第12話 声、聞いてみたかった
「会議前にマイク設定は必ず確認。音声事故がいちばん気まずいんだから」
オンライン会議の画面の向こうで、部下が慌ててマイクのアイコンを見直した。
仕事中の養母は、今日も抜かりない。
でも、その夜。
その慎重さは、LIMEの通話ボタンひとつで吹き飛んだ。
[LIME:アカネ]
(通話が開始されました)
は!?
待って待って待って!
通話!?
いきなり!?
いや無理無理無理!
まだ心の準備できてない!
しかも相手、壁一枚向こうにいる養母だぞ!?
情報量が多すぎるだろ!
慌てて切ろうとした、その瞬間。
『どうしよう……声、聞いてみたかったのバレたかも……』
…………。
聞こえた。
今、はっきり聞こえた。
だめだろ、それ。
かわいすぎるだろ。
理性に直撃なんだけど!?
ガチャッ!
「真守くん、終わった……」
うわ、来た!
今日は真っ青だ!
しかも片手で顔押さえてる!
「ま、間違って通話ボタン押しちゃって……その、その前に独り言まで……!」
うん。
しっかり聞いた。
でも今それ言えない!
「どうしよう……聞かれたわよね? 絶対聞かれたわよね?」
「まあ……通話つながったなら、たぶん」
「いやぁぁぁ……!」
養母がその場でしゃがみこんだ。
「声聞いてみたかったなんて、そんなの重すぎるし恥ずかしすぎるし、もう無理……」
いや、重いどころか破壊力が高すぎるだけなんだよ。
こっちは今、
聞いた瞬間から心臓が落ち着いてない。
「大丈夫だって。嫌がられる内容じゃないと思う」
「ほんと?」
「うん。むしろ、嬉しいと思うんじゃない?」
大丈夫だ。
少なくとも俺なら、
いきなり通話はびっくりするけど、
『声聞いてみたかった』は普通に嬉しい。
……というか、かなり嬉しい。
「で、でも、準備もしてないのに……」
「そこは事故なんだから仕方ないって」
「うぅ……」
さっきまで部下に
『音声事故は気まずい』って言ってた人が、
自分で最大級に気まずい事故起こしてるのほんとずるい。
[LIME:シュン]
『びっくりしました』
『でも、声を聞いてみたいって思ってくれてたの、ちょっと嬉しかったです』
『今度はちゃんと準備してから話しましょう』
「ひゃっ……」
養母がスマホを胸に抱えた。
そのまま顔を真っ赤にして、ふらふらベッドに倒れこむ。
「む、無理……。今度って言われた……」
ほらもう次の通話のことで頭いっぱいだ。
早い早い。
「ど、どうしよう……声、変じゃなかったかしら……」
そこ気にするのかよ!
いや、気にするだろうけど!
でも、通話事故で半泣きになって、
最後は次の通話を意識してる養母なんて、
そりゃもうかわいくないわけがない。




