第5話 大好きの誤送信
「いい? 送る前に宛先は絶対確認。誤送信がいちばん危ないんだから」
オンライン会議の画面の向こうで、新人が「はい」と背筋を伸ばした。
仕事中の養母は、今日も抜かりない。
でも、その数時間後。
その完璧さは、家の中であっさり崩れた。
[LIME:アカネ]
『いつもありがとう』
『こういうの、直接言うのはちょっと恥ずかしいから』
『大好きだよ』
は?
待て。
待て待て待て。
なんだこれ。
いや、なんだこれ!?
急に大好きって何!?
しかも直接言うのは恥ずかしいって何!?
俺、いま心臓止まりかけてるんだけど!?
ガチャッ!
「真守くん! どうしよう!」
うわ、来た!
しかも顔真っ赤!
スマホ持ったまま一直線に来るな!
近い近い!
画面も顔も近い!
「間違えたの! 真守くんに送るつもりだったのに、シュンくんに送っちゃった……!」
うん。
それは今わかった!
いや、わかりたくなかった!
「いつもありがとうって送ろうと思ってたのに、恥ずかしくなって変に文章足してたら、そのまま大好きまで送っちゃったの。やばいわよね? 重いわよね?」
息子への大好きも、
恋人への大好きも、
どっちも俺に刺さるのやめてくれ。
「いや、シュンなら嬉しいと思うよ」
「ほんと?」
大丈夫だ。
びっくりはした。
かなりした。
でも、嫌なわけあるか。
……俺だし。
「と、とにかく一言送れば? 誤送信だったって」
「うぅ……そうよね……」
さっきまで誤送信は危ないって部下に言ってた人、どこ行った?
恋愛になった瞬間、自分が一番危ないのほんとずるい。
[LIME:アカネ]
『ごめんなさい、今のちょっと誤送信です』
『感謝のつもりだったの』
いやいやいや。
大好きのほうは訂正しないのかよ!
それはそれで心臓に悪い!
[LIME:シュン]
『びっくりしました』
『でも、すごく嬉しかったです』
『俺も、アカネさんのこと大好きなので』
「ひゃっ……!?」
養母がその場でしゃがみこんだ。
耳まで真っ赤だ。
「真守くん、ちょっと無理。いま顔見られない……」
いや、こっちだって無理なんだけど。
リアルで真っ赤になってる母さんも、
LIMEで素直に照れてるアカネさんも、
どっちもかわいすぎる。
誤送信ひとつで、
俺の心臓だけが今日も大事故だった。




