第43話 半端者のエルフ
活動報告にも書きましたが、タイトルを変更します。
「なぁ、フィリアさん……この森はいったい何なんだ?」
「本当に何も知らないんですね。ここは渦巻きの樹海と呼ばれているエルフの秘境……もう私一人しかいませんが。
ここは迫害、追放されたエルフたちが暮らす森です」
「えっ……?」
迫害に追放、穏やかではないワードだ。
何かしら事情はありそうだが、今聞くことではないだろう。
無暗に人の心を抉るものではないからな。きっと、聞かれたくないはずだ。
「じゃあ、アンタはここで一人なのか?」
「そうですよ、百年は過ぎましたかね」
「百年……だって」
地球人が生まれ、死ぬ程の時間。それほどの時間をたった一人、こんな森の中で暮らしていたと言うのか。
いったい彼女が何故、こんな仕打ちを受けているのか。
分からない。分からない方がいい気がする。
……でも、本当にそれでいいのだろうか。
「……寂しくないのか?」
「私はエルフですよ? ヒューマンよりも長い寿命を持っています。その内のたった百年。別に、大丈夫です」
……嘘だ。
絶対に、確実に嘘を言っている。
寂しくない? なら何故、どうしてそんなに……悲しい顔をしているんだ。
寂しくないはずがないだろう。ずっと一人だったんだろう?
百年もの間、一人だったんだろうが。
「…………」
「着きましたよ、ここが私の家です」
そこは正に、ツリーハウスだった。
大樹の上にある一軒家、という印象だ。相当頑丈な木なのだろう。
「……さて」
家の中に入り、椅子に座る。見たところ罠はなさそうだ。
見知らぬ世界である以上、常に警戒は保っておこう。
「そこまで警戒しなくても大丈夫ですよ、とって食べたりしませんから」
「……そう?」
一瞬でバレた。レベル24と言っていたが、それほど強い気配は感じられない。
いや、違うな。俺が弱すぎるから、強さを分かれないんだ。
「どうぞ、お冷です」
「あ、ども……」
相手は長命のエルフ、絶対に年上だ。さっき百年とか言ってたし。
……でも、見た目は俺と同世代に見える。だからとは言わないが、緊張してしまう。自分が健全な男子高校生なのだと分からされる。
若干自分に飽きれるがな。
「……さっき、気が付いたらここにいた。そう言いましたね」
「あ、ああ」
「嘘ではありませんでした。けど、何かを隠してますね?」
「……凄いな。そんなことまで分かるのか」
これはレベルの差というより、経験の差か。
人生の経験値が違う。
「Alice、ゲートを」
「?」
≫良いのですか、マスター?
「ああ、構わないよ」
≫了解。
「あの、誰と話して……」
「ほい」
あちらの世界、地球へと繋がるゲートを開いて見せる。
「……これは?」
「異世界からのゲート。俺は別の世界から来たんだ」
「……にわかには信じられませんが、どうやら本物のようですね」
「信じるのか?」
普通、こんな話を信用しないと思うのだが。
なにせ会ってすぐの奴だ。
「私はエルフですよ。術式理解なら出来ますから」
「ああ、そういうこと」
さっすが魔法種族。こっちではどうか知らないけど。
どうやら地球で知られるエルフとほぼ同じのようだな。
「……だから、私を見ても大丈夫なんですね」
「……?」
『私を見ても』?
さっきから謎が増えていくばかりだ。俺はどうしたらいいのか分からない。
「……なあ、フィリアさん」
「フィリアで結構ですよ」
「じゃあフィリア。……俺と、友達にならないか?」
「えっ――――――」
あ、やべ。選択肢ミスったか。
「どうして、そんなこと……」
「聞く限り、アンタ友達いないんだろ。寂しさ、抱えてんだろう?」
「……っ」
「少しでも、和らげばいいなって」
◇◇◇
「俺と、友達にならないか?」
そんなこと、言ってくれる人はいなかった。
今の今まで。
同族からも迫害され、故郷から追放されてここに来た。
でも、誰もいなかった。
私はここで死んでいくのだろう、長い時間を孤独に過ごすのだろうと考えていた。
それを出会ってすぐのヒューマンが打ち砕いた。
異世界人だと言うが、それはどうでもいい。彼は私の氷を溶かしてくれる。そんな予感がする。
自分でも驚いているのだ、他人に期待していることを。
「貴方は、私を助けてくれますか?」
私がそう言うと、少年は少し困った顔をした。
そして、道化のような笑みを浮かべて。
「まあ、出会ってすぐだ。絶対とは言わない、でも……友達なら、助けるさ」
「……ふふっ」
私は、百年ぶりに笑った。
笑えたのだ。人との繋がりが、まだあるのだ。
――――――半端者が、恥を知れ!
――――――恨むなら親を恨めよ、半分ヤロウ!
――――――人とも思わん。
――――――汚らわしい。混じるなどと。
蘇ったのは、かつて自身へと向けられた言葉。
「私は……『ハーフエルフ』です」
この少年になら、私を語ってもよいのだろうか。
「ハーフ? 混血ってことか?」
「はい。エルフは私を差別し、嫌います。それほど自身の種族に誇りをもっているんですよ、彼らは。だから半端な私を糾弾し、この場所へと閉じ込めました。
…………………………一族の恥、だそうです」
「ほうほう、なるほど」
少年の笑顔が引き攣っている。
怒っているのだろう、だがそれは私にではなかった。
「……ハハッ、随分なクズ共じゃないか……ブチ殺してやりたくなるなァ」
「……!」
先程見た優しい笑顔とは違う、純粋な殺意が宿る笑い。
私みたいなハーフにも共感してくれるのか、と興味が湧いてきた。
彼ら純血に殺意を持っているのも不思議だ。自分は何もされていないだろうに。
「……アンタがどれだけ苦しんだのかは知らない。でも、俺が一緒に居てやる」
「――――――……本当ですか?」
「ああ、絶対だ」




