第7話 ボス!
「せあっ!」
『グガァ……』
これでコボルト二〇匹目、そろそろボス部屋に近付いてきただろう。
「なあ、マオってリアルで武術でもやってたのか?」
「剣術を少々……なんで?」
「いや、動きが素人じゃないっていうか、迷いがない攻撃というか……」
「なるほど、見て分かるのか」
確かにフルダイブは現実の動きを簡単に行える。逆に言えば、イメージ出来ない動作は容易には行えないということ。つまり、リアルでの経験がものを言うのだ。
この世界では確実に武術経験はアドバンテージと言えるだろう。
「……ガイア、あれだな」
「ああ。あれだ」
長い廊下の先に、大きな扉――――――いやもう城門サイズだな、コレは。
剣士二人で倒せる相手ならいいのだが……道中の敵もコンビだから切り抜けられたという状況が何度かあった。ソロなら確実に死んでいただろうという窮地が。
現在俺たちのレベルは二。このダンジョンの推奨レベルは一〇。……かなりの無茶だ。
「ボスは恐らくレベル十五クラス……勝てる保証はないな」
「それでも、行こうぜ」
「…………ああ!」
初級ダンジョン、暗闇の巣窟第一階層ボス《グレイコボルト・アークナイト》。
レベル二五。――――――対象レベル、二〇×四。
「……おいおいマジかよ、レベル二五……⁉」
「クソッタレ! 初級詐欺じゃねェか!」
背後の門は閉じた、退路は無し。なら出来ることは二つだけ。
「死ぬか、進むか……行くぞ、ガイア!」
「ちくしょう、やってヤラァ!」
『――――――――――――グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼』
「っ……!」
耳がお陀仏になりそうな轟音。それがただの咆哮だというのだから……。
戦力差は絶望的。これは完全に詰んだ。
敵は身長六Mの人狼。右手に大剣、左手に大盾のオーソドックスな騎士タイプ。どうみても初心者が勝てる相手ではない。それでも!
「最後まで抗うだけだ!」
「ド根性ォッ!」
片手剣ユニークスキル、《ヴォーパル》。コイツには速攻での連撃しか対抗手段がない。
「そのデカ腹に風穴開けたるわ! ――――⁉」
回転とともに打ち込んだその刺突は硬い表皮に阻まれ、瞬時に反撃が叩き込まれる。
「危なっ!」
「こん畜生っ……ウラぁ!」
ガイアの垂直斬りも同様に防がれた。火力だけなら俺より上なはずの一撃がまるで効いていない。これは本当に、万事休すというやつだ。
「クソッ。レベル制MMOはこれだから……。数値がものをいう理不尽には腹が立つぜ!」
「マオ! 完璧に効いていない訳じゃないぞ、少しずつだけどHPが減ってる!」
「…………とことん攻めるぞ!」
「シャおら!」
『ゴォオ……』
(溜め攻撃……両手で握ったということは、回転斬りの範囲攻撃!)
「飛べ!」
「っ!」
『ガァアアアアアアアアアア‼』
「せぁああああああああああ‼」
一撃まともに受ければ確実に死ぬ。その確信がある。
「なっ……」
「あらっ?」
『グァアアアアアアアアアアラァアアアアアアアアアアアア‼』
……二連撃――――――⁉
そうだ、両手剣の二連撃はあらゆるゲームで採用されているだろ!
その可能性を考えなかった……。これで終わりなのか――――――。
「…………あれっ?」
何故か、俺の右手は動いていた。もう俺は完全に諦めていたのに。
身体は諦めてなんか、いなかった。
『ガ……?』
「……パリィ、成功……」
「マオ⁉」
「悪あがき、させてもらうぜェ⁉」
『ガァルル!』
「――――――うぐっ……」
俺の身体は横一文字に切り裂かれた。上下の半身が別れ、宙に漂う。
「これで、最後……! せ、ぁあああああああああああああああッ‼」
右手に黒鉄の片手剣を構え、そのまま人狼の左眼を切り裂いた。
「マ――――――」
「…………ワリ」
ゲームオーバー。YOU ARE DEAD――――。
身の程知らずの弱者二名は、圧倒的な強者によって叩きのめされた。




