第55話 水氷乱舞
「大規模水魔法!」
「大規模氷結魔法!」
(威力は同等―――でも、相性が悪い!)
優也が出した水を、水崎は自慢の氷魔法で氷結させる。
彼女の発動速度は優也と同等かそれ以上。
そのため、後出しが成立してしまう。
(なら、これでどうだ)
「対人水槍魔法」
優也は瞬時に解決策を見つけ出した。
《リヴァイアサン》は自身から津波を発生させる魔法。威力・範囲ともに申し分ない魔法だが、氷魔法とは相性が悪い。
しかしこれは、凍らされても関係ない。
優也から離れ、魔力の推進力で飛ぶ水の槍。
これを凍らせてしまえば、不利になるのは水崎百合香の方だ。
単純な話、氷の方が硬いのだ。
「くっ……」
水崎百合香もそれを理解し、水の槍を身体能力で回避する。
優也がそれを見越して数十本の水槍を生成するのに、そう時間はかからなかった。
「対人水槍魔法群!」
それらは一気に水崎へと放たれ、水の弾幕が彼女を襲う。
「―――――――――――――……大地氷結魔法」
それは地面を凍らせる魔法。
それだけでは意味がない。しかし彼女は、もう一つ魔法を使った。
「座標固定、対象認識、空間把握。――――――――氷結操作束縛魔法!」
地面を覆っていた氷が形を変えて鞭のような形状へ。
そしてそれらが水の槍に触れ、瞬時に凍結させる。彼女とて、水魔法に対する対抗策は考えていた。
今まで、使う相手がいなかっただけで。
しかし、彼女の目の前にいる少年は――――強い。
理不尽に耐え、抗う覚悟を秘めた眼を持つ男に水崎は淡い感情を抱いていた。
それはおそらく、『恋』。
もちろん、友人である椎名が彼と恋仲なのは承知の上。だが、初恋というやつだ。自分でも感情の制御が追いついていない。
緒方優也は実に罪作りな男である。
「緒方君……やっぱり、きみは強いわね……でも、私は負けない。負けられない。
この学校と――――――きみを救う為に!」
「…………」
水崎の中で、記憶が再生される。
それはシルヴィア・グランベルクと対面した時の記憶。
「ばっ、馬鹿なこと言わないでください! うちの生徒を寄越せだなんて、そんなこと許せるわけないじゃないですか!」
その時、水崎は怒っていた。
自分たちの仲間を奪おうとする者たちに。
そしてそれを黙認しようとする教師陣に。
「水崎……私だって不本意なんだっ……だが、もうどうしようもないんだ。
これは決定事項で、変えられない。変えようとしても、消されるだけなんだ」
「消される……?」
「失礼します」
生徒会室で教頭と口論していた時、彼女が入ってきた。
「私がシルヴィア・グランベルクです」
「……貴方たちの要求を飲めるほど、私は大人ではありませんよ」
水崎の威圧をもろともせず、シルヴィアは話を続けた。
「本国が欲しがっているのは、緒方玲真のみ。弟と母はできれば、といったところでしょうか。つまり彼さえ手に入ればこの学校にはもちろん、彼の家族にも手を出しません。どうでしょう、いいご提案だと思いますが」
冷たい微笑。
完全に下に見ている。
それが演技だとしても、これはアメリカの本質なのかもしれない。
第二次世界大戦後、日本を植民地のように見ている国の軍人。もう三百年も前のことなのに未だ自分が上だと思っている者たち。
「………っ」
水崎は一目見て分かった。
勝てない、と。
自分では彼女……目の前の軍人には勝つことが出来ない。
自分以外でも、それこそ教師たちだろうが不可能だ。緒方玲真の魔法がどれだけ強力であろうと、この者に勝つことが出来るのだろうか。
「……一つ、条件があります」
なら、彼女に出来ることは一つだけ。
「緒方玲真以外の生徒及びその関係者に攻撃しないで下さい。……お願いします」
頭を下げる。通常なら、無理を言うシルヴィアがするべき行動だろう。
だが、立場の弱い水崎ではそうもいかない。
「分かりました。その条件でいきましょう」
「ありがとうございます」
(―――……これで、彼は救われる)
友人の彼氏。ただそれだけの繋がり。
でもその恋心は、簡単には捨てられない。
優也を守るためならば、その兄だろうと差し出す。
それが、少女の覚悟だった。
そして現在へと戻り。
「『弓』――――――」
優也が固有魔法を発動した。




