第46話 黒い塊への一撃
第46話 黒い塊への一撃
熊五郎とガルドは、巨大魔物の胸へ向かって走っていた。
目の前には。
巨大な黒い塊。
ドクン。
ドクン。
脈打つたびに、黒い霧が周囲へ吹き出している。
「ガルド!」
「分かってる!」
ガルドは剣を握り直した。
「俺が近づく!」
「俺が霧を押さえる!」
熊五郎が風を放つ。
ゴォォォォォッ!
黒い霧が左右へ押し広げられた。
一瞬。
巨大魔物の胸が見える。
「今だ!」
ガルドが走った。
巨大魔物が腕を振り上げる。
「来るぞ!」
ドォォォォン!
巨大な腕が地面を叩く。
ガルドは横へ飛んだ。
地面が砕ける。
「くっ……!」
それでも止まらない。
「あと少し!」
ガルドが立ち上がる。
巨大魔物がもう一度腕を振る。
「させるか!」
熊五郎の風が腕を横へ押し流した。
ドォン!
腕が地面を叩く。
「今だ、ガルド!」
「おう!」
ガルドが跳んだ。
巨大魔物の胸へ。
黒い塊へ。
剣を振り上げる。
「これで――!」
ガキィン!
剣が黒い塊に当たった。
だが。
「なっ……!」
弾かれた。
ガルドの身体が後ろへ吹き飛ぶ。
「ガルド!」
熊五郎が風を操る。
ゴォッ!
風がガルドの身体を受け止めた。
「大丈夫か?」
「……ああ」
ガルドは地面に着地した。
剣を見る。
刃が欠けている。
「硬すぎる……」
熊五郎は黒い塊を見る。
「ただ硬いだけじゃない」
「何?」
「攻撃した瞬間に、魔力を吸っている」
ガルドの顔が険しくなる。
「俺の剣から?」
「そうだ」
熊五郎は黒い塊を見つめる。
「だから弾かれた」
ドクン。
黒い塊が脈打つ。
その瞬間。
黒い霧が二人へ向かって押し寄せた。
「来る!」
熊五郎が風を放つ。
ゴォォォォォッ!
黒い霧が押し返される。
しかし。
熊五郎の額に汗が浮かんだ。
「……重い」
「熊五郎?」
「さっきより強くなっている」
「じゃあ、どうする?」
熊五郎は少し考えた。
そして。
「直接攻撃をやめる」
「何?」
「魔力を吸われるなら、魔力をぶつける必要はない」
ガルドが熊五郎を見る。
「じゃあ、どうやって壊す?」
熊五郎は周囲を見た。
巨大魔物の胸。
黒い塊。
その周囲には。
黒い霧が渦巻いている。
「……あそこだ」
「何が見える?」
「黒い塊の根元」
熊五郎が指す。
「霧が集中している」
ガルドも目を凝らした。
「確かに……」
黒い塊は巨大魔物の胸に埋まっている。
だが。
完全に一体化しているわけではない。
根元には。
細い黒い筋が何本も伸びていた。
「なら……」
ガルドが剣を構える。
「根元を切る」
「そういうことだ」
熊五郎が頷く。
「俺が霧を押さえる」
「俺が切る」
「行け」
「分かった!」
ガルドが走る。
熊五郎が風を放つ。
ゴォォォォォッ!
黒い霧が大きく左右へ分かれる。
その隙間を。
ガルドが駆け抜ける。
巨大魔物が気づいた。
「グォォォォォォッ!」
咆哮。
大地が震える。
ガルドの足が止まりそうになる。
「……負けるか!」
再び走る。
巨大魔物の腕が迫る。
「ガルド!」
熊五郎の風が腕を弾く。
「今だ!」
「おおおおおっ!」
ガルドが跳ぶ。
そして。
黒い塊の根元へ。
剣を振り下ろした。
ズバンッ!
黒い筋の一本が切れた。
「――!」
巨大魔物が大きく身体を揺らした。
「効いた!」
ガルドが叫ぶ。
黒い霧が一瞬だけ弱まった。
だが。
その直後。
ドクン――。
黒い塊が強く脈打つ。
「ぐっ……!」
ガルドの右腕に激痛が走った。
黒い線が。
肘から肩へ一気に伸びる。
「ガルド!」
「大丈夫だ!」
ガルドは腕を押さえる。
「まだ動く!」
「無理するな」
「無理をしなきゃ、こいつを止められない!」
ガルドは再び剣を構えた。
「もう一本!」
熊五郎はガルドを見る。
そして。
「……分かった」
風をさらに強くする。
「次で決めるぞ」
「おう!」
二人が同時に動く。
その時。
後方から。
「――うわああああっ!」
レオンの叫び声が響いた。
熊五郎が振り向く。
「レオン!」
レオンは胸を押さえていた。
黒い線が。
心臓のすぐ近くまで迫っている。
「熊五郎……!」
「どうした?」
「俺……」
レオンの呼吸が乱れる。
「心臓の音が……」
「……」
「また二つ聞こえる」
ドクン。
ドクン。
そして。
もう一つ。
ドクン。
「俺の心臓じゃない……」
レオンの目に恐怖が浮かぶ。
「何かが……俺の中で動いてる」
熊五郎の表情が変わった。
「……まだ意識はあるか?」
「ある!」
「自分の名前は?」
「レオン!」
「ここは?」
「戦場!」
「誰がお前を呼んでいる?」
「……分からない」
レオンは胸を押さえる。
「でも……聞こえる」
「何が?」
「来いって……」
熊五郎は巨大魔物の胸を見る。
黒い塊が。
ドクン。
そして。
レオンの胸も。
ドクン。
同じタイミングで脈打った。
熊五郎の目が細くなる。
「やっぱり……」
ガルドが叫ぶ。
「熊五郎!」
巨大魔物の胸から。
黒い霧が再び噴き出した。
「来るぞ!」
熊五郎が風を放つ。
ゴォォォォォッ!
霧が押し返される。
ガルドが剣を握る。
「熊五郎!」
「ああ!」
「次で切る!」
「行け!」
ガルドが走った。
黒い塊の根元へ。
そして。
剣を振り上げる。
「これで――!」
その瞬間。
黒い塊が。
大きく脈打った。
ドクン――。
戦場全体が。
黒い霧に包まれた。




