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第72話 食堂を使った戦い

第72話 食堂を使った戦い


「――追い出す!」


実咲の声が。


食堂に響いた。


巨大な存在が。


四本の腕を広げる。


「――くだらない」


「くだらなくない!」


実咲が。


鍋を掲げる。


「ここは食堂なんだから!」


光の壁が。


一枚。


二枚。


三枚。


食堂の中に現れる。


壁ではない。


細い通路のように。


敵の進める場所だけを。


残している。


「熊五郎!」


「分かってる!」


熊五郎が。


左手を振る。


――ゴォッ!


風が。


巨大な存在の背中を押した。


「――!」


巨大な存在が。


前へ進む。


その先には。


光の壁。


「右!」


実咲が。


叫ぶ。


「右に逃がす!」


ガルドが。


右側へ回り込む。


「任せろ!」


巨大な存在が。


右腕を振る。


ガルドは。


しゃがんでかわした。


「今だ!」


レオンが。


横から椅子を投げる。


「――!」


椅子が。


巨大な存在の足元へ。


ガンッ!


足が。


わずかに止まった。


「レオン!」


実咲が。


思わず叫ぶ。


「椅子を投げるの!?」


「他に武器がない!」


「店の椅子!」


「後で直す!」


「それ二回目!」


実咲が。


叫びながらも。


笑ってしまう。


だが。


その瞬間。


巨大な存在が。


椅子を踏み潰した。


――バキッ!


「……」


レオンが。


固まる。


「……直せない」


実咲の顔が。


引きつった。


「熊五郎に怒られるよ」


「……」


「絶対怒る」


「……後で謝る」


その時。


巨大な存在が。


突然。


動きを止めた。


「……?」


熊五郎が。


目を細める。


「どうした?」


巨大な存在は。


床を見る。


「――理解した」


「何をだ?」


「この食堂そのものを」


黒い霧が。


身体から噴き出す。


「――武器にしている」


実咲の顔が。


険しくなる。


「気づかれた」


熊五郎が。


頷く。


「なら」


左手を構える。


「次は違う方法だ」


巨大な存在の身体が。


黒い霧に変わる。


「――!」


実咲が。


驚く。


「また霧になる!」


黒い霧が。


床を這う。


光の壁の隙間を。


すり抜けていく。


「実咲!」


熊五郎が。


叫ぶ。


「厨房!」


「分かってる!」


実咲は。


走った。


黒い霧が。


厨房へ向かう。


実咲は。


鍋を床に置いた。


そして。


両手を。


床につく。


「お願い……!」


光が。


床を走った。


厨房から。


食堂全体へ。


一本の線が伸びる。


「ここ!」


実咲が。


叫ぶ。


光の線が。


黒い霧を囲む。


「閉じ込める!」


黒い霧が。


光の中で暴れる。


「――!」


だが。


霧の一部が。


外へ逃げた。


「しまった!」


熊五郎が。


風を放つ。


――ゴォッ!


逃げた霧が。


壁へ叩きつけられる。


「逃がすか!」


しかし。


黒い霧は。


壁をすり抜けた。


「……!」


熊五郎が。


舌打ちする。


「壁も抜けるか」


ガルドが。


叫ぶ。


「なら外へ出るぞ!」


「待て!」


熊五郎が。


止める。


「外へ出したら」


「……」


「町に行く」


ガルドが。


理解した。


「なるほど」


巨大な存在が。


黒い霧のまま。


食堂の外へ向かう。


実咲が。


入口を見る。


「外へ出すわけにはいかない」


「そうだ」


熊五郎が。


左手を向ける。


「実咲」


「うん!」


「入口を閉じろ!」


実咲が。


両手を広げる。


「――閉じる!」


光の壁が。


入口を塞いだ。


黒い霧が。


正面からぶつかる。


――バチィッ!


「くっ……!」


実咲が。


歯を食いしばる。


「重い……!」


熊五郎が。


振り返る。


「実咲!」


「大丈夫!」


「無理するな!」


「無理じゃない!」


実咲は。


足を踏ん張る。


「私はこの店を守るって決めたの!」


その声に。


光が。


強くなる。


黒い霧が。


押し戻された。


「……!」


熊五郎が。


笑う。


「いいぞ」


そして。


熊五郎が。


左手を上げる。


「ガルド!」


「任せろ!」


「レオン!」


「分かった!」


ガルドが。


左から。


レオンが。


右から。


黒い霧を追い込む。


実咲の光の壁が。


進路を限定する。


熊五郎の風が。


最後の逃げ道を塞ぐ。


「――今だ!」


熊五郎が。


叫んだ。


三人が。


同時に動く。


――ドォォォン!


黒い霧が。


食堂中央へ。


押し戻された。


黒い霧が。


一つに集まる。


そして。


再び。


巨大な身体を作り始めた。


「戻った……」


レオンが。


呟く。


巨大な存在が。


膝をつく。


「……おのれ」


熊五郎が。


近づく。


「終わりだ」


「――まだだ」


巨大な存在が。


笑った。


その胸の黒い塊が。


大きく脈打つ。


ドクン。


ドクン。


「――この食堂には」


熊五郎が。


眉をひそめる。


「何だ?」


「王の力を受け継ぐものが」


黒い塊から。


細い黒い線が。


伸びる。


一本。


二本。


三本。


その先は。


厨房。


「――!」


実咲が。


気づく。


「私?」


黒い線が。


実咲の鍋へ向かう。


「させない!」


実咲が。


鍋を抱える。


だが。


黒い線は。


鍋そのものではなく。


鍋の中にある光へ。


伸びていく。


「……!」


熊五郎が。


叫ぶ。


「実咲!」


「うん!」


「鍋を離せ!」


「嫌!」


「危険だ!」


「これがないと!」


実咲が。


鍋を抱きしめる。


「この店を守れない!」


黒い線が。


鍋へ触れる。


――ビリッ!


実咲の身体が。


大きく震えた。


「――っ!」


「実咲!」


熊五郎が。


駆け出す。


だが。


黒い線が。


熊五郎の前にも伸びる。


「……!」


熊五郎が。


止まる。


黒い線の先。


実咲。


その背後。


黒い塊。


そして。


その間に。


一本の線。


「……そういうことか」


熊五郎が。


呟いた。


「こいつは」


左手を。


ゆっくり握る。


「俺じゃなく」


実咲を使って――。


俺の力を引き出そうとしている。


黒い塊が。


笑った。


「――正解だ」


実咲の鍋が。


さらに強く光る。


そして。


実咲の足元に。


熊五郎が見たことのない。


巨大な魔法陣が。


浮かび上がった。


その中心には。


王冠。


剣。


そして――。


鍋。


熊五郎の顔から。


笑みが消えた。


「……その魔法陣」


ガルドが。


息を呑む。


「知っているのか?」


熊五郎は。


答えない。


ただ。


魔法陣を見つめていた。


そして。


小さく。


呟いた。


「……昔」


「俺は」


「この魔法陣を――」


そこで。


魔法陣が。


一気に光った。

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