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ダラダラ高校生のVRMMOプレイ録  作者: 乙川せつ
前章

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第44話 エルフの告白

「私の過去話なんて聞きたくありませんか?」


「……いいのか、それは――――――」


「大丈夫ですよ、話せます」


 少女と少年は、互いの壁を削っていた。

 そして、その厚さは確かに変わっていく。この短い時間でそれほどの信頼関係を築いたのだ。


 もっとも、ハーフエルフを少女と言うかは……。


 ◇◇◇


 私は、エルフとヒューマンの間に生まれました。


 両親はとても仲が良く、エルフの母は二人の馴れ初めをよく話してくれました。

 ハイエルフの里、大神樹の森で暮らしていた母の元に現れた一人の冒険者……それが父だったそうです。


 二人は最初こそいがみ合っていましたが、徐々に心を開いていき……。

 その後、二人は結婚しました。


 母の一族は猛反対し、結局両親は森を出て静かに暮らすことになります。


 数年後に私が生まれ、三人で静かな場所で慎ましく過ごしていたんです。


 しかし、それも長くは続きませんでした。


 母の一族が母を連れ戻しに来たのです。理由は、生贄にするため。


 ◇◇◇


「……生贄?」


「ええ、エルフの首都である大神樹の森。そこにある神樹は妖精と精霊を癒し、この世に循環を齎すと伝えられています」


「……そんな凄いもの、無償で動く筈もなく。か」


「その通りですよ。母の一族は代々生贄の一族。特別優れた魔力を持って生まれる彼らは樹の贄に最適なんだそうです」


 俺は唸った。理由なき迫害なら恨めた、そう思ったのだ。


 だが、エルフにも大義があった。……いや待て。それはおかしい。


 母親が生贄になった、そこまでは分かった。なら何故迫害を受ける。


 理由は、何だ。


「結局、父の反対や守りも虚しく敗れました。母は神樹の栄養となったわけです」


「……それで、何故君が迫害されることになった」


「…………簡単ですよ、血が混じったからです」


「……は?」


 血が混じった、それが?


 それがどうしたというのだ。それが何故、差別される要因になる。


「母の一族で、子供が産めるのは母だけだったそうです。理由は知りませんが。つまり、一族で子を産める可能性があったのは――――――」


「君か」


 彼女は神妙な顔で頷き、その口を開く。

 一言一言を、事実を、俺に伝えるために。


「ですが、ダメだったんです。神樹はヒューマンの血を、混血を、混じり物を許さなかった。つまり、一族の意味が無くなった。

 そして、神樹が崩れた」


「崩れた……? さっき、循環を促すって……」


「ええ。この世は混沌に陥りました。だからエルフは私を恨むし、憎みます。それが、私がここにいる理由です」


 ……何も言えなかった。


 言えるはずがない。エルフたちの言い分も分かる、分かるけど……彼女が、フィリアが受けた迫害もまた事実。


 それを無かったことには出来ないし、してはいけない。


 ……といっても、俺に出来ることはない。


「この森は元々、エルフの罪人を死ぬまで捕らえる牢獄だったそうです。以前いた受刑者も既に死んでいますから、私はここに一人というワケですね」


「ワケですねって……なんでそんな簡単に割り切れてるんだ?」


「……そうですね、時間だけはありましたから。両親の罪も、私の穢れも理解しているし、納得しているんです」


「……そう、か」


 何と言うべきなのだろうか。


 彼女の心は完全に止まっている。凍っているとも言うべきだろうか。


 俺にそれが溶かせるのか?


「……じゃあ、聞くけど。アンタは何がしたい」


「何が……したい?」


「そうだ。エルフだって人間だろ? したいことや欲しいことの一つや二つあるんじゃないか?」


「…………」


 質問に、彼女は黙った。

 考えているのだろうか。……ここで無理に聞くのは愚策か?


 失われた自己肯定感、思考力の回復――――こんなものが効くのかは分からないが、取り敢えずやるだけやってみる。


 ……それに、見捨てられない。


「――――……私に、そんなものありませんよ」


 そう、言うと思った。


 本当に追い込まれてる奴、諦めてる奴は、決まってそう言うんだ。


 俺も、そうだったから。


「第一、私にそんな資格ありませんよ。私のせいで、どれだけ被害が出たか……」


「じゃあ、何で助けを求めたんだよ」


「えっ――――――」


「アンタ、思ったんだろ。誰かと繋がりたいって、愛したい、愛されたいって。

 何百年続くか分からないこの地獄を終わらせてほしいって、そう思ったんだろ!」


「そ、そんなこと……」


「嘘つくんじゃねえ」


「っ……」


 良くわかるよ、アンタの気持ちは。


「死にてぇ、って思ったろ。もう耐えられないって」


「……―――――」


「それでも、死にたくねぇって思ったろ」


 人は僅かな希望を諦められない。


 本当に全てを諦めてしまったなら、もうアンタは生きていないだろ。


「アンタは、誰かの希望たすけをずっと待ってたんだろ」


「……貴方に、何が分かるって言うんですか」


 彼女の身体が震えた。そして、感情が爆ぜた。


「貴方は分かるんですか! 大切な両親が殺されて、連れ去られて……もう二度と会えなくなって……一人でこんな何もない森に閉じ込められて!

 貴方にいったい、何が分かるって言うんですか!」


「わかるさ」


「……?」


「……いや、一部分かるって言うのか。アンタの孤独は理解できないし、することはないだろうさ。それでも、家族を失った痛みなら知ってる」


「家族を……?」


「ああ。目の前で殺されたさ……親父と妹が……それでも、俺は前に進めた。

 母さんと出来た弟のお陰でな。だが、今でも夢に出るよ。二人の死が……。

 俺は絶対に止まりたくない、アンタみたいな人を助けたい。

 だから、アンタが望む「大切」に、俺がなってやる!」


「…………どうして、そんなに前向きなんですか。どうして、出会って間もない私を助けようとするんですか」


 そんな少女の呟きは、家の中で静かに木霊した。

 そして俺の気持ちを、俺に理解させた。


 俺がどうして、こうしたいのかを。


「……さっきも言っただろ。俺には家族がいた、それだけだ」


「…………」


「アンタを助けようとする理由、だったか。……じゃあ聞くけどよ、アンタは困ってる人がいたらどうする?」


「……助けますよ、そりゃ」


「だろ? つまりそういうこった。俺がアンタを助けるのに大義も理由もいらねぇだろ。会ったばっかだしな。

 …………それに、人を助けることに一々理由を持ち出すのは、その行動を後ろめたく思っているからだ。俺は今、何も迷っちゃいねぇよ」


 また少し黙った少女は、下を向きながら口を開いた。


「――――――…………が欲しい」


「……すまん、もう一度頼む」


「家族が、欲しい」


「……言えるじゃねぇか」


 予想より大分早く聞き出せたな。すこし焦っちまったか?


 まあ、結果オーライということで。



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