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【幕間:えいえい!天照!天照!】

【幕間:えいえい!天照!天照!】


「言ったな、四郎。……言ったな、天草四郎時貞!」


アマテラスの震える声が、虚空に響く。四郎が小春へ、そして民へ放ったあの言葉を思い出していた。


『お前の手が触れる場所すべてを、この世で一番の場所にしてやる。俺の手を取れ』


『俺の手を取れ』

『俺の手を取れ』

『俺の手を取れ』

『我の手を取れ』

『我の手を取れ』


四郎が差し出した「人間の手」の残像に、アマテラスは、幾星霜もの間差し出し続けてきた己の「神の手」を重ねる。


「ク、ク、ク……! 生涯を懸けてしか吐けぬ言葉。

 命を懸けてしか言えぬ誓い。我がずっと願っていた言葉を……!」


アマテラスの目から、大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちる。

それは黄金の輝きを放ちながら、実体を持たない彼女の頬を濡らした。


『濡れたお前の衣を乾かし続けたのは何だ!』


「天草四郎! お前……お前だけだぞ! そんなところを見ておったのは!」


彼女は泣きながら、狂ったように袖を振る。

神としての威厳などかなぐり捨て、地上の瑣末な、けれど愛おしい営みのために叫ぶ。


『明日の結婚式の花嫁衣裳を、なぜ濡らすか愚か者め! えいえい! 天照! 天照!』

『まだ乾かぬかこの洗濯物! あの家には布のおしめが三つしかないんじゃ! えいえい! 天照! 天照!』

『おねしょが治らんのう、この布団で今夜家族三人で寝るなど正気か! えいえい! 天照! 天照!』

『雨の日に洗濯物を干すとは愚か者! 気は確かか! えいえい!天照! 天照!』


涙は止まらない。嗚咽が黄金の空間を揺らす。


「四郎! 四郎! 四郎!」

「誰も……! 誰も、伸ばした手など取らんのだ!四郎!」


アマテラスは、天を仰いで咆哮した。


『我がお前だけを照らさなかった日があるか! お前の夜を終わらせなかった日があるか! そんなに辛いなら、苦しいなら、我の手を取れ! 布団を干せ! 手を伸ばせ! 我の手を取れ、この世で一番幸せにしてやる! 我に、お前を救わせてくれ! 我の名を呼べ……! 手を、手を……!』


声が枯れるほどに叫ぶ。

その姿は、全能の神ではなく、差し出した手を誰にも握ってもらえない、迷子のような孤独。


「……ク、ク、ク! 何度人の世をやり直してもダメだった。だが、まさかこんな方法があったとはな。まさかこんな方法で、伸ばした手の痛みを思い出すとはな!新しい魂を混ぜ続けた甲斐があったぞ」


アマテラスの表情が、歓喜と狂気に塗り潰される。


「 人間のお前に何がわかる! 伸ばすたびに手が痛むのだ! 太陽として焼かれながら、救いたいと願われて生まれた神だからな! 伸ばしても届かん、その虚しさがわかるか!」


彼女は黄金の床を叩き、激情をぶちまける。


「人間のお前に何がわかる! 伸ばす度に手が痛むのだ! 伸ばす度に心が痛むのだ! 伸ばしても伸ばしても届かんのだ! それでも伸ばさずにはおれんのだ! 神だからな! 全てを救い! 全てを救う! 全てに温かさを与える! 神だからな! お前らがそう決めたのに! お前らがそう決めたのに! お前らがそう決めたはずなのに! なのに人間は我の手を取らない!!! なぜだ! なのに人間は我の手を取らない! なぜだ! どうして我の声は届かない! 土を踏みたい、手を触れたい、雨の日の洗濯物を乾かしてやりたい! 我がこんなに手を伸ばしているのに! なぜ誰も、我の手を取らないんだ!!!」


アマテラスは覚悟を決め、万感の想いを込めて、その神気を四郎へと注ぎ込む。


「……祝福してやろう ……天草四郎時貞! 受け取るが良い! そなたに、我の恨みすべて、痛みすべて、加護すべて! 我の想いすべてを、すべてすべてすべて注ぎ込んでやるわ!」


『お前の手が触れるところ、お前の足が踏むところ、お前の声が届くところ』

『お前が見る場所すべてを』

『お前の熱が届くところすべてを』


「――この世で一番の場所にしてやる!!」


「受け取れ! 天草四郎時貞! えいえい!天照! 天照!!」

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