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第68話 食堂を守る者

第68話 食堂を守る者


――カッ!


実咲の手の中で。


鍋の紋章が強く光った。


「……なに、これ」


実咲は。


鍋を見つめる。


王冠。


剣。


そして――鍋。


地下で見た紋章と。


同じだった。


「私が……守る?」


小さく呟く。


その瞬間。


黒い霧が。


再び厨房へ押し寄せてきた。


「――っ!」


実咲が。


一歩下がる。


だが。


その足は。


止まらなかった。


「来るなら……」


実咲は。


鍋を両手で握る。


「ここから先は入れない!」


黒い霧が。


一気に迫る。


――ズズズズズッ!


しかし。


厨房の入口に張られた光の壁が。


黒い霧を弾き返した。


「――!」


実咲が。


目を丸くする。


「本当に……守ってくれてる」


黒い霧が。


何度もぶつかる。


バチッ!


バチッ!


そのたびに。


光の壁が揺れる。


実咲も。


必死に鍋を握る。


「負けない……」


壁が。


大きく揺れる。


「ここは……」


さらに。


黒い霧が押し寄せる。


「熊五郎が大事にしてる場所だから!」


その言葉に。


光の壁が。


一瞬だけ強く輝いた。


――バァン!


黒い霧が。


大きく吹き飛んだ。


「……え?」


実咲が。


呆然とする。


厨房が。


静かになった。


「私の気持ちで……強くなった?」


実咲は。


鍋を見る。


すると。


鍋の中から。


小さな光が一つ。


ふわりと浮かび上がった。


「……何?」


光は。


厨房の中を漂い。


食材の入った棚へ向かった。


そして。


魚に触れる。


魚が。


淡く光った。


「え……?」


次に。


野菜。


肉。


水。


米。


一つずつ。


小さな光が触れていく。


実咲は。


息を呑んだ。


「食材まで……?」


その時。


背後から。


声がした。


「実咲!」


振り返る。


ガルドだった。


「大丈夫か!」


「うん!」


「今の光は?」


「分からない」


実咲は。


鍋を見る。


「でも」


少し笑う。


「この厨房を守れるみたい」


ガルドが。


厨房を見る。


「……すごいな」


「でも」


実咲は。


首を振る。


「熊五郎みたいな魔法じゃないよ」


「それでも十分だ」


ガルドは。


真剣な顔で言った。


「守る力に大きさは関係ない」


「……」


「ここを守れるなら」


ガルドは。


剣を握る。


「俺たちが戦える」


実咲が。


頷いた。


「じゃあ……」


厨房の奥を見る。


「私はここを守る」


「頼む」


ガルドが。


走っていく。


レオンも。


壁際から立ち上がった。


「俺も行く」


「レオン」


「まだ右足は思うように動かない」


レオンは。


右足を見る。


黒い線が。


膝へ向かって伸びている。


「でも」


剣を握る。


「守られてるだけは嫌だ」


実咲が。


笑った。


「じゃあ一緒に守ろう」


「……ああ」


二人は。


厨房の前に立った。


その時。


地下から。


大きな音が響いた。


――ドォォォォン!


床が揺れる。


「熊五郎……!」


実咲が。


階段を見る。


「大丈夫かな」


ガルドが。


地下を見つめる。


「……あいつなら」


そう言いながら。


ガルドの表情は険しかった。


「だが」


「?」


「今回は違う」


「何が?」


「地下にいるものは」


ガルドが。


ゆっくり言う。


「熊五郎自身を知っている」


実咲が。


黙る。


「そして」


ガルドは。


続ける。


「昔の熊五郎を知っている」


その時。


地下から。


熊五郎の声が響いた。


「――俺は王じゃない!」


実咲が。


顔を上げる。


続いて。


巨大な衝撃音。


――ドォォォォン!


「熊五郎!」


実咲が。


階段へ走ろうとする。


だが。


ガルドが。


腕を掴む。


「行くな!」


「でも!」


「お前には」


ガルドが。


厨房を見る。


「ここを守る役目がある」


「……」


実咲は。


足を止めた。


そして。


ゆっくり振り返る。


厨房。


鍋。


食材。


看板。


『まずは飯だ』


「……そうだね」


実咲は。


鍋を握る。


「熊五郎が帰ってくる場所」


そして。


小さく笑う。


「ここをなくしたら駄目だもんね」


その瞬間。


厨房の光の壁が。


また強く輝いた。


――カッ!


ガルドが。


驚く。


「また強くなった……」


実咲自身も。


驚いている。


「私……」


鍋を見る。


「守りたいって思うほど」


光が強くなる。


その時。


厨房に。


新しい変化が起きた。


食材の周りにあった光が。


鍋へ集まり始めた。


魚。


肉。


野菜。


米。


水。


すべての光が。


鍋の中へ。


ふわり。


ふわり。


と入っていく。


「……料理?」


実咲が。


呟く。


鍋の中に。


小さな光が渦を巻く。


そして。


一瞬。


熊五郎の声が聞こえた。


『腹が減ったな』


「……ふふ」


実咲が。


笑う。


「こんな時までそれ?」


ガルドも。


少しだけ笑った。


だが。


次の瞬間。


地下から。


低い声が響いた。


『――料理を作る者』


『料理を守る者』


『二つが揃った』


実咲の笑顔が。


消える。


「……誰?」


『王の帰還条件――』


『最終段階へ移行する』


「最終……?」


地下の奥で。


何かが。


目を開いた。


赤い光。


一つ。


二つ。


そして。


三つ。


ガルドが。


剣を構える。


「実咲」


「うん」


「何か来る」


「分かった」


実咲は。


鍋を抱え直す。


「ここは渡さない」


レオンも。


剣を構える。


「俺もいる」


そして。


三人が。


厨房の前に並んだ。


地下への階段から。


黒い霧が。


ゆっくり上がってくる。


だが。


今度の霧の中には。


人影があった。


実咲が。


息を呑む。


「……人?」


黒い霧の向こう。


ゆっくりと。


誰かが歩いてくる。


そして。


その人物は。


店の入口に立つと。


静かに。


言った。


「――この食堂を守る者よ」


実咲が。


顔を上げる。


「あなたは……誰?」


黒い影が。


顔を上げた。


「――王を守る者だ」


その瞬間。


実咲の鍋が。


今までで一番強く。


光った。

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