第50話 妖精修行③
「飛剣」
空から落下する玲真。天からの恵み、重力を武器として威力を倍増する渾身の振り降し。
それこそが、飛剣壱の型――――――。
「――――――〝天照〟」
日本神話、その神の一柱。
太陽の神であるその名を関する一撃は、太陽の光に背を向けている。
しかし、光の下に墜とされた一振りの剣は妖精の虚を突いた。
「レイマ⁉」
(空から⁉ 爆音と煙で場所が分からなかった……でも、見える)
フィリアは天より飛来する者に目を向け、構える。
「ちっ」
(完璧に場所バレたな……)
優也と玲真の作戦は、奇襲。
そのために優也が煙と爆音でフィリアの感覚を遮断したのだが、フィリアにとって、その作戦は一手足りないのだ。
一手。
何かが足りない。
「このまま突っ切る……!」
(――――身体強化!)
術式発現。
緒方玲真の中で生成された魔力が限界以上に奔り回り、その素体を補強する。
「魔力衝撃波!」
玲真の多用する基礎一工程魔法。無属性に類するそれは、一瞬で発動が可能。
そしてさらに、連続発動も可能だ。
「魔力衝撃波・双双!」
二つの衝撃。
人間の身体が更に加速していく。人に許された限界を越え、神の爪に触れた。
だがそこは、妖精が通過した場所だ。
「【マテリアル・シールド】」
(【結界】……⁉ 優也の盾とも違う――――全周囲を守っているのか!)
攻防隙が無いその魔導士。だからこそ、付け入る隙はある筈だ。
「受けてみろよ!」
一撃。
玲真の光剣がフィリアの結界に炸裂する。
しかし。
「……!」
傷一つ、ヒビすら入れられなかった。
だがそんなこと分かり切っていた。明らかにレベルが違う戦い。ならどうするか?
醜く無様に泥臭く!
「優也!」
「分かってる!」
「「魔力衝撃波!」」
(魔力の波、ですか……単純でも危険ですね。波の増幅が狙いなのでしょう……受けたら失神です――――――受けたら)
「よいしょっ」
妖精が、飛んだ。
ただの脚力で、玲真と同等の高さへと飛んだ。玲真は複数の魔法を複合しなければ高さを確保することが出来なかったというのに。
「双剣術」
だが、少年の眼は死んでいなかった。
爆風と土煙に汚れ、身体に傷がついても。その男は、止まらない。
「〝激烈漸撃〟――――――!」
超高速七連撃。身体強化を伴ったその技は、仮想世界のものと同等。
パキ……と、音が鳴った。
「……もう割れますか」
(自分が非力なのは自覚していますが、まさかここまで脆いとは)
フィリアの自虐は少しズレている。先程の技は玲真が「大敵用」に考案した奥の手。これを使うということは、使わなければ勝てないと考えたからだ。
「一撃……!」
それが届かない。たったの一撃も、触れることが出来ない。
(これが、フィリアの強さ……一人の強さなのか? 一人で守って、一人で燃やして、一人で避けて……逃げて)
こんなに強くても、少女は泣いていた。
(強いだけじゃダメだ……でも俺には、家族がいる!)
「――――――術式解凍……《対人氷結捕縛魔法》!」
優也の氷縛が、フィリアの結界を捕らえた。
外側から圧迫することで亀裂が広がり、結界は端から崩壊していく。
そして、妖精が出てきた。
「【グラディス・イグニア】」
再炎。
「……何だ、あれは……」
先に気が付いたのは優也。そして玲真も遅れてその異変を感知した。
フィリアの炎が、杖を包んでいる。
まるで剣のように、杖のように。
「玲真の魔術を真似してみました。意外と難しいですね、これ。……【火炎付与】といったところでしょうか」
「クッソ……成長しやがった!」
「マズい……」
この一瞬で、二人の動きが静止した。
つまり、不意打ちは不可能。
そして妖精は、近接武器を獲得した。それらから導き出される結論は――――。
敗北。
((……ざっけんな……))
シンクロ。
その深さは、100%。
双子の絆。血の契り、盟約、契約、制約、誓約、決意、覚悟。
「絶対に…………」
「負けねぇよ……!」
誇り。
プライド。
意地。
「「魔力完全解放!」」
殲滅級、もしくは国防級に類する魔導士は常に魔力の出力を制限されている。
それは殲滅国防軍の上層部によるものだが、魔導士本人の意志で外すことが―――出来るはずもない。
だが、この兄弟にとって外すことは容易。
あまりにも大きすぎる魔力は、限界を超越した。
「これは……マインドの限界出力? こんなに多いなんて――――規格外です」
「「まだまだここからだ、フィリア!!」」
「……いいでしょう、かかってきなさい」




