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第94話 守る者の力

第94話 守る者の力


――ズドォォォン!!


巨大な拳が。


食堂へ叩きつけられた。


しかし――。


食堂は。


揺れなかった。


「……え?」


実咲が。


目を見開く。


目の前に広がっていたのは。


巨大な光の壁。


いや。


壁ではない。


食堂全体を覆う。


巨大な光の膜だった。


「……止まった」


ガルドが。


呟く。


黒い拳が。


光の膜に食い込んでいる。


それでも。


一歩も中へ入ってこない。


実咲は。


両手を広げたまま。


必死に力を込めていた。


「……絶対に」


額から。


汗が流れる。


「入れさせない……!」


黒い拳が。


さらに押し込む。


――ギギギギギ……。


光の膜に。


亀裂が入る。


「実咲!」


熊五郎が叫ぶ。


「大丈夫!」


「無理するな!」


「無理じゃない!」


実咲は。


歯を食いしばる。


「私が選んだんだから!」


熊五郎が。


一瞬。


黙った。


実咲は。


光の壁を見つめる。


「ここは食堂でしょ?」


「……」


「みんなが帰ってくる場所なんでしょ?」


光が。


少しずつ強くなる。


「だったら――」


実咲の目に。


強い意志が宿る。


「私が守る!」


――パァァァッ!!


光が。


一気に広がった。


巨大な拳が。


押し返される。


「……!」


ガルドが。


驚く。


「押し返した……?」


レオンも。


目を見開く。


「実咲の魔法……」


実咲自身も。


驚いていた。


「私が……?」


熊五郎は。


笑った。


「できるじゃないか」


「熊五郎……」


「守るっていうのは」


熊五郎は。


静かに言った。


「こういうことだ」


実咲は。


小さく頷いた。


「……うん」


だが。


その直後。


――ズキッ。


熊五郎の右腕に。


激痛が走った。


「……っ!」


黒い線が。


肩から胸へ。


さらに伸びている。


レオンが。


すぐに気づいた。


「熊五郎!」


「大丈夫だ」


「大丈夫じゃない!」


レオンが。


熊五郎の腕を見る。


「侵食が広がってる!」


熊五郎は。


黒い線を見つめた。


「……分かってる」


ガルドが。


険しい顔になる。


「このままじゃ――」


「まだ戦える」


「そういう問題じゃない!」


ガルドが叫ぶ。


「お前が倒れたら――」


「倒れない」


熊五郎は。


言い切った。


「俺は――」


その瞬間。


厨房から。


再び声がした。


『第一記録――再生』


熊五郎が。


振り返る。


「……!」


黒い鍋から。


再び映像が浮かぶ。


今度は。


昔の厨房。


大勢の兵士。


そして。


若い熊五郎。


その前に。


一人の少女が立っている。


「熊五郎」


少女が。


笑っている。


「今日も料理するの?」


若い熊五郎が。


鍋をかき混ぜながら。


答える。


「当たり前だ」


「王様なのに?」


「王様だから料理するんだ」


「変なの」


「腹が減ってる兵士に飯を食わせるのは王の仕事だ」


少女が。


笑う。


「じゃあ私も手伝う」


「駄目だ」


「なんで?」


「お前は――」


そこで。


映像が途切れた。


熊五郎の顔が。


強張る。


「……」


実咲が。


小さく聞く。


「誰なの?」


熊五郎は。


答えない。


「熊五郎」


「……」


「その子……」


熊五郎は。


ゆっくり首を振った。


「まだ言えない」


実咲は。


少し驚いた。


だが。


それ以上聞かなかった。


その時。


巨大な影が。


再び動き始めた。


「来る!」


ガルドが叫ぶ。


黒い拳が。


光の膜から離れる。


そして。


今度は。


腕を振り上げた。


「何をする気だ?」


レオンが。


身構える。


影は。


拳ではなく。


巨大な黒い槍を作り出した。


――ズズズズズ……。


黒い槍の先が。


食堂へ向く。


熊五郎が。


目を細める。


「……まずい」


「何が?」


「拳じゃない」


熊五郎は。


食堂を見る。


「狙ってるのは」


黒い槍が。


ゆっくりと。


食堂の厨房へ向く。


「鍋だ」


「鍋?」


実咲が。


振り返る。


厨房の中央。


古い鍋が。


光っている。


「……あれが目的なの?」


「そうだ」


熊五郎が。


左手を上げる。


「この食堂の中枢だ」


ガルドが。


槍を構える。


「なら、壊させるな」


「分かってる」


三人が。


食堂の前に並ぶ。


レオンも。


剣を構えた。


「俺もいる」


熊五郎が。


横目で見る。


「無理するな」


「さっきも聞いた」


レオンは。


笑った。


「今度は俺から言う」


「何だ?」


「俺は自分で決めてここにいる」


熊五郎が。


少し笑う。


「……そうだったな」


黒い槍が。


振り下ろされる。


「来るぞ!」


実咲が。


両手を広げる。


光の膜が。


さらに厚くなる。


ガルドが。


槍を構える。


レオンも。


剣を握る。


熊五郎は。


左手を前へ。


「――行くぞ!」


――ドォォォォン!!


光。


風。


槍。


剣。


四つの力が。


同時にぶつかる。


黒い槍が。


途中で止まった。


だが。


完全には止まらない。


少しずつ。


食堂へ近づいてくる。


「くっ……!」


実咲の足が。


地面へ沈む。


「実咲!」


「まだ!」


ガルドが。


歯を食いしばる。


「押し返せ!」


「やってる!」


レオンの右足が。


突然。


震えた。


黒い線が。


一気に広がる。


「ぐっ……!」


レオンが。


膝をつく。


「レオン!」


熊五郎が。


振り返る。


「見るな!」


レオンが。


叫ぶ。


「俺はまだ――」


黒い線が。


首元まで伸びる。


「戦える!」


その瞬間。


黒い槍が。


さらに押し込まれる。


熊五郎の右腕にも。


黒い線が。


一気に広がった。


「……っ!」


熊五郎が。


膝をつく。


「熊五郎!」


実咲が叫ぶ。


「まだだ……」


熊五郎は。


立ち上がろうとする。


だが。


身体が。


動かない。


「……くそ」


その時。


厨房から。


声が響いた。


『管理者――損傷確認』


『守護者――限界接近』


『防衛機能――出力不足』


そして。


新しい文字が。


浮かぶ。


『追加管理者を要求』


熊五郎が。


顔を上げる。


「追加……?」


実咲が。


自分を見る。


「私?」


光の文字が。


実咲の前に浮かぶ。


『防御担当――昇格可能』


『条件――食堂との完全接続』


実咲が。


息を呑む。


「完全接続って……?」


熊五郎が。


すぐに言う。


「やるな」


「え?」


「危険だ」


「でも!」


「お前まで侵食されたら――」


実咲は。


首を振る。


「熊五郎」


「……」


「私はもう決めたよ」


実咲は。


光の中へ。


一歩踏み出す。


「守るって」


熊五郎は。


黙った。


実咲が。


厨房の鍋を見る。


そして。


両手を。


鍋へ向けた。


――パァァァッ!!


光が。


実咲の身体を包む。


食堂の壁。


床。


天井。


すべてが。


実咲の光と繋がっていく。


「うっ……!」


実咲が。


苦しそうに声を漏らす。


「実咲!」


「大丈夫……!」


光が。


さらに強くなる。


『防御担当――完全接続』


『食堂防衛出力――上昇』


『避難者保護機能――最大』


そして。


最後に。


『守護者――実咲』


実咲の目が。


大きく開く。


「……私が」


食堂全体から。


光が溢れ出す。


「この場所を守る」


――ドォォォォン!!


黒い槍が。


完全に押し返された。


巨大な影が。


後ろへ吹き飛ぶ。


ガルドが。


呆然とする。


「……すごい」


レオンも。


息を呑む。


熊五郎は。


実咲を見る。


そして。


小さく笑った。


「……立派になったな」


実咲が。


少しだけ振り返る。


「何それ」


「褒めてる」


「なら、もっと早く言ってよ」


熊五郎が。


笑う。


だが。


その瞬間。


厨房の鍋から。


再び声が響いた。


『第二記録――再生開始』


熊五郎の笑顔が。


消えた。


「……まだあるのか」


鍋の中に。


新しい映像が浮かぶ。


今度は。


血のついた厨房。


倒れている兵士。


燃える王城。


そして。


若い熊五郎が。


一人の少女を抱えている。


少女の身体には。


黒い線が走っていた。


熊五郎が。


震える声で叫んでいる。


「――俺が王でなければ!」


映像の中の熊五郎が。


少女を抱きしめる。


「お前は――」


そこで。


映像が途切れる。


熊五郎は。


何も言わない。


実咲も。


ガルドも。


レオンも。


黙っている。


そして。


黒い影の奥から。


先ほどの声が響いた。


「……思い出したか」


熊五郎が。


ゆっくり顔を上げる。


「お前……」


黒い霧の向こうで。


巨大な目が。


笑うように細くなった。


「その子を救えなかった日のことを」


熊五郎の右腕の黒い線が。


一気に。


胸へ広がった。

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