第10話 誤字だらけのメッセージ
「送信前に誤字脱字、宛名、内容確認。そこを雑にすると信用ごと落とすわよ」
オンライン会議の画面の向こうで、部下が「すみません」と肩をすくめた。
仕事中の養母は、今日も隙がない。
でも、その夜。
その完璧さは、恋人相手のLIMEでぐちゃぐちゃになった。
[LIME:アカネ]
『今日もお話できて、すごく迂闊しいです』
『……じゃなくて、嬉しいです』
『シュソくんと、またお話したいの』
ぶっ!?
待て待て待て!
何その誤字だらけのかわいい事故!
迂闊しいって何!?
しかもシュンくんがシュソくんになってる!
でも言いたいことはめちゃくちゃ伝わる!
伝わるから余計に心臓に悪い!
ガチャッ!
「真守くん……私もう無理……」
うわ、来た!
今日は半泣き顔か!
しかも両手でスマホ抱えてる!
「送っちゃったあとで見返したら、誤字だらけだったの……」
「あー……うん」
「仕事ではこんなミス絶対しないのに……! 変な女だって思われたわよね?」
いや、むしろ逆だろ。
完璧な人がここまで慌ててるってだけで、
かわいさが限界突破してる。
「大丈夫だって。意味はちゃんと伝わるし」
「ほんと?」
「うん。むしろ緊張して送ってくれたんだなって思うんじゃない?」
大丈夫だ。
少なくとも俺なら、
誤字より先に内容で死ぬ。
……いま普通に死にかけてるし。
「でも、シュソくんって……」
「そこはまあ、ちょっとじわるけど」
「じわるって言った!?」
うわ、そこだけは拾うのかよ!
涙目で睨んでくるのもかわいいな、この人!
「と、とにかく! ちゃんと返してあげたら大丈夫だって」
「うぅ……そうよね……」
さっきまで送信前確認を説いてた人が、
恋愛になると確認どころじゃなくなるのほんとずるい。
[LIME:シュン]
『ちゃんと伝わってます』
『たぶん、すごく急いで打ってくれたんですよね』
『そういうところも、かわいいなって思いました』
「か、かわいい……!?」
養母が固まった。
次の瞬間、耳まで真っ赤になる。
「誤字してるのに……?」
「そこも含めてじゃない?」
むしろ誤字してるほうが、
どれだけ慌ててたか伝わってくるんだよな。
リアルでもLIMEでも。
「どうしよう……もう恥ずかしくて、送信前に三回は見直さないと無理……」
そう言いながら、スマホを抱えてまた悶え始める養母。
でもたぶん、
次も緊張したら普通に誤字る。
そんな未来まで簡単に想像できるのが、
なんかもうすごくかわいかった。




