表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/12

【第一章:ダイスロールは、餅の味】

【第一章:ダイスロールは、餅の味】


視界がホワイトアウトする。


猛烈な光の渦に飲み込まれ、次に意識が戻ったとき、俺はわずか一歳の体になっていた。


自分が誰で、ここがどこなのかを目の前にいるのは誰なのか理解するのに、それから数年の月日を要した。


そして、十四歳になったある冬の日のことだ。


俺は父と共に長崎の町を歩いていた。降りしきる雪が、町全体を不気味なほどの静寂で包み込んでいた。


不意に、脳内にあの傲慢な声が響く。


(のう四郎、ダイスを振らんか。上手くいくと、家でお前の大好きな餅がたらふく食えるぞ)


「……ダイス? 今、ここでですか?」


(1~10できなこ、11~50であんこ、51~100で磯辺焼きじゃ)


「俺の大好物のきなこの出目が悪くないですか? 1~30はきなこ餅ってのはどうです?」


(言うてる場合か! 1~10できなこ、11~50であんこ、51~100で磯辺焼き! 早く振れ! 早く帰れ!)


「100側に磯辺焼きを入れてるのは、あんまり甘くないから? 天照大御神様は実は甘党なんですか?」


(馬鹿かお前! 早く振れ! 早く帰れ! 早う! 早う! 早う帰れ! 早――あーあ、間に合わんかったか)


アマテラスの声が、ふっと体温を失う。


(……恨むなよ、四郎)


直後、静寂を切り裂いたのは、耳を刺すような役人の罵声だった。


「踏め! 踏まぬなら今すぐ地獄へ送ってやる!」


泥と雪にまみれた「殉教の列」。


冷たい地面に跪かされ、青銅の「踏絵」を突きつけられた農民たち。


その中に、幼馴染のお雪がいた。


震える足で立ち尽くす彼女の背後に、役人の刀が振り上げられる。俺は群衆をかき分け、彼女の元へ飛び出した。


「お雪! お雪じゃないか! なんだお前ら、お雪に何をするんだ!」


「この娘は異教徒! 日本の神をないがしろにして、デウスなどという異国の神を信じておる。悪いが坊主、禁教、邪教、キリシタンはお上のお達しでな、殺さねばならぬ」


「何を言ってるんだ! 何を信じてようが、何を尊敬してようが、そんなの誰にも関係ないじゃないか!」


「それはこの娘に言ってくれ。我らも辛いのだ……この絵を踏むだけで良いのだ! 目を瞑ってただ踏むだけ。娘! おぬしら! なぜそれが出来ぬ!」


役人の悲痛な叫びすら、雪の中に吸い込まれていく。


俺はお雪の細い肩を掴み、必死に訴えかけた。


「お雪、踏め! デウスなんてただの昔話だ! 異国の神のことなんてどうでもいいから――俺を信じてくれ!」


しかしお雪は悲しげにこういった。


「……デウス様を信じて死ねば、天国に行けるの」


そして狂信的な光を瞳に宿して微笑んだ。


「四郎様、あなたを信じて……私たちは一体、どこへ行けるというの?」


俺は絶句した。


救うための言葉が喉に張り付いて出てこない。


現代の合理性も、未来の知識も、目の前の「死ねば救われる」という強固な信仰には、あまりにも無力だった。


次の瞬間、冷たい鋼がお雪の体を貫いた。


溢れ出した「赤」が、両手を濡らす。


嗚咽が止まらなかった。


白銀の世界が、どす黒い鮮血で塗り替えられていく。


(お雪、お雪、お雪――何が悪かった。どこで間違った。天国ってなんだ)


(死ねば救われる? ――なんて強力で、悪質な嘘だ。死人に口なし、確かめようがないじゃないか)


(どうしてお前が死ぬ。この血のどこに救いがある。これのどこがデウスの慈悲だ)


(救いが無い。救いが無いから、人はこんな嘘に縋って死ぬのか。ならば――)


(そんなに救いが欲しいなら、俺が、俺が救ってやる!)


俺は血に染まった雪を握りしめ、魂の奥底に、剥き出しの志を刻みつけた。


【この国から、キリスト教を廃止する】


その方法は、剣による殺害ではない。

他教による『教えの凌駕』をもって、根底から塗り替える。

既存の神にその力が無いというのなら、俺が新しい教えを創るまでだ。


名は、そう――「天草教」。


デウスよ、お前は、俺が必ず廃業させてやる。


天照大御神(GM):

「……ふふ、く、く、く! 驚いたぞ。歴史を根底から叩き折るほどの、烈火の如き『志』じゃな。

そなたが選んだのは、幕府への恭順でも、単なる殉教の道でもない。

キリスト教という巨大な精神体系を、自らの知性で『止揚アウフヘーベン』し、塗り潰すという――【宗教家・哲学者としての覇道】。


よいぞ、四郎。その不遜なまでの愛と狂気、存分に振るうがよい!

今ここより、運命のダイスは、神をも超える意志で回り始めたのじゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ