第39話 閃光の鋭斬(エクス・フローガ)
「楽しもう……そうだ、楽しむぞ!」
ボス戦の前、ガイアに言ったよな。『頑張って楽しめ』、と。
さあ、いくぞ。
彼女に勝つためとも言わない、生き残るためとも言わない、名誉と誇りのためとも言わない。
ただ、俺のために。夢と希望のために。
「〝火花〟‼」
燃えろ、鬼よ。
『……っ』
初めて苦悶の声を上げたな。
ここからは意地だ、絶対に諦めてやるもんか。俺が憧れた人のように、大切な人を守れるように!
使えるモノはすべて使え。俺を構成する要素を総動員するんだ。
「刀剣魔法、大剣」
身の丈を上回るほど巨大な大剣。
普通ならこれを使うことは出来ないだろう。だが俺には強化魔法がある。
『……――――――ッッッ‼』
その瞬間、俺を五色の光が襲う。
「せあっ!」
造り上げた大剣で一つを薙ぎ払い、残りの四つは回避する。
――――――今のは。
≫精霊魔法。その名の通り、空気中に漂う五色の精霊を操る魔法です。
マスターが使用する魔法よりも発動速度に長けており、威力も高く隙がありません。
なるほど、これが精霊魔法か。
というか精霊って何だよ、空気中?
見えない魔力の存在か?
≫精霊とは異相に存在する思念の生命体です。
俺の考えを読んだらしいAliceの答えに納得は出来なかった。
身体のない生命体?
そんなものがいるのか?
まったく、ダンジョンっていうのはイレギュラーに満ちているな。
「……おいおいマジかよ」
オーガは漂う精霊を自身の剣へと集め、両手で構えた。
――――――既視感。
「来るっ」
『……――――――!』
飛ぶ斬撃。先程と似ている。
しかし複数の色を含むその刃は俺の危機感を膨らませた。
これはやばい。
そう感じ、直ぐに軌道から避ける。
いかに威力が高かろうとも、触れなければ傷を負うことはないだろう。
「これでっ……」
次の瞬間、石造りの部屋が揺れた。
一撃。たった一撃で、部屋そのものが両断されたのだ。
……さっき当たらなければとか思ってたけど、違うわこれ。
「掠っても死ぬなァ……!」
≫解析終了。今の技の仕組みが判明しました。
「仕組み? ただの風圧じゃないのか?」
≫正確に言えば、風圧そのものを精霊によって《強化》することで威力を爆発的に高めたのです。
元々の膂力、精霊、技術の全てが揃わなければ成し得ぬ芸当と予測します。
「なるほど? ……で、どうやって攻略する」
≫回避、もしくはそれ以上の威力を持った攻撃にて相殺する。
「……前者は兎も角、後者は無茶だろ。今の俺にそんな魔法はないぞ」
≫マスターの『魔法』は理解しています。その危険性も……ですが、その一部を引き出すことで成し得る技があります。
「……一部、か」
俺の固有魔法、その力は特別だ。
全解放すれば周囲がどうなるか分からない。怒りとともに使えば、国など一瞬で滅ぼしてしまうだろう。
殲滅級魔導士と言われる所以だが、あまりの威力なため俺にもコントロールは難しい。
≫お任せをマスター。私の仮想演算を使用すれば、魔法の制御も可能です。
「……なるほどな」
確かに、〝火花〟を制御しているのはAliceだ。
俺の領域が信用できない以上、Aliceの演算と力を合わせるしかないか。
「俺はどうすればいい、相棒」
≫マスター、二つの固有魔法に問いかけて下さい。自分の、魂の神髄に。
『――――――っ……!』
再度飛来する斬撃。
痛む身体を酷使することで紙一重に躱しながら、『心』を見る。
見える。
見えた。
「二つの光……これが、俺の魔法だって?」
Aliceの答えはない。
だが、俺は直感で理解する。これが俺の魂なのだと。
今までただの『力』として振るってきたそれが、どんな輝きを放っているのか。
一つは殲滅級の力。それは鈍い色を纏いながらも内から銀の光を見せている。
もう一つは、小さな力。対人級とも言えないほど弱くちっぽけな光。だが、白い。その白さは魔法の輝き。魔力の輝き。
俺の、《子供》の輝き。
「…………………………何となく……分かったっ……!」
震える身体で声を絞り出し、ようやくスタートラインに立つ。
幻想は充分整った、ならば一切問題はない。
魔法とはイメージの力。
そして、理想を現実にする力。
「〝火花〟」
小さな火花を呼び出し、所持する光の大剣へと撃ち込む。
二つは同じ魔力で構築されているため、馴染んだように固まっていく。
そして、大事なのはここから。
「《身体強化》」
魔力を全身に叩き込み、眠っていた筋力を呼び覚ます。
火事場の馬鹿力を叩き起こしたのだ。
更に、殲滅級の魔法を発動。
「――――――『剣』」
大剣にその力と言葉が注がれる。
今必要なのはそれだけ、それだけだ。
ここで終わり。これ以上の行使は自身だけではなく迷宮そのものを崩壊させかねない。
そして、もう一つの『魔法』を起動する。
「――――――『――』」
静かに、淡々と。
その魔法の名を呼んだ。短く呟いた魔法は僅かな力を感じさせる。
「――――――――――――『トリガー・オフ』」
その『魔法』の短い詠唱。
≫スキル:猪突猛進を発動。ワンアクションに補正がかかります。
「…………………………」
『⁉』
オーガはまるで赤子のように怯えている。
これで、終わりにしよう。
「――――――」
火花が純白へと変貌し、大剣をその色が包む。
「閃光の鋭斬」




