第49話 妖精修行②
「作戦は今言ったとおりに。」
「オッケー」
先ず、優也が視線を引き付ける。
◇◇◇
「こっちだ、フィリアさん!」
「優也君……玲真はどこですか?」
二人の予想通り、フィリアは制止した。
狙っていたうちの片方しか出てこない状況に僅かな動揺が芽生えたのだ。
しかし、すぐ冷静になる。
「なるほど。貴方が私の気を引き、玲真は一撃の為に隠れているのですか」
「っ……」
(バレてる……そりゃそうか。フィリアさんは百年生きたエルフの魔導士……経験値の差があるのは当然だね)
優也は驚きを顔に出さず、冷静に判断を下していく。
「……考えろ」
(僕が使うべき魔法、技は何だ。いや、兄さんじゃないんだ、強い一撃なんて考えるな。僕がやるのは誘導と――――――)
「【グラディス・イグニア】」
「っ、 無詠唱でも放てるのか……!」
自分たちがそうしているからか、それほど大きな問題でもない。
だが、詠唱があるかないかでは対応が大きく変わってくる。詠唱があるなら、小さな魔法を速攻で撃ち込むといった策もあるのだが……。
無詠唱同士の場合は、どれだけ魔法発動が速いかの勝負になってくる。
「障壁魔法!」
防御魔法以外は。
優也が構築した魔法の盾は、フィリアの魔術を霧散させる。
技術体系が根本的に違う以上、防御が通じるかは単純な硬さによって決まる。
玲真の使用する《刀剣魔法》は魔力を圧縮することによって固体に近付ける。そして構築した剣の周囲にチェーンソーのように魔力を走らせることで切れ味を持たせていた。
だが、優也の盾はそれよりももっと固体に近い。
切れ味がない分、剣よりも硬度に魔力を回せるのだ。その硬さは、対物電磁投射ライフルの弾丸でも貫けない程強固なものである。
「……ふむふむ、なるほど」
フィリアの魔術が実体を持たない炎である以上、盾を貫通することはない。
燃えもしない魔力によって作り出される最強防御。
「だいたい分かりました」
しかし、フィリアはその《魔法》に弱点があることに気付いた。
気が付いてしまったのだ。
「その魔術、魔力を圧縮するという性質上あまり大きな盾は作れないようですね」
「っ……!」
(この一瞬で見抜かれた⁉)
「私たちとは違った防御方法ですね。この世界では土や岩の魔法で壁を作るのが基本なのですが……私の魔法を受ける場合、そちらの方がいいかもしれませんね」
「……?」
そして、フィリアの第二射。
「シールド――――――」
「変化弾」
「うわぁっ⁉」
(曲がった……⁉)
「私の魔術は追尾するのをお忘れですか?」
「くっ……」
(防ぐので精一杯だった……お陰で頭から抜け落ちてたよ。でも、思い出した)
優也の背後で、木が一瞬で燃え尽きた。
「これで、どうだっ。《魔力刺突弾》!」
「おっと、いきなりですね」
魔力の弾丸がフィリアを襲う。
だが、躱した。
魔力を用いず、魔術を用いず。
ただの身体能力。ただの経験。ただの勘。
ただの、実力差。
「やっぱり……」
(そう躱すと思った……!)
優也はこの短い時間でフィリアの癖を観察していた。
そして僅かに出る移動の癖、その隙を見つけたのだ。身体能力が高い兄を見続けてきた優也の眼だからこそ出来た芸当だ。
技術とも言えるが、この場合はそう――――《魔眼》。
(――――《心眼》!)
かつて、今は亡き妹が付けたその名。その本人が言うには『かっこいいから!』らしいが、死んでしまった以上もう聞くことは叶わない。
「火炎魔法!」
一瞬で放てる魔法の中で最大の火力を持つ魔法。だが、これすらも布石にすぎなかった。
「もう忘れたんですか? 私の魔術は炎ですよ。【グラディス・イグニア】」
小さな炎は、大きな炎に飲み込まれた。
そして七つの炎は一本へと収束し、優也へと迫る。
「これで一人。あとはレイマですね」
フィリアはもう決着が付いたと考えた。この世界での戦闘なら、そうなのだろう。
だが、妖精の前に立っているのは異世界の天才だ。
そして、兄は弟を信頼していた。
(バーカ、優也は考えることをやめねぇよ。俺の弟を舐め過ぎだ)
「……!」
その瞬間、優也が笑った。
出来るだけ炎を引き付け、その魔法を練った。魔力を溜めた。
この魔法を使うために、この一瞬の為に魔力を節約したのだ。そうでなければ、彼がここまで消極的な戦いをするはずがない。
「――――――《大規模水生成魔法》!」
「⁉」
今度は、フィリアが驚愕する番だ。
彼女が放った魔術を魔法が飲み込み、そして――――――。
「爆ぜろ!」
爆ぜた。
水蒸気爆発。原理としては単純で、液体の水が高温の物質と接触することによって気化し、体積が大きくなることで周囲を吹き飛ばすというもの。
だが、フィリアは「それ」を知らない。
この世界は、それを知らない。
すべて優也の作戦通り。炎の魔術を複数回発動させたのも、空気中の温度を高くするため。
木を数秒足らずで灰にする程の高温の炎。いくら超常の魔術といえど、物理法則には従っている。
追尾性能も魔力操作を用いたもの。逆を言えば、動かすだけでも魔力を消費する。
燃やすための炎であるならば、高温であることは必然。
熱すぎることを逆手に取った優也の策。
「煙幕……?」
爆発の直後、森に霧が広がっていく。
それが両者の視覚を遮る。互いの位置が確認できないことによって、フィリアにも危機感が生まれた。
「まさか、ここまで作戦の内……? 試すつもりが、飛んだ誤算ですね。ここまでとは」
その一瞬、フィリアの警戒が優也のみに向けられた。
「今」
遥か上空から飛来する玲真にとって、最大の好機。
「飛剣」
これは、玲真の想像にある技でしかなかった。
「天照」




