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ダラダラ高校生のVRMMOプレイ録  作者: 乙川せつ
前章

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第57話 血戦の時来たれり、我は剣を執る者なり。

『第二試合が決着しましたが、ここで悲しいお知らせです。なんと、殆どのチームが棄権しました! …………私は英断だと思います。あの、グランベルク選手と緒方兄弟を止められる生徒はいません。次は決勝戦、一時間後にお会いしましょう』


 前代未聞。


 こんなに早く決勝戦が決まることはなかった。

 魔導高50年の歴史において、ただの一度も。それほど、三人の力が飛びぬけているのだ。

 彼らの間に入れる魔導士は、誰もいない。


「………優也、お前熱くなり過ぎだ。一人で勝負決めやがって」


「ごめん……でも、後悔はないよ? それに相手は一人だったんだから」


「それでも、だ。チーム以前に兄弟だろ、頼れよ」


「ありがとう、兄さん」


 玲真は優也を落ち着かせ、待機室へと戻る。

 二人が椅子についたとき、優也の疲れはピークに到達した。

 ぶっつけ本番の旧式詠唱魔法を試したのだ、無理もない。


 優也は眠りの中で、過去の記憶を見ていた。


 一番幸せだと思う、あの頃の記憶を。


「お兄ちゃん! 肩車して!」


「ユナももう中学生でしょ。僕そんなに力強くないよ」


「えーっ、お願い!」


 やれやれ、と結局折れた優也は妹を肩に乗せて歩き出す。

 流石に重いなという感情を押し殺しながらその公園から家へと帰宅する。

 家が見えてくると、目の前に玲真が現れた。


 スーパーのレジ袋を持っているため、買い物に出ていたようだ。


「おいおい、優也大丈夫かよ。ユナももうデケェんだから」


「むぅー。わたしはそこまで重くないよぉ」


 兄妹三人で笑い合う日々。

 それも、長くは続かなかった。それから一年後、父とユナが死んだ。


 自分の目の前で。


 顔も見えず、シルエットだけ。人間ではなく、まるで龍のような姿。

 その化け物に妹は殺された。


 そして、託された。


 願いと、力を。


「………夢か」


「おい、平気か? うなされてたぞ」


「うん、大丈夫だよ。……まさか、これが決勝戦になるとはね」


「そうだな……。でも、目的は変わらねぇよ」


「だね」


「やるぞ、優也。俺達で母さんを守るんだ」


「うんっ」


 二人は拳をぶつけ合い、覚悟を決めた。

 優也の魔法は妹の願いそのもの。

 人を、家族を守るための力。誰かを救うための、想い。


 光を纏い、遠くまで届ける一射。


「やろう!」


 ◇◇◇


「…………ここは」


 水崎百合香が目を覚ました場所。

 そこは競技場に設置されている医務室。優也との試合が終わった直後、ここに運ばれたのだ。

 虚ろだった彼女の意識も徐々に鮮明さを取り戻していく。


 そして、自分が負けたのだという結論へ辿り着いた。


「そっか……負けたんだ、私。……嫌だなぁ、悔しいなぁ……ここで勝っていれば、緒方くんが彼女と戦うことも無かったのに……」


 自然と口から零れ出た言葉に彼女自身が驚いた。

 まだ、緒方優也のことが好きなのか、と。


『もういいと言っているんだ。……ガッカリしたよ、貴女は高潔で、正しさを持っている女性だと想っていた―――でも、貴女より椎名さんの方が何倍も清く美しい!』


 初恋の人にあそこまで言われて、幻滅されて。


 それでも、まだ好きなのかと。


 二人が出会ったのは、一年前のことだった。


 ストーカーに付き纏われ、心が折れそうになっていた彼女を救ったのが、優也だった。


『大丈夫ですか? ……もう、大丈夫ですよ。――――僕が居ますから』


 彼女はその時、初めて恋をした。

 それでも、それが叶うことはなかった。


『私、緒方君に告白しようと思う』


 友人である椎名からそう言われた時、彼女は葛藤した。

 私から取らないで、とは言えなかった。


 彼は私のものだから、とは言えなかった。


 ただ、『そっか、頑張って!』としか言えなかった。


 そして、後悔した。


『私、彼と付き合うことになったの!』


 笑顔の報告を聞き、彼女の内心は荒んでいった。

 あの時自分を助けてくれたヒーローは、もう私のものではないのだと知ったから。


 そんな中、シルヴィア・グランベルクによって要求された緒方玲真の引き渡し。


 彼女は玲真さえ引き渡せば優也はいらないと言った。水崎百合香はそれを信じた。信じるしかなかった。


 僅かでも、可能性があるのなら。


 彼を、自分のヒーローを助けられるなら彼の片割れを差し出そうと。


 二人を倒して、一回戦で戦いを終わらせる。

 その為に無理矢理試合を組ませたのだ。


「……もう、終わりね。なにもかも」


「――――――あんまり、俺たちを舐めないでもらおうか」


 医務室で一人絶望する少女に声をかけたのは、彼女が助けようとした少年―――ではなく、その兄。


 緒方玲真だった。


「緒方……玲真君?」


「優也から聞いたよ。アンタらが俺達を売ろうとしたってことは」


「…………そう。恨みでも言いに来たのかしら?」


 罵倒されて当然、そう考えていた少女に向けられた言葉は……予想だにしなかったものだった。


「怖かったろ」


「……えっ?」


 玲真の瞳はただ、憐れむように儚げだった。

 まるで涙を堪える子供のように。


 他人の苦しみを知れる人間の眼。


「どうして……どうしてっ! なんで私を責めないの! 私たちは貴方を売った、なのになんで、どうして……!」


「もう、大丈夫だ」


「……!」


『もう、大丈夫ですよ』


 兄弟の影が重なる。


 少女の目に、ヒーローが映る。


「ここには、俺がいる。俺が全部、終わらせる。……だから、もう大丈夫。安心して休んでろ、生徒会長」


 玲真が医務室を出ると、優也が待っていた。


「ありがとう、兄さん。会長を責めないでくれて」


「……胸糞わりィだろ、それじゃあ。まあ、それだけだよ」


「それでも凄いよ、兄さんは。……ありがとう」


「「―――行くぞ‼」」




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