第67話 狙われた食堂
第67話 狙われた食堂
――ゴゴゴゴゴゴ……。
地下から。
大きな音が響いていた。
『――王よ』
『今度は』
『国を選べ』
その声に。
熊五郎は。
左手を握りしめた。
「……国なんか選ばない」
「熊五郎?」
実咲が。
隣を見る。
熊五郎は。
地下への階段を見つめていた。
「俺はここを守る」
「……」
実咲は。
少しだけ黙った。
そして。
自分の周りを見る。
壊れかけた壁。
散らばった椅子。
厨房。
鍋。
そして。
店の入口。
「……私も」
実咲が。
呟いた。
「私も守る」
熊五郎が。
振り返る。
「実咲?」
「この店」
実咲は。
看板を見る。
『まずは飯だ』
「熊五郎が戦ってる間」
拳を握る。
「私はここを守る」
「危ないぞ」
「分かってる」
実咲は。
熊五郎を見る。
「でも」
一歩前へ出る。
「私だって、この店にいるんだから」
「……」
「ずっと守られてるだけなんて嫌」
熊五郎は。
しばらく黙った。
そして。
小さく頷いた。
「分かった」
「え?」
「なら任せる」
実咲が。
目を丸くする。
「本当に?」
「ああ」
熊五郎は。
厨房を見る。
「厨房を守れ」
「厨房?」
「飯を作る場所だ」
熊五郎は。
真剣な顔で言う。
「ここを取られたら」
「……」
「俺は飯を作れない」
実咲の顔が。
少しだけ変わった。
「それなら」
実咲は。
厨房へ向かう。
「絶対に守る」
熊五郎が。
ニヤッと笑う。
「頼んだ」
その時。
黒い霧が。
店の入口から押し寄せた。
「来た!」
ガルドが。
剣を構える。
「熊五郎!」
「分かってる」
熊五郎が。
左手を上げる。
ゴォォォォッ!
風が。
黒い霧を押し返す。
だが。
今度は。
別の場所から。
黒い根が伸びてきた。
「――厨房!」
実咲が。
叫ぶ。
黒い根が。
厨房へ向かってくる。
「させない!」
実咲は。
近くにあった椅子を掴んだ。
「えいっ!」
バキッ!
根を叩く。
「痛っ!」
「実咲!」
熊五郎が。
振り返る。
「大丈夫!」
実咲は。
涙目になりながら。
もう一度椅子を構える。
「厨房は!」
黒い根が。
再び伸びる。
「私が守る!」
「……」
熊五郎の口元が。
少し上がった。
「そうか」
実咲は。
厨房の入口に立つ。
「熊五郎!」
「何だ?」
「そっちは任せた!」
「任せろ」
「私はこっちを守る!」
「頼んだ!」
熊五郎が。
地下への階段へ向かう。
その背中を見送りながら。
実咲は。
厨房を見る。
「……私にできること」
そして。
鍋を見る。
「飯を作ること」
実咲は。
鍋を掴んだ。
「それなら」
黒い霧が。
厨房へ迫る。
実咲は。
一歩も下がらない。
「私だって――」
鍋を。
両手で構える。
「食堂の一員なんだから!」
――ゴォッ!
その瞬間。
鍋の底に浮かんだ紋章が。
一瞬だけ。
光った。
「……え?」
実咲が。
目を見開く。
鍋の中に。
小さな光が灯る。
それは。
熊五郎の魔法とは違う。
弱く。
小さく。
それでも。
確かに。
実咲の手の中で。
輝いていた。
地下から。
再び声が響く。
『――王の料理を守る者』
実咲が。
振り返る。
「……私?」
『――登録を開始』
「ちょっと待って」
実咲が。
眉をひそめる。
「何それ?」
返事はない。
ただ。
鍋の紋章だけが。
強く光った。
そして。
厨房の周囲に。
薄い光の壁が現れた。
黒い霧が。
その壁に触れる。
――ジュッ。
黒い霧が。
弾かれた。
「……え?」
実咲が。
呆然とする。
その向こうで。
ガルドが。
目を見開いた。
「結界……?」
レオンも。
驚く。
「実咲が……?」
実咲は。
自分の手を見る。
「私……」
そして。
鍋を見る。
「守れた?」
その瞬間。
地下から。
熊五郎の声が響いた。
「実咲!」
「熊五郎!」
「厨房は!」
実咲は。
胸を張った。
「大丈夫!」
「そうか!」
「私が守る!」
熊五郎が。
笑った。
「頼んだ!」
そして。
熊五郎は。
地下へ消えていく。
実咲は。
厨房の入口に立った。
小さな光の壁を背に。
鍋を抱える。
「……私にも」
黒い霧が。
再び迫る。
「守れるものがあるんだ」
その瞳に。
もう。
最初の頃の怯えだけはなかった。
そして。
地下深く。
巨大な扉の向こうから。
別の声が響く。
『――王だけではない』
『この食堂には――』
『もう一人、守る者がいる』
実咲の持つ鍋が。
再び。
強く光った。




