第58話 開幕鮮明
『前代未聞の決勝戦、あらゆるライバルを戦わずして蹴落とした三人の英傑――――この場に揃った者たちは、修羅か、悪魔か!』
実況の声がスピーカーで轟く。
玲真はこれを上手い、と感じた。盛り上がりを一気に最高潮へと持っていき、観客たちの注意を戦場へと注ぐ。
放送部の一生徒である彼女も、この場では闘士なのだろう。
『さぁさぁ幕開けだ、野郎ども! ――――――こいつらは、戦いの中で優しさを見せた。憐れに想うか、永久に願うか!
来いや来いや化生の二人、緒方玲真&緒方優也の双子コンビ!』
二人の眼は鋭く、まっすぐだった。
その視線は一キロ先の敵へと向けられる。
『対するは、転入直後に大舞台で結果を見せた怪物! ――――三人を一撃で倒し、反撃すらさせなかった現代の王者!
面を上げろ、その眼を知らしめろ! コイツは止められないぜ!
――――――シルヴィア・グランベルクーーーーッ!』
その眼に光はなく、ただ目的のために動く人形のようだった。
一人の人間がする眼ではない。
人間ならば、その眼はできない。
この者は生まれた時から人形だったのではないかと疑う程、精巧な造り物。
兵器だった。
『それでは早速……試合……………………開始‼』
速攻。
緒方玲真が走り出す。
そして、その後ろで優也が術式を組み上げる。
一回戦と逆のフォーメーション。
しかし、それを嘲笑うかのように…………白光が爆ぜた。
「スターバースト・ブレイカー」
◇◇◇
優也の想定通りだ。
アイツは最初っからこれを使ってくると!
「分かっているなら、対処は出来る!」
――――術式命令。
魔力による身体強化、完了。
術式発現。刀剣魔法ロード、完了。生成開始、構築開始。密度最低条件クリア、許容限界をクリア。
術式精密動作終了。
確率乱数の調整を視野に術式再構築。
刀剣生成完了まで三秒。
―――――――――――――――完了。
「『刀剣魔法』
≫攻撃来ます。衝突まで残り十秒。
充分。
刀剣魔法の内部構築式を変奏。
術式改変、術式確定。刀剣魔法基準、基礎術式構築。
マテリアルソードの最低構築精度を底上げ。
「術式確認」
第二術式認識、完了。追加魔力装填完了。余剰魔力の制御を確認。
術式完全構築完了。
≫マテリアルスラッシュの術式、完成。
「――――――『風刃』」
かつて相対した敵、グレイコボルト・ダークパラディンが使用していた武技『風塵』を元に編み出した剣技。
魔力剣に乗せた余剰魔力を斬撃として押し出す技。
『閃光の鋭斬』ほどの威力はないが、簡単に出せる「飛ぶ斬撃」として成り立っている。
術式を何重にも構築しなけらばならないが、Aliceのサポートで何とか高速化が可能だ。
エネルギー砲撃を打ち返すことも、斬ることも出来ない。
だが、受け流すことぐらいなら出来る。
「せあっ!」
無理に受ける必要などないのだ、ダメージが少ない方がいいに決まっている。
『な、なんと! あのトンデモウルトラ砲撃を弾いた⁉ やっぱり化け物だぜ緒方玲真!』
「うっせ………優也!」
「オーケー!」
優也が今構築した術式は、水属性の砲撃魔法。
「術式発現、『水属性砲撃魔法!』
バランスボール程の大きさになった水弾が敵へと放たれる。
しかし、アイツはそれを避けて見せた。
「ちっ、流石に早い……」
「もう一発いくよ!」
俺も『風刃』を再装填し、牽制として放つ。
届く距離ではないが威嚇としては充分だろう。
優也の水弾が当たることはなく、シルヴィア・グランベルクは徐々に距離を詰めてきた。
「………待てよ?」
何で今、アイツは寄ってきているんだ?
あの馬鹿げた砲撃をバカスカ撃ちまくればいいだけだろ。
……………………出来ない、のか?
まさか――――――。
「優也、砲撃を止めろ!」
「えっ、どうしたの⁉」
俺の推測が正しければ――――――。
「アイツの魔法は周囲のエネルギーを弾丸に変える魔法じゃなく、周囲のエネルギーを操る魔法だ!」
「…………? 何が違うの?」
「全然違う! 俺達の固有魔法みたいな形が決まったものじゃなく、アイツの魔法は無形………つまり、自分の意志で周囲を操作できるんだ!」
「……まさか……!」
優也も、俺と同じ結論に至ったらしい。
恐らくこれは当たる。
悪い方の予測は結構当たるんだ。
「――――――そろそろですか」
その声が耳に届いたとき、俺達の警戒が引き上げられる。
「『反作用跳躍』」
魔法名だと思われるその声。
また何が来るか分からないが故の恐怖が燃えていく。
剣を構え、備える。
だが。
ビュン、という風切り音が聞こえた瞬間。
「―――――――――――――――は?」
「終わりです」
「兄さんッ!」
ソイツは俺の目の前にいた。
瞬きの僅かな時間で、距離を詰めてきた。
10㎝もないであろうその距離。顔と顔が触れそうな程近い。
そして、痛みが響いた。
「―――っ⁉」
シルヴィアの蹴りが脳天に炸裂したのだ。
意識が遠のく。
視界がブレる。
声が消えていく。
願いが、潰えていく。
意識の果てに、その男が立っていた。
『よっ』
―――――――――――――――…………親父…っ?




