第37話 俺と僕の英雄譚
「…………」
勝ちたい、とは思う。
最悪俺だけ連れていかれるならまだいい。
だが、それはないだろう。
魔導士とは家の血が最も深く関わってくる。強さも、密度も。
だからアメリカは家族を攫おうとするだろうし、彼女もその命令に従うはずだ。
今のこの状況……真正面から戦えることが、一番いい場面だ。
「つっても、勝てるかな」
さっきはあんな啖呵を切ったが、俺に勝つ自信はない。
相手は軍人。
戦闘のエキスパートだ。片や俺はただの魔導士候補生。
魔法が殲滅級にランク分けされていても、俺自身はそこまで強くない。
……強くならないと。
――――――彼女は恐らく、戦場の英雄だ。
「英雄、か」
かつて、俺が憧れた英雄。
アニメの中の主人公、小説の中の魔法使い、漫画の中のヒーロー。
そして、神話の英雄。
誰であろうと、平等に光を与える希望になりたかった。
その理由は忘れてしまったが。
どうしても、なりたいと思った。
でも、それは打ち砕かれた。
この世界で英雄になるのは、酷く難しいことだったからだ。
彼女は人を殺して英雄になった。だが、それは俺がなりたい英雄じゃない。
彼女は俺が見た、もう一つの可能性だ。
なら、俺はそれを打ち砕こう。
「Alice、力を貸してくれるか」
≫YESマスター。
「ありがとな。……ダンジョンに行こう」
≫ゲートを展開します。到着地点は第十階層スタート地点です。
「これで、最後だ」
◇◇◇
「…………昔、同級生に言われたことがあるんだ」
≫?
「『努力したって天才には勝てないんだ、なら、努力する意味なんてない。ただ負けて傷つくだけなんだ』って」
≫……それは。
「分かってる。それが側面的でしかないことは。分かってたんだ、その時も。
でも……でもさ。ソイツの顔が凄く必死で、認めてもらいたそうで、俺はソイツの言葉を肯定した。
『確かに、努力したって勝てる保証はない』ってさ。でも、その後に否定したよ」
≫……。
「努力しなくちゃ、誰にだって負ける……上からだけどね」
≫マスター、私は貴方をサポートします。たとえ死ぬときでも、私は貴方の側にいます。それを、お忘れなく。
「ああ、ありがとな」
そうだ、俺はいつだって一人じゃない。
頼れる相棒たちがいるんだ。
「ブラッド」
『ぎぃ?』
「お前は俺のこと、助けてくれるか?」
『ぷぎーっ!』
もう一人の相棒は肯定するように吠え、俺に抱き着いた。
「おっとと、落ち着け。……さんきゅ」
……近頃、夢を見る。
まったく知らない、懐かしく感じる人に会う夢。
白い髪で、碧い瞳の誰か。
もちろんそんな人は知らないし、夢から覚めれば風景もあやふやだ。
ただ、その人だけは忘れられない。
ずっと記憶の片隅にいて、ふとした時に思い出す。
彼は誰なんだろう、それをずっと考える。それでも答えが出ることはなかった。
「Alice、ここのモンスターとボスの名前は」
≫現在出現しているのはオーク、ゴブリン、コボルトです。最後のボスモンスターは《ジ・エレメンタル・オーガ》。
五大精霊を操る鬼の魔剣士で、近中で隙のない強さを発揮します。
「エレメンタル……精霊か。魔剣士って言ったな、ソイツ。
魔力と剣技の混合技……中々勉強になりそうだ」
『キシャシャ』
『ぶぅ』
『がうっ』
そんなことを考えている中、三匹のモンスターが出現した。
ゴブリン、オーク、コボルトが一匹ずつ。それぞれが鉄の武器を装備しており、上層のモンスターよりずっと強そうだ。
だが。
「………ブラッド」
『ぷぎ!』
「――――――喰っていいぞ」
上の階層のモンスターたちと戦ってきた俺の相棒は、それ以上に強くなった。
戦った数が違うということだ。
『ぷぎぃいいいいい!!!!』
『シャ……⁉』
そして、三匹のモンスターは灰となって消えていく。
あまりの早さに俺も呆れたが、相棒は満足そうだ。ドロップした魔石を美味しそうに食べている。
どんだけ歯が丈夫なんだ。
「…………さて、行くか」
最後のボス戦だ。
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