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第99話 落ちてくる黒槍と最後の食材

第99話 落ちてくる黒槍と最後の食材


――ゴォォォォォン!!


空から。


巨大な黒い槍が落ちてきた。


狙いは――食堂。


「来る!」


実咲が両手を広げる。


――パァァァッ!!


食堂を包む光の結界が、一気に膨らんだ。


直後。


――ドォォォォン!!


黒い槍が結界へ激突した。


「きゃあっ!」


食堂全体が揺れる。


棚から皿が落ちる。


鍋が大きく跳ねる。


それでも。


結界は耐えた。


「止まった……!」


実咲が息を吐く。


だが――。


「まだだ!」


熊五郎が叫ぶ。


黒い槍が。


ゆっくりと結界へ食い込んでくる。


――ギギギギギ……。


光の表面に。


亀裂が走った。


「実咲!」


「分かってる!」


実咲は両手に力を込める。


「まだ……!」


結界を押し広げる。


だが。


黒い槍は止まらない。


「くっ……!」


実咲の足が。


床へ沈む。


「実咲、無理するな!」


熊五郎が厨房から駆け出す。


「でも!」


「一人で受けるな!」


熊五郎が。


実咲の背中へ手を添える。


「二人でやる」


「……うん!」


熊五郎が魔力を流す。


実咲の光と。


熊五郎の魔力が重なる。


――パァァァッ!


結界が強くなる。


黒い槍の侵入が。


止まった。


「今だ!」


ガルドが槍を構える。


「レオン!」


「任せろ!」


二人が走る。


ガルドが。


黒い槍の根元へ踏み込む。


――ザンッ!


槍を斬りつける。


しかし。


傷一つつかない。


「硬い!」


レオンも。


剣を叩き込む。


――ガキィン!


「こいつ……武器みたいな硬さじゃない!」


熊五郎が。


槍を見る。


「違う」


「何が?」


「魔力そのものを固めてる」


熊五郎が。


目を細める。


「普通の武器じゃ切れない」


「じゃあどうする?」


熊五郎は。


厨房を見る。


「料理だ」


ガルドが。


思わず振り返る。


「また料理か!」


「ああ」


熊五郎が。


鍋を見る。


「この槍を壊すには」


熊五郎は。


残った食材を確認する。


「力じゃなくて、性質を変える」


「性質?」


熊五郎は。


小麦粉を取り出した。


「こいつは黒い魔力の塊だ」


小麦粉。


塩。


魚。


肉。


野菜。


そして。


残っている香辛料。


「なら――」


熊五郎が。


火を起こす。


「料理で魔力を整える」


実咲が。


驚く。


「料理で、そんなことできるの?」


「やってみる」


熊五郎は。


鍋に水を入れる。


そこへ。


魚の骨。


野菜の切れ端。


肉の脂。


塩。


香辛料。


順番に入れる。


――グツグツ。


「まず出汁を取る」


熊五郎は。


火を弱める。


「強火じゃないんだ」


「強すぎると雑味が出る」


鍋をじっくり煮る。


魚の香り。


肉の旨味。


野菜の甘み。


それぞれが。


少しずつ湯へ溶けていく。


外では。


黒い槍が。


再び結界を押し始める。


――ギギギギ……。


「熊五郎!」


「まだだ!」


熊五郎は。


鍋を見つめる。


「料理は焦ったら負ける」


「でも結界が!」


「分かってる!」


熊五郎は。


鍋を一度かき混ぜる。


そして。


小麦粉を少量。


水で溶く。


それを鍋へ入れた。


――トロッ。


スープに。


少しずつ粘りが出る。


「これで魔力を絡める」


熊五郎は。


最後に香辛料を入れる。


――フワッ。


香りが広がった。


その瞬間。


黒い槍が。


ビクッと震えた。


「……!」


実咲が。


目を見開く。


「槍が反応した!」


熊五郎が。


笑う。


「やっぱりな」


「何が?」


「黒い魔力は」


熊五郎が。


鍋を火から下ろす。


「刺激に弱い」


熊五郎は。


完成したスープを。


小さな器へ注いだ。


「これを――」


ガルドへ渡す。


「飲め」


「俺が?」


「ああ」


ガルドは。


スープを見る。


「戦闘中にスープ……」


「飲め」


「分かった!」


ガルドが。


一気に飲む。


――ゴクッ。


熱い。


喉を通る。


胸へ落ちる。


その瞬間。


ガルドの身体が。


一度だけ震えた。


「……!」


目が。


大きく開く。


「何だ……これ」


手のひらが。


熱くなる。


指先から。


白い光が漏れ始めた。


熊五郎が。


叫ぶ。


「槍を触れ!」


「分かった!」


ガルドが。


黒い槍へ手を伸ばす。


――ジュッ。


触れた瞬間。


黒い魔力が。


白い光とぶつかる。


――バチバチバチッ!!


ガルドが。


歯を食いしばる。


「熱い!」


「離すな!」


「くっ……!」


黒い槍の表面に。


白い亀裂が入る。


「効いてる!」


レオンが叫ぶ。


熊五郎が。


説明する。


「今のスープは」


「……」


「黒い魔力を消すんじゃない」


「じゃあ?」


「性質を一時的に鈍らせる」


ガルドが。


さらに力を込める。


――バキッ!


黒い槍に。


大きな亀裂。


「今だ!」


レオンが。


剣を構える。


「ガルド、離れろ!」


「分かった!」


ガルドが飛び退く。


レオンが。


全力で剣を振り下ろす。


――ズガァァァン!!


黒い槍が。


真っ二つに割れた。


「やった!」


実咲が叫ぶ。


しかし。


割れた槍は。


消えなかった。


二つの黒い塊が。


地面へ落ちる。


そして。


そこから。


黒い兵士が。


次々と立ち上がった。


「……増えた?」


実咲が息を呑む。


熊五郎が。


鍋を見る。


「そういうことか」


「何が?」


「こいつらは」


熊五郎が。


黒い兵士を見る。


「槍そのものだったんだ」


黒い兵士が。


一斉に走り出す。


「来るぞ!」


ガルドが槍を構える。


レオンも。


剣を構える。


「料理の効果は?」


ガルドが聞く。


熊五郎は。


鍋を見た。


「スープの効果は長くない」


「どれくらい?」


「一分」


「短いな!」


「だから――」


熊五郎が。


笑う。


「一分で全部倒せ」


「無茶を言う!」


ガルドが叫ぶ。


それでも。


走った。


――ドン!


槍を突き出す。


――ズガッ!


一体。


横から。


二体目。


ガルドが身体を回転させる。


――ブォン!


槍が敵を薙ぎ払う。


レオンも。


敵の懐へ入り込む。


――ザンッ!


一体。


――ザンッ!


二体。


だが。


敵の数は。


減らない。


「多すぎる!」


実咲が。


結界を維持しながら叫ぶ。


熊五郎は。


厨房を見る。


食材が。


ほとんどない。


「……」


残っているのは。


米。


玉ねぎ一個。


肉少量。


魚一匹。


香辛料。


熊五郎は。


それらを見つめた。


「これだけか……」


実咲が。


聞く。


「作れる?」


熊五郎は。


食材を手に取った。


「作る」


「何を?」


熊五郎は。


少し考えた。


「次は――」


米を洗う。


――ザッ。


水を切る。


玉ねぎを切る。


――トン。


肉を細かくする。


――トン。


魚を焼く。


――ジュゥゥゥッ。


「一皿だけ作る」


実咲が。


その横で。


結界を維持する。


「誰が食べるの?」


熊五郎は。


戦場を見る。


ガルド。


レオン。


そして。


町の人々。


「みんなだ」


「え?」


「最後の食材だからな」


熊五郎は。


鍋へ米を入れる。


肉。


玉ねぎ。


焼いた魚。


最後に香辛料。


――グツグツ。


鍋から。


今までより強い香りが広がった。


敵まで。


一瞬。


動きを止めた。


熊五郎が。


目を細める。


「……この匂いに反応したか」


黒い兵士たちが。


一斉に。


食堂を見る。


そして。


熊五郎は気づく。


敵が狙っているのは。


食材でも。


食堂でもない。


料理そのものだ。


熊五郎は。


完成した料理を見つめた。


「……なるほど」


そして。


静かに笑った。


「なら、食わせてやる」


次の瞬間。


黒い兵士たちが。


一斉に。


食堂へ殺到した。

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