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第93話 食堂を守る者たち

第93話 食堂を守る者たち


――ズドォォォン!!


巨大な拳が。


食堂へ振り下ろされた。


大地が震える。


窓が激しく揺れる。


テーブルが跳ねる。


食器が一斉に鳴り響いた。


「きゃあっ!」


実咲が叫ぶ。


だが――。


食堂は。


壊れなかった。


「……え?」


実咲が目を開く。


目の前に。


透明な光の壁があった。


いや。


壁だけではない。


床。


天井。


柱。


食堂そのものが。


淡い光に包まれている。


巨大な拳は。


その光に阻まれていた。


――ギギギギギ……。


黒い拳が。


押し込もうとする。


しかし。


光の壁は。


一歩も動かない。


「……食堂が」


ガルドが呟く。


「守ってる?」


レオンも。


壁に手を当てる。


「違う」


「?」


「俺たちが守ってるんじゃない」


レオンが。


光を見る。


「こいつも……俺たちを守ってる」


熊五郎は。


厨房の鍋を見る。


鍋が。


強く光っていた。


『防衛機能――稼働』


『食堂――防衛状態』


『侵入者――排除対象』


「……そういうことか」


熊五郎が呟く。


実咲が振り返る。


「熊五郎?」


「この食堂は」


熊五郎は。


静かに言った。


「ただの建物じゃない」


――ドォン!


外から。


再び拳が叩きつけられる。


食堂全体が揺れる。


しかし。


光の壁は。


びくともしない。


「ここそのものが――」


熊五郎が。


厨房を見る。


「守るための魔法になってる」


「じゃあ……」


実咲が。


少しだけ安心する。


「私たちは中にいれば安全?」


「いや」


熊五郎は首を振る。


「違う」


「え?」


「この食堂は」


熊五郎は。


外の巨大な影を見る。


「守るだけじゃない」


その瞬間。


厨房の鍋が。


――ゴォォォッ!


強烈な光を放った。


床に。


新しい魔法陣が浮かぶ。


『防衛行動を選択してください』


実咲が。


目を丸くする。


「選択?」


ガルドが。


魔法陣を見る。


「攻撃するか」


レオンが続ける。


「逃げるか」


熊五郎が。


首を振る。


「違う」


魔法陣には。


もう一つ。


文字が浮かんでいた。


『食堂を守る者――役割を選択』


実咲が。


ゆっくり近づく。


「役割……」


光の文字が。


一つずつ現れる。


『料理』


『防御』


『運搬』


『迎撃』


『避難』


実咲が。


その文字を見つめる。


「……私は」


熊五郎が。


何も言わずに待つ。


実咲は。


少し考えた。


そして。


『防御』


に手を伸ばす。


「私はこれ」


光が。


実咲の手を包んだ。


――パァァァッ!


「うわっ!」


実咲の足元から。


光の線が広がる。


床。


壁。


天井。


厨房。


食堂の入り口。


すべてが。


一本の光で繋がっていく。


『防御担当――登録』


『守護対象――食堂』


『守護対象――食材』


『守護対象――避難者』


実咲が。


目を見開く。


「……避難者?」


熊五郎が。


頷く。


「この食堂は」


「……」


「町の避難場所にもなる」


その言葉を聞いた瞬間。


実咲の表情が変わった。


「じゃあ……」


窓の外を見る。


黒い霧。


逃げ惑う町の人々。


「みんなをここに入れればいいんだ」


「そうだ」


熊五郎は。


頷く。


「俺たちだけで守る必要はない」


実咲は。


両手を広げた。


「分かった!」


光が。


一気に食堂の外へ伸びていく。


道路に。


光の道ができる。


「こっち!」


実咲が叫ぶ。


「食堂まで走って!」


町の人々が。


その声に気づく。


「光だ!」


「こっちへ!」


「食堂に逃げろ!」


人々が。


光の道を走り始める。


しかし。


黒い霧が。


その道へ流れ込んでくる。


「来させない!」


実咲が。


手を握る。


光の壁が。


道路を塞ぐ。


――ズガァン!


黒い霧が。


光にぶつかる。


「くっ……!」


実咲の身体が。


大きく揺れる。


「実咲!」


熊五郎が叫ぶ。


「大丈夫!」


実咲は。


歯を食いしばる。


「私が守る!」


その声に。


光がさらに強くなる。


熊五郎は。


少しだけ笑った。


「……任せた」


そして。


外を見る。


巨大な影が。


再び拳を振り上げていた。


「今度は俺の番だ」


熊五郎が。


食堂の扉を開ける。


「熊五郎!」


実咲が振り返る。


「外へ行くの!?」


「ああ」


「一人で?」


「ガルド」


熊五郎が呼ぶ。


「分かってる」


ガルドが。


槍を握る。


「俺も行く」


レオンも。


前へ出た。


「俺も」


熊五郎が。


二人を見る。


「無理するな」


ガルドが笑う。


「それはお前だ」


三人が。


食堂の外へ出る。


黒い霧が。


一気に押し寄せる。


ガルドが。


槍を振り抜いた。


――ザンッ!


黒い霧を切り裂く。


レオンも。


剣を構える。


右足が。


震えている。


それでも。


立っている。


「……まだ動ける」


「十分だ」


熊五郎が。


左手を前へ。


風が。


一気に集まる。


――ゴォォォォォッ!


巨大な影が。


腕を振り下ろす。


熊五郎は。


真正面から。


受け止めた。


――ドォォォォン!!


風と黒い拳が。


正面からぶつかる。


大地が。


大きく沈む。


熊五郎の足元に。


亀裂が走る。


「ぐっ……!」


ガルドが。


目を見開く。


「熊五郎!」


「来るな!」


熊五郎が叫ぶ。


両足で。


地面を踏みしめる。


「これは――」


黒い拳を。


真正面から押し返す。


「俺が止める!」


――ゴォォォォォッ!!


風が爆発した。


巨大な腕が。


少しずつ押し戻される。


だが。


黒い影の力は。


桁違いだった。


「……重いな」


熊五郎の額から。


汗が落ちる。


右腕の黒い線が。


再び広がる。


「熊五郎!」


レオンが叫ぶ。


「右腕が!」


「見るな!」


熊五郎は。


歯を食いしばる。


「今は――」


さらに力を込める。


「こっちだ!」


巨大な拳を。


横へ弾き飛ばした。


――ドォォン!!


拳が。


地面へ落ちる。


巨大な影が。


初めて後ろへ下がった。


「やった!」


ガルドが叫ぶ。


しかし。


熊五郎は。


笑っていなかった。


「……違う」


「え?」


熊五郎が。


影の足元を見る。


黒い霧が。


地面から食堂へ向かって伸びている。


「こいつの狙いは」


熊五郎が。


目を細める。


「俺じゃない」


ガルドが。


食堂を見る。


「……実咲か?」


熊五郎は。


首を振る。


「もっと奥だ」


その瞬間。


食堂の厨房から。


大きな音がした。


――ガァン!!


熊五郎が。


振り返る。


「……鍋?」


厨房の鍋が。


一瞬だけ。


黒く染まった。


実咲が。


驚いて叫ぶ。


「熊五郎!」


鍋の中から。


黒い煙が。


立ち上がる。


そして。


その煙が。


一つの文字を作った。


『料理人の記憶――解放』


熊五郎の顔から。


血の気が引いた。


「……やめろ」


初めて。


熊五郎が。


明確な恐怖を見せた。


ガルドが。


驚く。


「熊五郎?」


熊五郎は。


鍋を睨みながら。


呟いた。


「そこだけは――」


黒い煙が。


さらに濃くなる。


『過去の王――記録開始』


熊五郎の目の前に。


かつての王城。


かつての兵士。


かつての厨房。


そして――。


血に染まった床が。


一瞬だけ浮かび上がった。


熊五郎は。


拳を握る。


「……その記憶を」


声が震える。


「今、開くな」


だが。


鍋は止まらない。


『第一記録――』


黒い煙の中から。


一人の少女の姿が現れた。


熊五郎が。


息を呑む。


「……お前は」


実咲も。


その姿を見る。


「誰……?」


熊五郎は。


答えられなかった。


ただ。


その少女を見つめたまま。


小さく呟く。


「……俺が」


そして。


過去を思い出す。


「守れなかった――」


その瞬間。


黒い影が。


再び立ち上がった。


巨大な腕が。


今度は熊五郎ではなく。


食堂へ向かう。


実咲が。


光の壁を構える。


「来させない!」


熊五郎が。


振り返る。


「実咲!」


「大丈夫!」


実咲は。


両手を広げる。


「今度は私が――」


光が。


食堂全体を包む。


「みんなを守る!」


そして。


巨大な拳が。


再び。


食堂へ振り下ろされた。

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