第4話 熊五郎、明日から食堂を始める
第4話 熊五郎、明日から食堂を始める
「……なら、わしの店を使わんか?」
老人からそう言われた熊五郎は、少し考えてから頷いた。
「分かった」
こうして話は決まった。
「じゃあ、店を見に行こうかの」
老人が立ち上がる。
「はい」
実咲も立ち上がった。
熊五郎も続く。
三人は魚屋を出て、老人の食堂へ向かった。
「どのくらい歩くんですか?」
実咲が尋ねる。
「そう遠くはない」
老人はゆっくり歩きながら答えた。
熊五郎は黙って歩いている。
やがて、老人が一軒の建物の前で足を止めた。
「ここじゃ」
実咲が顔を上げる。
そこには、少し古びた木造の建物が建っていた。
入口には食堂の看板が掛かっている。
「ここが……」
実咲が店を見上げる。
老人が鍵を取り出し、扉を開けた。
「入ってくれ」
三人で店の中へ入る。
中にはテーブルと椅子が並んでいた。
厨房もある。
長い間、老人が一人で守ってきたことが分かる店だった。
熊五郎は何も言わず、店内をゆっくり見渡した。
テーブル。
椅子。
厨房。
調理道具。
そして、店の奥まで確認する。
実咲はそんな熊五郎を見ていた。
「どう?」
熊五郎はしばらく黙っていた。
そして老人を見る。
「……本当に、俺が使っていいのか?」
老人は頷いた。
「ああ」
「本当に?」
「何度聞いても答えは同じじゃ」
老人は笑った。
「わしは、この店を畳もうと思っていた。だが、お前さんが使ってくれるなら、こんなに嬉しいことはない」
熊五郎はもう一度店内を見渡した。
「分かった」
「やってくれるか?」
「ああ」
熊五郎は厨房に入った。
調理台を確認する。
鍋を確認する。
包丁を確認する。
そして、静かに頷いた。
「ここなら料理ができる」
実咲も店内を見渡す。
「じゃあ……本当に明日から?」
「ああ」
熊五郎は即答した。
「明日から始める」
「決めるの早っ!」
実咲が思わずツッコむ。
「食堂をやると決めたんだから、始めればいい」
「まあ、熊五郎らしいけど……」
老人は嬉しそうに笑った。
「よろしく頼む」
「ああ」
熊五郎は老人に頷いた。
「この店、大事にする」
老人は深く頭を下げた。
「ありがとう」
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食堂を見終えると、三人は再び魚屋へ戻った。
魚屋の店主は、二人の帰りを待っていた。
「どうだった?」
「ここで明日から食堂を始める」
熊五郎が答えた。
「そうか!」
店主も嬉しそうに笑う。
「それはよかったな」
「だから、頼みたい」
「何を?」
熊五郎は少し考える。
「魚」
「やっぱり魚か」
「それから野菜」
「分かった」
「あと、調味料も必要だ」
店主は笑った。
「ずいぶん本格的だな」
「食堂だからな」
「そうだな」
実咲が横から口を挟む。
「熊五郎、明日の料理は何を作るの?」
「まだ決めていない」
「えっ?」
「魚を見てから決める」
「そこは決めておいてよ!」
「新鮮な魚を見たほうが料理を決めやすい」
「なるほど……」
実咲は少し納得した。
魚屋の店主は、必要な食材を用意すると約束してくれた。
「明日の朝までに揃えておくよ」
「助かる」
熊五郎が頷く。
そしてその日のうちに、熊五郎は明日の開店に向けて準備を始めた。
厨房で使う道具を確認する。
必要な調味料を考える。
食器の数を確認する。
実咲も手伝いながら準備を進めた。
「熊五郎、本当に明日から食堂なんだね」
「ああ」
「なんだか忙しくなりそう」
「忙しいほうがいい」
「どうして?」
熊五郎は、少しだけ笑った。
「たくさんの人に料理を食べてもらえるからな」
実咲はその言葉を聞いて、笑った。
「……そっか」
こうして熊五郎は、明日から始まる新しい食堂のために準備を始めた。
魚屋の店主も食材を用意する。
老人は自分の食堂を熊五郎に託す準備をする。
そして実咲も、熊五郎の隣で明日の開店を待つ。
明日――。
いよいよ、熊五郎の食堂が始まる。




