【序章:バグだらけの殉教予定地】
【序章:バグだらけの殉教予定地】
「……おい、起きろ。いつまで寝ている。我を待たせるとは不届きな」
頭に響くのは、傲慢で、それでいて鈴を転がすような美しい声。
目を覚ますと、そこはいつものデスクトップの前ではなく、銀河のような光が渦巻く不思議な空間だった。
目の前には、黄金のパネルを気だるげに操作する、絶世の美女。
「我は天照大御神。……死んだな、お主」
「……確か、徹夜明けで信号を渡ろうとして……。これ、異世界転生ってやつですか」
「ふん。お主の死は必然じゃ。だが『運命のミス』にしてやらんこともない。お主、島原という地を知っておるか?」
彼女が指を鳴らすと、空中に巨大なステータス画面と、血塗られた江戸初期の光景が映し出される。
「時は江戸。家康が築いた泰平の裏で、島原は歪みに満ちておる。圧政、飢饉、過激な信仰……。このままでは三万七千の民が滅びる『島原の乱』が起きる。お主には、その中心人物『天草四郎』になってもらう」
「天草四郎!? 無理ですよ、一揆の首領なんて最後は処刑確定。歴史上の詰みポイントじゃないですか」
「では、このまま死ね」
「転生したい。あー転生したいな! あれ? 俺、今『転生したい』って言いませんでしたっけ。そういえば俺、天照大御神様を心から信奉してて、――」
「調子の良い奴よ。……よかろう。お主には現代の知恵がある。そして、運命を左右する『女神のダイス』を授ける。これで多少はなんとかなるはずじゃ」
「多少以外のことは?」
「現代人の知恵でなんとかせい。知識チートという奴じゃ。便利じゃのう。つまらんのう。……何もかも忘れて転生させるか」
「今! 今この状態で転生したいです! 今、今! あっあっ四郎!四郎になってきましたよアマテラス様! 今です、今すぐ飛ばしてください!」
「うるさい四郎じゃな……。こんな四郎、我も初めてじゃ。だが、逆に期待できるかもしれん。面白くなってきた!」
アマテラスは黄金の百面ダイスを弄びながら、不敵に微笑んだ。
「手始めに、お主の行く末を占ってやろう」
彼女がダイスを放り投げた。
銀河の空間を、カラン、カランと虚しく転がる黄金の多面体。
止まった出目は、「100」。
システムログに、非情な文字が踊る。
――【致命的失敗:ファンブル。運命は最悪の結末へ固定されました】
「……あ。……あー、お主。これは、相当しんどいぞ」
「えっ、今なんて!? 最悪って出た!? ちょっと待っ――」
アマテラスの困惑した顔を最後に、俺の意識は深い闇に落ちた。
「ゆけ、四郎。……今度こそ、今度こそ、島原を救ってたもれ」




