷惑をかけず、とても静かだ。


海と船と魚、世界にはそれだけが存在していた。

途中で不思議と良く色々な魚が釣れた。


釣りたての鯛を喰らう。

……美味い。

すべてを忘れられる。


釣り竿から糸をただ吊るしているだけでも楽しい。

自分も釣り竿の一部になったようだ。

釣りとはこれほど楽しいものだったか。


これも巡りあわせか。

「天照大御神、ありがとう」




天照大御神(GM):

「…………は? 何もしとらんが。海は我が管轄外じゃ!

 四郎!

 陸路にはあんな敵やこんな味方が山ほどおったのに!

 絶体絶命のピンチに我が加護がパーっと! パーっと閃いて、『えいえい!天照!天照!』をするはずじゃったのに!


 四郎、四郎! 釣りをしている場合か四郎!

 あ、また糸が引いているぞ四郎!

 次はどんな魚が釣れるんじゃ?

 ほら、早く引けってば四郎!」

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