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第70話 三人の守護者

第70話 三人の守護者


「――陛下」


三つの影が。


同時に。


そう呼んだ。


食堂の空気が。


一瞬で凍りつく。


実咲は。


鍋を抱えたまま。


三人の影を見る。


「……また」


黒い霧に包まれた身体。


人の姿をしている。


だが。


その顔は。


ほとんど見えない。


ガルドが。


一歩前へ出た。


「何者だ」


三人は。


答えない。


ただ。


同じように。


熊五郎がいる地下への階段を見る。


「陛下……」


「帰還……」


「確認……」


実咲が。


眉をひそめた。


「熊五郎を連れていくつもり?」


三人の影が。


ゆっくり。


実咲を見る。


「――王は戻らなければならない」


「どこへ?」


「王城へ」


「嫌」


実咲が。


即答した。


ガルドが。


驚いて実咲を見る。


「実咲?」


「熊五郎は」


実咲は。


鍋を抱え直す。


「もう王じゃない」


三人の影が。


同時に動きを止めた。


「熊五郎は」


実咲が。


続ける。


「この食堂の店主だから」


「……」


「帰る場所は」


看板を見る。


『まずは飯だ』


「ここ」


その瞬間。


三人の影から。


黒い霧が噴き出した。


「――拒否」


「――王は王城へ」


「――食堂は不要」


実咲の表情が。


変わった。


「……不要?」


鍋を。


ぎゅっと握る。


「この店を?」


黒い霧が。


食堂を覆う。


「――不要」


「――破壊する」


「――王を連れ戻す」


実咲は。


黙った。


そして。


静かに言った。


「……分かった」


ガルドが。


見る。


「実咲?」


「私」


実咲は。


三人の影を見る。


「怒った」


その瞬間。


鍋の紋章が。


強く輝いた。


――カッ!


光の壁が。


食堂全体を包み込む。


三人の影が。


一斉に飛び込んできた。


――ドォン!


光の壁に。


身体を叩きつける。


「――!」


三人が。


弾き飛ばされた。


「守るだけじゃない」


実咲が。


一歩前へ出る。


「この店を」


さらに。


光が強くなる。


「ここにいる人たちを」


そして。


鍋を掲げる。


「熊五郎が帰ってくる場所を!」


――バァァァン!


光の壁が。


爆発するように広がった。


黒い霧が。


一気に吹き飛ぶ。


ガルドが。


目を見開いた。


「実咲……!」


レオンも。


驚いている。


「これが……実咲の力」


だが。


三人の影は。


倒れていなかった。


ゆっくり。


立ち上がる。


「――守護能力」


「――予想以上」


「――王の近くに置く価値あり」


実咲が。


眉をひそめる。


「置く?」


「――王を守る者として」


「――認定する」


「――同行を許可」


「……」


実咲は。


ため息をついた。


「誰が一緒に行くって言ったの?」


三人の影が。


止まる。


「熊五郎は」


実咲は。


はっきりと言った。


「私が守るんじゃない」


「……」


「一緒に守るの」


その言葉に。


ガルドが。


小さく笑った。


「なるほどな」


レオンも。


頷く。


「俺も同じだ」


実咲が。


二人を見る。


「じゃあ」


「?」


「一緒に守ろう」


ガルドが。


剣を構える。


「当然だ」


レオンも。


剣を握る。


「俺も」


三人の影が。


同時に。


黒い霧を放った。


「――排除」


ガルドが。


前へ出る。


「来い!」


剣が。


黒い霧を切り裂く。


だが。


切った瞬間。


ガルドの腕に。


黒い線が走った。


「――ぐっ!」


「ガルド!」


実咲が。


叫ぶ。


「大丈夫だ!」


ガルドは。


腕を押さえる。


「これくらい――」


「駄目!」


実咲が。


鍋を向ける。


「その黒い線は」


光が。


ガルドの腕を包む。


「これ以上広げさせない!」


ガルドの黒い線が。


一瞬。


止まった。


「……!」


ガルドが。


目を見開く。


「止まった?」


実咲自身も。


驚く。


「私にも……できた?」


黒い線が。


完全には消えない。


だが。


それ以上。


広がらなくなった。


レオンが。


呟く。


「黒い霧を治したんじゃない」


「……」


「広がるのを止めたんだ」


実咲は。


頷く。


「それなら」


鍋を握る。


「十分」


その時。


地下から。


熊五郎の声が響いた。


「――実咲!」


「熊五郎!」


「ガルド!」


「いるぞ!」


「レオン!」


「ここだ!」


熊五郎の声が。


少しだけ安心したように聞こえた。


「……よかった」


実咲が。


笑う。


「熊五郎!」


「何だ!」


「こっちは大丈夫!」


「そうか!」


「だから!」


実咲は。


三人の影を見る。


「そっちは任せた!」


「分かった!」


熊五郎の声が。


地下へ消える。


実咲は。


鍋を握る。


「私も」


三人の影へ。


一歩。


近づいた。


「ここを守る!」


その瞬間。


三人の影の一人が。


初めて。


黒い霧の向こうから。


顔を見せた。


若い男。


兵士の顔だった。


そして。


その目から。


涙が落ちた。


「……陛下」


実咲が。


息を呑む。


「あなた……」


男が。


震える声で言う。


「俺たちは……」


「……」


「王を連れ戻したいんじゃない」


「え?」


男の身体を覆う黒い霧が。


一瞬だけ薄くなる。


「王に……」


「……」


「もう一度」


男は。


涙を流しながら。


言った。


「国を守ってほしいんだ」


ガルドが。


黙る。


実咲も。


何も言えない。


その時。


地下から。


熊五郎の声が響いた。


「――断る!」


男が。


顔を上げる。


「俺は」


熊五郎の声が。


はっきり響く。


「もう国王には戻らない!」


実咲が。


地下への階段を見る。


「熊五郎……」


「俺には」


熊五郎の声が。


続く。


「守るものがある!」


その言葉に。


実咲の鍋が。


また強く光った。


三人の影の黒い霧が。


大きく揺れる。


そして。


地下の奥から。


今までとは違う。


巨大な声が響いた。


『――ならば』


『王よ』


『お前が選んだ食堂ごと――』


地面が。


大きく揺れた。


『――試してやろう』


その瞬間。


食堂の床に。


巨大な魔法陣が。


浮かび上がった。


実咲が。


息を呑む。


「……何これ」


ガルドが。


顔色を変える。


「まずい……」


「何が?」


ガルドが。


魔法陣を見る。


「これは――」


そして。


地下から。


熊五郎の声。


「実咲!」


「うん!」


「その魔法陣から離れろ!」


「え?」


魔法陣が。


赤く光った。


そして。


食堂の床が。


ゆっくりと。


開き始めた。


――ゴゴゴゴゴゴ……。


その下から。


巨大なものが。


せり上がってくる。


実咲は。


鍋を握りしめる。


「……まだ」


「……」


「私が守る」


そして。


光の壁を。


再び展開した。


だが。


今度の敵は。


これまでとは。


比べものにならないほど。


巨大だった。

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