第9話 逐一報告が止まらない
「いい? 報告は要点だけ。逐一送ってたら、受け取る側の手間が増えるだけよ」
オンライン会議の画面の向こうで、部下が「はい」と素直にうなずいた。
仕事中の養母は、今日も無駄がない。
でも、その日のLIMEは無駄だらけだった。
いや、無駄っていうか。
かわいすぎる日常報告だらけだった。
[LIME:アカネ]
『今、休憩入ったの』
『コンビニのカフェラテ飲んでる』
……うん。
いや、待って。
なんで報告してくるの?
かわいいけど。
[LIME:アカネ]
『今から帰り道』
『スーパー寄ってから帰るわ』
増えた!
逐一増えてる!
今日の行動、全部教えてくれるじゃん。
生活感が近い。
近すぎる。
恋人感が強すぎて、こっちの心臓が忙しい。
[LIME:アカネ]
『今お風呂上がり』
『髪乾かすのちょっと面倒』
ぶっ!?
いやいやいや!
そこまで送ってくるの!?
報告の密度どうなってんの!?
しかも今お風呂上がりって、
想像するなってほうが無理だろ!
ガチャッ!
「真守くん、やっぱり私、送りすぎかしら……」
うわ、来た!
今日は不安顔か!
しかもスマホ握りしめてる!
「なんか、日記みたいに送っちゃってる気がして……。重かったかも」
いや、そりゃ普通に多い。
多いけど。
嫌かって言われたら全然そんなことない。
むしろ全部うれしい。
「別に嫌じゃないと思うよ」
「ほんと?」
「うん。そういう何気ないのって、ちゃんと嬉しいと思う」
大丈夫だ。
少なくとも俺なら、
『今休憩入ったの』から『今お風呂上がり』まで全部保存したいくらいには嬉しい。
……いや、保存はしないけど。
「でも、送りすぎて呆れられたら……」
「そこまで思わないって。むしろアカネさんの一日が見えるのって、ちょっと特別感あるし」
「と、特別感……」
うわ、そこ拾って赤くなるのか。
ほんとこういうとこずるい。
「じゃ、じゃあ……シュンくんにもそう思ってもらえるかしら」
「思うんじゃない?」
自分で言っててなんだけど、
めちゃくちゃ思う。
[LIME:シュン]
『そういう何気ないの、嫌じゃないです』
『むしろアカネさんの一日が少し見える感じがして嬉しいです』
『もっと聞きたいくらいです』
「えっ……」
養母が固まった。
次の瞬間、顔が一気にゆるむ。
「もっと……?」
だめだ。
その反応はだめだ。
絶対また増える。
「真守くん、今度は何を送ったらいいと思う?」
ほら来た!
味をしめるの早い!
このままだと、
『今お茶いれた』
『今ソファ座った』
『今くしゃみ出た』
まで送りかねない。
でも、そんな逐一報告で浮かれてる養母も、
やっぱりかわいいんだよな。




