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第98話 料理の力が戦場を変える

第98話 料理の力が戦場を変える

「――食材を奪う」

黒い影の声が。

町中に響いた。

その直後。

食堂の外に置かれていた荷車が。

黒い霧に包まれた。

「まずい!」

ガルドが叫ぶ。

荷車には。

米。

小麦。

野菜。

肉。

魚。

この町で集められた。

貴重な食材が積まれている。

「持っていかせるな!」

ガルドが走る。

だが。

黒い兵士が。

前へ立ちはだかった。

――ガキィン!

槍と剣がぶつかる。

「くっ!」

ガルドが押される。

その背後では。

別の兵士が。

荷車へ近づいていた。

「熊五郎!」

実咲が叫ぶ。

「分かってる!」

熊五郎は。

厨房を見る。

残っている料理は。

肉と野菜の煮込み。

焼き魚。

そして。

炊き立ての米。

「実咲!」

「はい!」

「料理を持っていけ!」

「どこへ?」

熊五郎は。

戦場を見る。

「食べれば戦える奴のところへ!」

「分かった!」

実咲が。

料理を抱える。

まず。

ガルドのところへ走る。

「ガルド!」

「今は――」

黒い兵士の剣が。

ガルドの肩へ迫る。

――ガキィン!

槍で受け止める。

しかし。

押し込まれる。

「くっ……!」

実咲が。

器を差し出す。

「食べて!」

「今か!?」

「今!」

ガルドは。

一瞬だけ敵の剣を押し返した。

その隙に。

煮込みを一口。

――ゴクッ。

熱い汁が。

喉を通る。

その瞬間。

ガルドの胸の奥が。

カッと熱くなった。

「……っ!」

心臓が。

一度だけ強く鳴る。

ドクン。

指先まで。

血が巡っていく。

冷えていた手が。

一気に温かくなる。

ガルドは。

槍を握り直した。

「……重さが」

敵の剣を。

もう一度受ける。

――ガキィン!

今度は。

押し返した。

「軽い!」

ガルドの足が。

地面へ深く沈む。

しかし。

今度は。

そのまま踏み止まった。

「さっきとは違う!」

ガルドが。

槍を横へ払う。

――ブォン!

黒い兵士の身体が。

大きく後ろへ飛ぶ。

熊五郎が。

遠くから叫ぶ。

「効果は長くない!」

「どれくらいだ!」

「十分もたない!」

「十分あれば十分だ!」

ガルドが。

敵へ突っ込んだ。

――ザシュッ!

槍が。

敵の胸を貫く。

黒い兵士が。

霧になって崩れる。

ガルドは。

そのまま荷車へ走った。

「次!」

実咲は。

焼き魚を持って。

レオンのところへ向かう。

レオンは。

三体の敵に囲まれていた。

「レオン!」

「こっちは大丈夫――」

敵の爪が。

目の前を横切る。

――ブォン!

レオンが。

首をひねって避ける。

だが。

次の一撃が。

横から来る。

「くっ!」

レオンの身体が。

一瞬遅れる。

実咲が。

焼き魚を差し出す。

「これ!」

「魚……?」

「いいから!」

レオンは。

一口かじった。

――パリッ。

焼けた皮が。

歯の間で崩れる。

香ばしい匂い。

魚の脂が。

舌に広がる。

その瞬間。

レオンの視界が。

すっと澄んだ。

周囲の音が。

一つずつ分かれて聞こえる。

風。

足音。

剣が地面を擦る音。

敵の呼吸。

そして。

右側の敵の肩が。

ほんの少し下がる。

「……来る」

レオンが。

身体を動かした。

敵の爪が。

目の前を通り過ぎる。

――ブォン!

「見える……!」

二体目。

左足が動く。

「次は左!」

レオンが。

踏み込む。

――ザンッ!

敵の腕を斬る。

三体目が。

背後から迫る。

だが。

レオンは振り返らない。

足音だけで分かる。

「そこだ!」

身体を反転。

――ズバッ!

黒い兵士が。

霧になる。

レオンが。

息を吐く。

「……本当に見える」

熊五郎が。

厨房から叫ぶ。

「魚の効果は短い!」

「分かった!」

「集中力が切れたら一気に戻る!」

「なら――」

レオンが。

剣を構える。

「切れる前に終わらせる!」

一方。

食堂では。

実咲が。

炊き立ての米を器へ盛っていた。

避難者の一人が。

震える手で受け取る。

「俺も……戦ったほうがいいのか?」

熊五郎が。

首を振る。

「無理するな」

「でも――」

「戦うだけが守ることじゃない」

熊五郎は。

米の上へ。

煮込みの汁を少しかける。

「食べて」

兵士が。

一口食べる。

――もぐ。

二口。

三口。

その瞬間。

兵士の指先に。

小さな光が灯った。

「……?」

本人が。

驚く。

「魔力が……」

胸の奥に。

じんわりと温かいものが広がる。

消耗していた魔力が。

少しずつ戻っていく。

熊五郎が。

説明する。

「米と野菜で魔力の回復を助けてる」

「俺でも魔法が……」

兵士が。

手を上げる。

小さな火が。

灯った。

「使える」

「なら」

熊五郎が。

食堂の外を指す。

「ここから結界の補修を手伝え」

兵士は。

頷いた。

「分かった!」

一人。

また一人。

料理を食べた人たちが。

それぞれの役割につき始める。

水を運ぶ者。

負傷者を運ぶ者。

結界を補修する者。

武器を運ぶ者。

食器を洗う者。

実咲が。

それを見て笑う。

「料理を食べたからって、全員が戦士になるわけじゃないんだね」

熊五郎が。

頷く。

「そうだ」

「じゃあ料理の力って……」

熊五郎は。

鍋を見つめた。

「その人が持ってる力を」

「……」

「使える状態に戻すだけだ」

その時。

外から。

大きな爆発音が響いた。

――ドォォォン!!

実咲が。

外を見る。

「ガルド!」

荷車の前で。

ガルドが。

黒い兵士たちを押し返している。

だが。

数が多い。

ガルドの動きが。

少しずつ鈍ってきた。

「効果が切れ始めてる!」

熊五郎が。

鍋を見る。

煮込みの残りは。

あと数人分。

「……足りない」

実咲が。

驚く。

「どうするの?」

熊五郎は。

厨房を見回した。

肉。

少ない。

野菜。

少ない。

米。

残りわずか。

魚。

二匹。

「……なら」

熊五郎が。

魚を手に取った。

「一つ作る」

「何を?」

「今ある食材全部を使う」

熊五郎は。

魚を三枚におろす。

――スッ。

骨を抜く。

身を細かく切る。

鍋に水を入れる。

玉ねぎ。

にんじん。

じゃがいも。

魚。

少量の肉。

米。

そして。

残っていた香辛料。

「それ、全部入れるの?」

実咲が聞く。

「ああ」

鍋を火にかける。

――グツグツ。

最初は。

薄い香り。

だが。

煮込むにつれて。

魚の旨味。

肉の脂。

野菜の甘み。

米のとろみ。

すべてが混ざっていく。

熊五郎は。

木べらで。

ゆっくり鍋を回す。

「急ぐな」

「戦ってるのに?」

「だからこそだ」

熊五郎は。

鍋の表面を見ながら。

火を少し弱める。

「料理は」

さらに。

少しだけ火を強くする。

「時間をかけた分だけ」

鍋の中で。

食材が崩れていく。

「味がまとまる」

熊五郎が。

最後に塩を入れる。

一度。

味見。

「……よし」

実咲が。

匂いを嗅ぐ。

「これ……」

「戦場用の料理だ」

熊五郎が。

器へ注ぐ。

「名前は?」

実咲が聞く。

熊五郎は。

少し考えた。

「――命つなぎ」

「そのまんまだね」

「分かりやすいだろ」

実咲が。

笑う。

その時。

ガルドが。

大きく吹き飛ばされた。

――ドォン!

「ガルド!」

ガルドが。

地面へ膝をつく。

「……まだ……」

立とうとする。

しかし。

足が震える。

「もう一度……」

黒い兵士が。

剣を振り上げる。

その前へ。

実咲が。

飛び出した。

「させない!」

光の壁。

――バァン!

剣を弾く。

実咲は。

そのまま。

ガルドへ器を差し出した。

「食べて!」

ガルドは。

器を見る。

「……何だ?」

「熊五郎の新しい料理!」

ガルドは。

笑った。

「こんな時まで料理か」

「こんな時だから!」

ガルドは。

一口食べた。

――ゴクッ。

熱い。

身体の奥へ。

料理が落ちていく。

だが。

今までの料理とは。

違った。

胸の奥で。

何かが。

一つに繋がる。

心臓。

呼吸。

筋肉。

魔力。

すべてが。

一定のリズムになる。

「……」

ガルドが。

ゆっくり立ち上がる。

槍を握る。

「これは……」

熊五郎が。

遠くから言う。

「命つなぎは」

「……」

「一つの能力を強くする料理じゃない」

ガルドが。

一歩踏み出す。

「身体全体の調子を整える」

もう一歩。

「だから――」

黒い兵士が。

襲いかかる。

ガルドが。

槍を振る。

――ガキィン!

今度は。

受け止めた瞬間。

身体がぶれない。

そのまま。

槍を回転させる。

――ズガッ!

敵の腕を弾く。

続けて。

槍の柄で。

腹を打つ。

――ドン!

敵が。

よろめく。

「力が戻っただけじゃない」

ガルドが。

自分の動きを確かめる。

「身体が……噛み合ってる」

その隙に。

レオンが。

横から斬り込む。

――ザンッ!

黒い兵士が。

消える。

「俺の魚の効果も残ってる!」

二人が。

背中合わせになる。

「行けるな?」

「あと少しなら」

「十分だ」

二人が。

同時に走り出す。

食堂では。

実咲が。

次々と料理を配っている。

一皿。

また一皿。

そのたびに。

戦場の人々が。

少しずつ立ち上がる。

そして。

それに気づいた敵が。

動きを変えた。

黒い霧が。

食堂の屋根へ集まる。

「……何?」

実咲が。

空を見る。

熊五郎も。

顔を上げる。

「まずい」

「何が?」

熊五郎の表情が。

険しくなる。

「今度は」

黒い霧が。

巨大な塊になる。

「料理を食べる前に――」

巨大な黒い槍が。

空から。

食堂へ向けられる。

「食堂そのものを落とす気だ」

実咲が。

光を最大まで広げる。

「だったら――」

熊五郎が。

包丁を握る。

「料理を作る場所を守る」

二人が。

同時に。

前を向いた。

そして。

空から。

巨大な黒い槍が。

食堂へ落下した。



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