↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/120

第6話 熊五郎、食堂を開店する

第6話 熊五郎、食堂を開店する


翌朝。


まだ空が明るくなり始めたばかりの時間だった。


「実咲、起きろ」


「……ん……」


布団の中で、実咲が寝返りを打つ。


「まだ眠い……」


「朝だ」


「分かってる……」


「起きろ」


「あと五分……」


熊五郎は実咲の布団をじっと見つめた。


そして――。


「朝飯を作ったぞ」


「……え?」


実咲の目が開いた。


「朝ごはん?」


「ああ」


「熊五郎が?」


「俺以外に誰がいる」


「……確かに」


実咲は起き上がった。


台所へ行くと、すでに朝食が用意されていた。


焼き魚。


野菜のスープ。


パン。


そして、簡単な卵料理まで並んでいる。


「朝からこんなに作ったの?」


「腹が減るからな」


「熊五郎は朝から元気だね……」


魚屋の店主も起きてきた。


「おお、もう朝飯ができているのか」


「食べろ」


「いただこう」


三人で朝食を食べる。


「うまいな」


店主が笑う。


「今日から店を始めるんだったな」


「ああ」


熊五郎は嬉しそうに頷いた。


「今日は忙しくなるぞ」


実咲は熊五郎を見る。


「なんか、昨日からずっと機嫌いいね」


「当然だ」


「そんなに食堂が楽しみなの?」


「ああ」


熊五郎は最後の一口を食べると、立ち上がった。


「行くぞ」


「もう?」


「開店準備がある」


「はいはい」


実咲も立ち上がった。


---


食堂へ到着すると、熊五郎は扉を開けた。


「今日からここが俺の店だ」


「本当に始まるんだね」


実咲は店内を見回した。


昨日、老人と一緒に準備した店。


今日からここで料理を出す。


熊五郎は店内を見渡すと、すぐに指示を出した。


「実咲」


「何?」


「まず掃除だ」


「はい?」


「床」


「……はい」


「テーブル」


「はい」


「窓」


「はいはい」


「厨房も頼む」


実咲が振り返る。


「ちょっと待って! 私、掃除係なの?」


「俺は料理をする」


「それは分かるけど!」


「だから実咲は掃除だ」


「店主って、そんなに偉いの!?」


熊五郎は真顔で答えた。


「店主だからな」


「昨日まで魚屋さんの店先で一緒に働いてたのに!」


「今日から店主だ」


「急に偉くなった!」


実咲は文句を言いながらも、掃除を始めた。


床を掃く。


テーブルを拭く。


窓を磨く。


熊五郎はその間に厨房を確認していく。


「鍋よし」


「皿よし」


「包丁よし」


「熊五郎!」


「なんだ?」


「掃除も手伝ってよ!」


「厨房は掃除した」


「そこだけ!?」


「料理を作る場所だからな」


「はいはい……」


実咲は呆れながら掃除を続けた。


その間に熊五郎は店の外へ出た。


入口の前には、昨日老人からもらった古い看板が立てかけてある。


「店の名前を書かないとな」


熊五郎は筆と黒い塗料を用意した。


「何を書くの?」


実咲が聞く。


「店の名前だ」


「『まずは飯だ』だよね」


「ああ」


熊五郎は看板に文字を書き始めた。


一文字。


また一文字。


そして――。


「できた」


実咲が看板を見る。


そこには大きく、


『まずは飯だ』


と書かれていた。


「……」


「どうだ?」


「うん……」


実咲は少し考える。


「思ったより普通」


「そうだろう」


「でも、なんでこんなに大きく書いたの?」


看板いっぱいに文字が書かれている。


「遠くからでも分かるようにした」


「なるほど」


熊五郎は看板を店の前に立てた。


「よし」


一歩下がって眺める。


「『まずは飯だ』」


「うん」


「いい店名だ」


「自分で言うんだ……」


熊五郎は満足そうだった。


そのとき――。


「おーい!」


店の外から声が聞こえた。


二人が振り返る。


魚屋の店主が、大きな箱を抱えて歩いてきた。


「食材を持ってきたぞ!」


「ありがとうございます!」


実咲が駆け寄る。


熊五郎も店の外へ出る。


「魚か?」


「もちろんだ」


魚屋の店主は箱を開けた。


中には新鮮な魚がたくさん入っている。


さらに野菜や調味料も入っていた。


「頼まれたものは一通り揃えたぞ」


熊五郎は中身を確認する。


「いい魚だ」


「今朝仕入れたばかりだからな」


熊五郎の目が輝く。


「これなら料理ができる」


実咲はその顔を見て笑った。


「熊五郎、もう料理のことしか考えてないでしょ」


「当然だ」


熊五郎は食材を厨房へ運び始めた。


「今日から、ここで料理を作る」


店の前には、大きく書かれた看板。


『まずは飯だ』


開店準備は整った。


あとは――。


お客さんを待つだけだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。