第7話 深夜の「起きてる?」
「いい? 勤務時間外の連絡は緊急時だけ。そうじゃないなら、相手の時間を奪うだけよ」
オンライン会議の画面の向こうで、部下が「気をつけます」と頭を下げた。
仕事中の養母は、今日も正しい。
でも、その日の深夜。
その正しさは、布団の中であっさり溶けた。
[LIME:アカネ]
『起きてる?』
『ごめんなさい、やっぱりなんでもない』
『ちょっとだけ話したくなっちゃって』
ぶっ!?
待って。
待って待って待って。
壁一枚向こうにいるのに、
なんで夜の恋人モードで来るんだよ!?
しかも最後の一文、破壊力高すぎるだろ。
そんなの見たら目、冴えるに決まってる。
俺の心臓も完全に起床したんだけど!?
コンコン。
「真守くん、起きてる……?」
いや、おまえも同じこと聞くのかよ!
「どうしよう。変な時間に送っちゃった」
ドアの隙間から顔をのぞかせる養母は、髪が少し乱れていて、いかにも眠れませんでしたって顔をしている。
うわ、だめだ。
夜のそれは反則だろ。
いつもより無防備に見えるの、ほんと心臓に悪い。
「ちょっと寂しくなって……。でも、送ったあとで、やっぱり夜中にこんなの重いかなって」
「いや、そこまで重くはないと思うけど」
「ほんと?」
「うん。少し話したいくらいなら、別に普通だし」
大丈夫だ。
少なくとも俺なら、
こんなの来たら迷惑どころか普通に嬉しい。
……いや、実際かなり嬉しかったし。
「でも、勤務時間外の連絡は駄目って、今日あんなに言ったのに……」
「仕事と恋愛は別でしょ」
「そ、そうかしら……」
さっきまで部下に釘を刺してた人が、
夜になるとこんなに弱くなるの、ほんとずるい。
「返してあげなよ。シュンも心配してるかもしれないし」
「うぅ……そうよね」
[LIME:シュン]
『起きてました』
『そういうの、ちょっと嬉しいです』
『眠れないなら、少しだけ話しましょうか』
「…………っ」
養母がスマホを抱きしめた。
そのまま顔を真っ赤にして、ベッドの上に崩れ落ちる。
「無理……。嬉しすぎて、余計に眠れない……」
いや、こっちも無理なんだけど。
その反応をリアルタイムで見せられて、
さらにLIMEの相手としても返してるの、情報量が多すぎる。
「真守くん、ありがとう……おやすみ」
ふらふらした足取りで部屋を出ていったあと。
壁の向こうから、枕に顔をうずめて悶えてるっぽい気配が伝わってくる。
やめてくれ。
想像できる。
めちゃくちゃ想像できる。
リアルでもLIMEでも夜でもかわいいの、ほんと反則だろ。
……今夜、たぶん俺は寝不足確定だ。




