第38話 子供と大人未満
これから挑むのは、《ジ・エレメンタル・オーガ》。
間違いなく一番の強敵だろう。
だが、負ける気はしない。
何故だろうな。
二人の相棒が、頼もし過ぎるからか。
「いくぞ」
二人は無言で応え、俺が部屋の大扉を開く。
半ば自動で開いていく扉は暗闇へと道を繋ぎ、現との境界線を思わせる。
これを越えれば、何かが変わる。その予感がある。ここで諦めることは簡単だ、死ねばいいのだから。
だが、それをしてしまえば何もかもが終わる。
終わってしまう。
今までの苦労も、人生も、何もかも……ゼロになる。
そして、家族とも会えなくなる。優也や母さんと別れるのは、絶対に嫌だ。
俺は、家族が大好きだ。
そんな暗い妄想を繰り広げても、諦めようという感情は湧いてこなかった。
我ながら疑問だ、死地に自ら飛び込むなんて。ここはゲームじゃないのに。死んでしまえばそこまでなのに。
戦いが楽しいとか、憑りつかれたとかでもない。
この先、ボスとの戦いに何があるのか―――――知りたいのだ。
「……」
部屋に入ると、ソイツは立って待ち構えていた。
大剣を両手で握って、周囲の精霊(?)を従えている。魔剣士という印象が強く感じられるが、筋骨隆々な鬼の肉体は重戦士のように頑強そうだ。
気味が悪いほど静かに構えるソイツの二本角は赤く、鋭い。
眼は白く光り、その不気味さを加速させている。
「……っ」
動けない。
動かないのではなく、動けない。
ただそこに立っているだけなのに、威圧感が半端じゃない。
まるで獅子に睨まれた鼠のように身体が震える。その震えを無理やり止めても、謎の空気感は止まらない。
悠長に時間を消費していてはいられない……。
「さぁ……」
≫――――――来ますっ!
「⁉」
Aliceの声を聞いた瞬間、全力で跳躍した。
その時だけは周囲が制止したような感覚だった。だが、次の瞬間には周囲の壁が抉れていた。
いや、斬られていたのだ。
「飛ぶ斬撃……っ!」
グレイコボルト・ダークパラディンが使っていた【無塵】を何倍も昇華した技なのだろう。
……果たして、本当に技なのだろうか。
これが、通常攻撃なのでは――――――。
その予想は、絶望となって押し寄せてきた。
≫連続攻撃、七。
――――――術式命令、身体強化。
「おらぁ!」
全身の強化は諦め、右手首から先に魔力を集中。それにより硬度を限界まで高める。魔力は密度を高めれば高めるほど他エネルギーに対して反発するという特性を持っているため、防御には最適だろう。
初撃を弾き、残り六発。
「数が多い!」
そして全てを弾かぬうちに、追加の斬撃が降り注ぐ。
そりゃそうか、普通の攻撃ならタメモーションなしに決まってるよな。
――――――術式命令、魔力を右手から放出。その後刀状に固定し螺旋回転。縦回転も追加せよ。
――――――術式命令、左手に魔力を装填、その後待機。
「《刀剣魔法》!」
リーチを伸ばしたことでより遠い場所で斬撃を捌くことが可能になった。
そして、斬撃の穴へと――――――!
「魔力衝撃弾!」
魔力を直接飛ばし、相手へと炸裂させる無属性魔法。
それは見事直撃し、僅かに攻撃が止んだ。
「お返しといくぜ、オーガ!」
≫術式展開。仮想演算領域準備、完了。演算終了、魔力炉正常動作。
最終確認完了、魔法名〝火花〟の発動、いつでもいけます。
「〝火花爆散〟ッ!」
鬼の中で弾ける火花の嵐。
暴風、竜巻のように回るその光は、鬼の肉体を内側から削っていく。
そして、精神高揚魔法『クロノス・オルフェン』を発動。
あの日から自然と覚えていた魔法だ。
「刀剣魔法、十文字魔光斬」
追撃で放つのは魔力剣による斬撃。剣身自体が縦横無尽に回転するそれは、触れた場所を抉り取った。
だが、そこで手を止めることはない。
「刀剣魔法、乱刀六閃――――――!」
斬撃が深く沈む。しかし、鬼の生命は終わらなかった。
『――――――ガァあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――ッッッ‼』
「マジかよ!」
渾身の連撃すら届かず、俺は大剣によって吹き飛ばされた。
……確実にあばらが何本か逝ったか。
左腕にもヒビが入ったな、痛みが取れない。
「……――――――クソが」
『諦めるのかい?』
その声、夢の声が―――――聞こえる。
自分を戒める、重い言葉。
知っていて、知らない人から問いかけられる。
『目の前に強敵がいる。その強さに絶望する、それは当然だろうね』
そうだ、当然なんだ。だから……。
『でも、それはカッコ悪いよね』
……だから、何だってんだ。カッコ悪くても、生きて……。
『生きて、後悔はないかい?』
後悔だって? いったい、どういうことだ。
意味が分からない。
『あの時の高揚感、ってやつさ。君はそれを忘れられない』
「ざっけんな……っ」
高揚感だって?
そんなもの……そんな、もの……。
「……ハハッ」
そうだ、俺は高揚感のためにVRMMOを始めたんじゃないか。
忘れてたんだ、大切なことを。
人生、楽しんだモン勝ちでしょ!
≫マスター、どうかしましたか?
「……いいや、何でもない」
そうだ。
俺は、プレイヤーだ。
気が向いたら感想やレビュー等を宜しくお願い致します。
(貰えたら超嬉しいです!)




