第8話 家族
「いや~、気持ちいいくらいスッキリ負けた!」
「あぁ……でも凹むぜぇ……」
「勝ちすぎてもゲームってのは飽きるからな。ああいう強敵がいるだけでそのゲームの面白さが決まるもんさ」
「…………お前、フ〇ム好きだろ」
「せいかーい」
俺たち二人はカルディアの地上に帰還し、居酒屋で反省会を行っていた。
「つっても、俺たちの動きは良かった。問題はレベリングだな」
「だよなぁ……。俺たちはベータテスターじゃないから情報なんてないし、あったとしても先に行かれてリソースは狩られてるだろ」
「……だから俺たちがやるべきことは一つ」
「「俺たちだけの狩場を見つける」」
ガイアとは正式にフレンドになり、そのままパーティを結成した。前衛二人のバランス皆無な構成だがしばらくはこれで大丈夫だろう。
「よし、当分の目的は決まったな」
「マオ、俺は少し残るがお前はどうする?」
「………そろそろ落ちるわ」
「りょーかい、じゃあまた今度な」
「ああ、またな」
リンク切断。俺の意識は現実へと戻り、そこは自宅の自室。
「兄さん、やっと終わった?」
「おーう優也。神作の世界を体験してきたぜ」
弟の緒方優也。俺とは違い成績優秀スポーツ万能の秀才。学校でもかなりの人気者で、男子の中ではトップだろう。
ヤンキーと間違われる俺と双子の兄弟だと知るやつは殆どいない。
「晩御飯出来てるよ、降りてきて」
「ほーい」
一階に降りると鼻孔をくすぐるかぐわしい匂いが満ちていた。
「ビーフシチュー……」
「玲真、冷めちゃうわよ」
「分かった……いただきます」
今の俺は優也、母との三人暮らし。父は遠いところに単身赴任で家にはいない。
たまに帰ってくるがすぐに仕事へ行ってしまう。……まあ、嫌いではないが。
「そういえば兄さん、僕彼女できたよ」
「ぶふっ⁉」
「そんなに驚く?」
「あ、当たり前だろ! 彼女っておま……誰?」
「椎名さんって知ってるでしょ? あの人だよ」
「…………椎名……椎名……椎名……椎名……うーん……」
俺が頭を超高速で捻らせていると、優也は半ばあきれた様子で。
「流石に覚えてないか、話したこともないでしょ」
「…………まっっったく覚えてない」
「だよね。一応うちの学校じゃ有名人だよ? 優しい性格が取り柄で、中には女神様って呼ぶ人もいるぐらい」
「あっ、女神様親衛隊って……」
「そうそう。彼女の取り巻きだよ」
「へーっ……」
親衛隊は一応覚えている。いつも休み時間に広場で女神様万歳運動をしていて迷惑な奴らだと記憶しているが――――――。
「つか、なんでその女神さまと付き合えてんだよ。お前」
「さぁ? 彼女から告白してきたから何とも言えないよ」
「はーっ、モテる男は違うねぇ」
「…………でも、良いことばかりじゃない気がするんだ」
急に優也の顔が真剣になった。こういう時の顔は俺に似てるんだよな、という思考は流しておいて。
「さっきの親衛隊、彼らにバレたらいよいよマズい。僕の学園生活が地獄になるくらいには被害を受けるだろうね」
「いやいや、流石にそれは……」
「兄さんも前に聞いたことあるでしょ、【大厄祭】っていうイベント」
「…………」
確かに、本当に何度かだけ聞いたことがある。友人からの都市伝説という話題で。
そう、あくまで、あくまで都市伝説。そうで無くてはならない内容だ。
「一年前、僕たちが入学してすぐの……集団リンチ事件」
「ああ、学校側は何も言わなかったから、俺たち生徒も都市伝説として扱っている話だ。表向きはただの喧嘩……でもまさか」
「うん。僕も気になって調べたんだけどね、事実の可能性が高い」
「…………マジかぁあ……それで、そのリンチされた奴ってのは?」
「椎名さん……女神に告白した男」
「そりゃあ二の舞になりそうな話題だが、安心しろ優也」
「?」
「もしブン殴られたら俺を呼べ。そしたら十人だろうが百人だろうが叩きのめしてやる」
「…………兄さん。兄さんがそれをやりそうだから心配してるんだよ」
「優也」
何も喋らなかった母が口を開いた。かなり声のトーンは低い。
「もし何かあったら私にも言いなさい。全員拳骨するから」
「母さんまで……」
「はははっ!」
家族団欒。会話の内容はかなりめでたく物騒だったが、それは置いておこう。
たとえゲーマーでも、この時間は大切にしなければ。




