【第四章:天国への通貨】
【第四章:天国への通貨】
処刑場を囲む役人たちの松明が、不気味に揺れている。
中央の柱に縛り付けられようとしていたのは、巫女・小春。俺は氏子たちを割って入り、刑場の中央へと歩み出た。
「待て! 俺は天照大御神神社、神主・天草四郎だ。その娘を傷つけること、断じて許さん!」
役人がたじろぎ、槍を向ける。
だが、俺の視線は小春に釘付けだった。
彼女の瞳には、かつてのお雪と同じ、死による救済を渇望する「狂信の輝き」が宿っていた。
天照大御神(GM):
「のう、四郎。小春の信仰心はあまりに純粋。今の言葉は、そなたが築いた『天照の理』すら跳ね返すほどの強度を持っておるぞ。
我の力を注いで成功率三割が限度か!
……さて、どうする? 運命を振れ。そなたの言葉が、死を望む者の魂に届くかどうか!」
【判定:死の信仰の打破と「生」への改宗】
成功:01〜30(感化:小春が四郎の手を取る)
失敗:31〜100(拒絶:小春が炎に包まれる)
黄金のダイスが、火刑台の煤に汚れながら転がる。
ダイスロール……出目は――『52』!!
天照大御神(GM):
「……『52』! 本来なら悪くない数字じゃがな・・・失敗じゃ! 小春の瞳から光は消えぬ。彼女は今、この瞬間に焼かれることこそが至上の幸福だと信じ切っておるぞ!」
「四郎様……。私、怖くありません。ここで死ねば、デウス様の御許へ、本当の天国へ行けるのです」
あの日と同じ問い。あの日、俺を絶望させた、あまりに純粋で残酷な言葉。
だが、今の俺には、「天照大御神教」の理を積み上げた答えがある。
俺は彼女の目を真っ直ぐに見据え、天をも穿つ声で咆哮した。
「思い出せ。遥か昔、人は獣と同じく明日の食い扶持すら知らぬ暗闇にいた。
だが今は米がある、作物を育てる術がある!
かつては心を通わせる術もなく、孤独に震えていた。
だが今は文字があり、想いを伝えることができる。
分け合うことができる言葉がある! 助け合うことができる!」
俺は火刑台の薪を足蹴にし、民衆と小春に、歴史という名の希望を叩きつける。
「……古の世から見れば、今この瞬間こそが、真の天国ではないのか!」
辺りを静寂が包んだ。
「それでも満たされぬ者よ。
俺や、お前のような者は、天国に逃げてはならぬ! どこかにある天国を探してはならぬ!
天国は『血』で買うものではない。流すべきは『汗』だ!
今すぐ行ける場所ではなく、途方もない時間をかけ、今、ここに、自分たちの手で築き上げるものなのだ!」
俺は小春の瞳の奥まで見つめ、そして命を懸けて右手の人差し指を天――西に沈みゆく、しかし圧倒的な光を放つ太陽へと掲げた。
「天からこの世の全てを照らすこの光が、お前や、お前の大切な者だけを照らさなかった日があるか!」
「この光が、お前の夜を終わらせなかった日があるか!」
「濡れたお前の衣を乾かし続けたのは何だ!」
「この太陽だ!」
「この太陽があればこそ、我らは大地に天国を築いていけるのだ!」
「この太陽の温かさこそが、その熱が、我らに力を与え、我らを突き動かすのだ!」
「この光を信じろ!」
「偽物の物語に、偽物の天国に騙されるな。俺を信じろ。
そして、俺達を信じ、俺達を支え続けてくれた天照大御神の……この温かな太陽を信じろ!」
周囲の役人や民衆が、その熱量に圧倒され、息を呑む。
小春に言葉は届いた。
太陽は、天照大御神が、日々欠かさず行ってきた偉大なる働きは、確かに小春の心を貫いた。
それでも、小春の瞳に迷いは生じない。
デウス様の天国が、呪いのように彼女の意識を「向こう側」へ繋ぎ止めている。
……神の御業でも、太陽の光でも足りないならば。
俺は声を落とし、最も深く心に突き刺さる「人間の誓い」を口にした。
「……だが……それでも」
「……それでも信じられないのなら」
「この天草四郎時貞が、生涯をかけて」
「お前の手が触れるところ、お前の足が踏むところ、お前の声が届くところ」
「お前が見る場所すべてを」
「――この世で一番の場所にしてやる」
「俺の手を取れ」
ゆっくりと手を伸ばす。
あの日、雪の中で冷たくなっていくお雪に、どうしても届かなかった手を。
小春は震える唇で、小さく呟いた。
「……デウス様、ごめんなさい。私は、この人を信じます」
その瞬間、小春の手が俺の掌に重なった。
天照大御神(GM):
「……え? ちょ、ちょっと待て……何が起きた!? 判定は『失敗』と出たはずじゃぞ!」
空中に固定されていたはずの黄金のホログラムが、悲鳴を上げるように激しく歪んだ。
『52』という数字が、まるで灼熱の鉄のように赤黒く変色し、のた打ち回りながら回転を始める。
「……5……2……!? な、なんじゃ、 そんなはずは、そんなはずは無いのじゃ! 世界の理が書き換わってしまう!」
アマテラスが取り乱し、黄金のパネルを狂ったように叩く。
だが、運命の数字は四郎と小春が触れ合った指先から溢れる、血の通った「熱」に焼かれ、不可逆的に形を変えていく。
システムログ:【深刻なエラーを検知:因果律の強制的改ざん】
システムログ:【ダイス出目の反転を承認……完了】
ダイスロール……【52】 ➡ 【25】 !! 【成功】
天照大御神(GM):
「バカな……! 出目が……出目がひっくり返った!? たった一人の人間の『誓い』が、その熱量が、物理的にねじ伏せたというのか……っ!」
アマテラスは震える手で、信じられないものを見るように四郎を見つめた。
その瞳には恐怖さえ宿り、しかし、それ以上に抑えきれない歓喜が火花を散らしている。
「……おお、おお……! 四郎、お前、全てを変えたな!
小春の心も、我のダイスも、確定していた破滅の運命さえも!」
彼女は黄金の扇を、天が震えるほど激しく叩きつけた。
「見事じゃ! お前なら、血塗られた島原の歴史すらも、その手で強引に引き剥がし、新たな理を刻めるかもしれん!」
「ゆけ、四郎! お前というイレギュラーが、この詰んだ世界をどう壊し、どう救うのか……我に最後まで見せてみよ!」




