第45話 解き放て、魂の真名を以て
「家族が欲しい…………っ」
少女は、大粒の涙を流していた。
何かが崩れたように、解き放たれたように。
「言えたじゃねぇか」
俺が言う資格なんてないのかもしれない。この行動は罪なのかもしれない。
それでも、彼女を助けることに後悔はない。
「フィリア、一緒に来るか?」
「一緒に…………?」
「家族が欲しいんだろ? 俺の家族なら、受け入れてくれる筈だ」
「……いいの?」
「……ああ」
二人とも口調が変わっている。信頼というか何というか、奇妙な繋がりが出来たもんだ。
優也と母さんにどうやって説明するか。もう正直にゲートのこと話した方がいいよな。母さんは俺以上にお人好しだから問題ないとして……優也はどうだろ。
まあ、あいつも優しいから大丈夫か。
「そうだ、一つやらないといけないな」
「何を……?」
「うん? ああ、大したことじゃないんだ。……お前の牢獄をブッ壊すだけだよ」
「牢獄……―――まさか、ここの結界を⁉」
「そうだ」
「む、無理……絶対にっ………! 私が、百年かけても壊せなかったエルフの秘奥を、レベル2のヒューマンが壊せるわけない!」
「やれるさ」
そうだ、やれる。
だよな、相棒。
≫術式解明。魔術名『アヴァロン』の構築式解析完了。
「この結界、アヴァロンって言うのか」
「な、なんで知って――――――」
「今調べた」
俺には最高の相棒がいるんだ。俺に出来ないことを完璧にやってくれる相棒が。
だから、やれる。
「だから、斬れる」
「斬るって……この結界は魔術も阻むのに……どうやって……何をする気なの……」
「フーッ……!」
◇◇◇
心臓に魔力を叩き込み、全身へと循環させる。その速度を徐々に上げ、必要ラインへと持ってくる。
『身体強化』、膂力の向上。
「『刀剣魔法』―――――【大剣】」
あの時と同じ武器を、あの時以上の精度で造り上げる。
魔力によって構築した金色の大剣。
「火花」
魔力の大剣に閃光を撃ち込む。
その光は刃と混ざり合い、溶け合い、融合していく。
刃の周りに小さな光が漏れている。それが空気の酸素を吸い、熱へと変換する。
「『剣』」
限界まで注ぎ込んだ魔力にその『名』を刻む。
というより、内側から引き出したのだ。
「――――――『トリガー・オフ』」
魔法名はいらない、イメージは出来ている。
これで二度目。
ならば、根源たる魔法の想起など最早不要。
妖精の警告など先刻承知。
己が限界など既に悟っている。故に、限界を越えていく。
この言葉に限界など不要。
――――――フルチャージ。
この『光』に絶望など似合わず。求めるは、妖精の笑み。
『轟け、閃光』
解き放て、魂の真名を以て。
「閃光の鋭斬――――――」
放つ。
それは、飛ぶ熱斬。
収斂された閃光は白き光を生み出し、どこまでも進んでいく。
切り開かれた暗雲は天よりの光を差し込み、一筋の未来を見せた。
「……凄い」
そんな少女の呟きが、微かに消えていく。
◇◇◇
ありえない。
ありえない奇跡が、起きた。
「嘘……」
言葉にならない。
魔術と大剣の一閃、それは私の心を晴らした。
その一斬は、Lv.2のものではなかった。最低でも3……いや、5。
「――――――異世界の、魔導士……!」
「……ふぅ、これでOK!」
「ホントに………斬っちゃった……」
唖然とするしかなかった。
その少年は、笑っていた。私にも出来ない威力の魔術を行使しておきながら、何事もなかったかのように振舞っている。
いや、本当に何でもないのだろう。
彼にとっては、数ある手札の一つでしかないのだろう。
『英雄』
その言葉が、自然と思い浮かんだ。
母から与えられた、今現在唯一のこる遺品……それが、英雄譚の本だった。
その中の一冊に、似た話があった。それは逸話として伝えられている幻想にして空想。それでも、その姿が重なった。
――――――天より与えられし加護によって、天を覆う闇を祓う《勇者》。
その一撃。《天撃》と見紛う一斬。
私は、英雄の姿を見た。
英雄の背中を見た。
英雄の顔を見た。
英雄の一撃を見た。
英雄の言葉を聞いた。
英雄と、出会った。
「さぁ、行こうぜ」
「ど、どこに……?」
少年は……私の英雄は、少年の笑みを見せて。
「俺たちの家に!」
「……うんっ」
今は、この人の前では、少女でいようと思った。
この人の隣で歩める、『英雄』に。
お姫様に、聖女に、賢者に、魔導士になりたい。
「ありがとう」
「おう」
Q.異世界の少年が、エルフの少女を救うのはいけないことでしょうか?
A.知るかボケ。




