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第100話 最後の一皿を守れ

第100話 最後の一皿を守れ


――ドドドドドドドドッ!!


黒い兵士たちが。


一斉に。


食堂へ殺到してきた。



それは――


残っていた米、玉ねぎ、少量の肉、魚一匹、香辛料を使って作った、最後の一皿だった。


鍋の中には。


もう、ほとんど残っていない。


熊五郎は。


鍋を抱えたまま。


敵を見る。


「……やっぱりな」


実咲が。


隣へ立つ。


「何が?」


「こいつらが狙ってるのは」


熊五郎が。


鍋を見る。


「この料理だ」


黒い兵士が。


一体。


厨房へ飛び込んでくる。


――ブォン!


剣が振り下ろされる。


熊五郎は。


鍋を片手に持ったまま。


身体を横へずらす。


――ガンッ!


剣が。


まな板へ突き刺さった。


熊五郎は。


鍋を守る。


「料理は渡さない」


実咲が。


光の壁を展開する。


――パァン!


黒い兵士を弾き飛ばす。


「でも、どうするの?」


「食べさせる」


「誰に?」


熊五郎は。


戦場を見る。


ガルド。


レオン。


そして。


負傷しながら戦っている兵士たち。


「必要な奴からだ」


熊五郎が。


最初の一皿を盛る。


「ガルド!」


「こっちだ!」


実咲が。


料理を運ぶ。


ガルドは。


敵の剣を槍で受け止めながら。


器を受け取った。


「こんな状況で飯とはな!」


「だからこそ!」


ガルドが。


笑う。


「いただく!」


――パクッ。


第99話で作った。


最後の一皿。


米。


肉。


魚。


玉ねぎ。


香辛料。


その全部の味が。


一つになっている。


ガルドが。


飲み込む。


――ドクン。


心臓が。


強く鳴った。


「……!」


胸の奥から。


熱が広がる。


腕。


脚。


背中。


それまで疲れていた筋肉が。


一つずつ。


本来の動きを取り戻していく。


ガルドは。


槍を握り直した。


「身体が……軽い」


敵が。


再び斬りかかる。


――ガキィン!


今度は。


ガルドが押し返した。


「うおおおっ!」


――ズガッ!


槍の柄で。


敵の身体を打ち飛ばす。


続けて。


槍を突き出す。


――ドシュッ!


黒い兵士が。


霧となって崩れた。


「まだいける!」


熊五郎が。


叫ぶ。


「無理するな!」


「分かってる!」


ガルドは。


自分の身体を確かめる。


力が単純に増えたわけではない。


疲労で乱れていた呼吸。


魔力の流れ。


筋肉の動き。


それらが。


一時的に揃っている。


「この料理……」


ガルドが。


呟く。


「俺の身体を元の状態に戻してるのか」


「正確には」


熊五郎が。


答える。


「残ってた力を使える状態に整えてる」


「なるほどな!」


ガルドが。


敵へ向き直る。


「なら、使い切る!」


その横で。


レオンも。


料理を受け取る。


「俺にも少し!」


熊五郎が。


鍋を見る。


残りは。


ほんの少し。


「食べすぎるな」


「分かってる」


レオンが。


一口だけ食べる。


――パクッ。


飲み込んだ瞬間。


視界が。


澄んだ。


敵の身体を流れる黒い魔力。


その濃淡が。


はっきり見える。


「……そこだ」


レオンが。


一歩踏み込む。


――ザンッ!


敵の肩を斬る。


黒い魔力が。


一瞬乱れる。


「今!」


――ズバッ!


胸を貫く。


黒い兵士が。


消える。


しかし。


二体目を倒したところで。


レオンの視界が。


揺れた。


「……もう切れる」


熊五郎が。


叫ぶ。


「その一皿の効果は短い!」


「分かってる!」


レオンは。


最後の一体を斬る。


――ザンッ!


そして。


料理の効果が。


完全に切れた。


「……っ」


膝をつく。


「一気に疲れが来た……」


熊五郎が。


頷く。


「だから一皿を全員に分けなかった」


実咲が。


気づく。


「食材が足りないからじゃなくて――」


「効果を使う相手を選んでる」


熊五郎が。


鍋を見る。


もう。


中身は空だった。


「これで第99話で残っていた料理は全部使った」


実咲が。


頷く。


「じゃあ、もう料理は……」


「終わりじゃない」


熊五郎は。


厨房を見る。


第99話で使った食材。


米。


玉ねぎ。


肉。


魚。


香辛料。


それらも。


すべて使い切った。


残っているのは。


食材の入っていた空箱。


空の籠。


そして。


魚の骨と。


肉の脂。


「……食材は本当に、もうない」


実咲が。


呟く。


熊五郎は。


魚の骨を拾う。


「いや」


「え?」


「まだ捨ててない」


熊五郎が。


魚の骨を鍋へ入れる。


次に。


肉を焼いたときに残った脂を入れる。


玉ねぎの皮。


野菜の切れ端。


そして。


米を洗った水。


「これだけ……?」


実咲が。


不思議そうに見る。


熊五郎は。


火をつけた。


――ボッ。


「出汁を取る」


「でも、それって料理になるの?」


「なる」


鍋が。


少しずつ温まる。


――グツ。


魚の骨から。


旨味が溶け出す。


肉の脂が。


水面に浮く。


玉ねぎの皮から。


わずかな甘みが出る。


熊五郎は。


それを丁寧にすくう。


「第99話で作った料理の残り物だ」


「つまり……」


「新しい食材じゃない」


熊五郎は。


鍋を見つめる。


「最後の料理から生まれた、最後の出汁だ」


その時。


黒い兵士が。


再び厨房へ突っ込んできた。


「来る!」


実咲が。


光の壁を出す。


――バァン!


敵が弾き飛ばされる。


しかし。


別の敵が。


横から回り込んできた。


「実咲!」


熊五郎が。


鍋を持ち上げる。


「下がれ!」


熊五郎が。


鍋の出汁を。


床へ撒いた。


――ザァッ!


薄い液体が。


床へ広がる。


黒い兵士が。


その上を踏んだ。


瞬間。


――バチッ!


黒い魔力が。


足元から弾けた。


「……!」


実咲が。


目を見開く。


黒い兵士の動きが。


止まった。


熊五郎が。


低く呟く。


「料理は」


鍋を握り直す。


「食べるだけじゃない」


出汁から立ち上る湯気が。


食堂を包む。


「作る過程にも」


黒い兵士の身体に。


白い亀裂が走る。


「力は残る」


――パキッ。


黒い兵士が。


その場で崩れた。


実咲が。


息を呑む。


「これ……」


熊五郎は。


鍋を見る。


「まだ使える」


だが。


その直後。


鍋の底に。


黒い紋章が浮かび上がった。


熊五郎の表情が。


変わる。


「……これは」


実咲が。


覗き込む。


「何?」


紋章が。


ゆっくり脈打つ。


――ドクン。


――ドクン。


そして。


鍋の底から。


低い声が響いた。


『料理人よ』


熊五郎が。


黙る。


『次は――』


黒い紋章が。


大きく開く。


『お前自身を調理しろ』


熊五郎の右腕に。


黒い線が走った。


「……」


熊五郎は。


その腕を見る。


そして。


静かに包丁を握った。


「面白い」


実咲が。


驚く。


「熊五郎?」


熊五郎は。


鍋の火を見つめる。


「ここから先は」


炎が。


一段高くなる。


「俺の番だ」

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