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第27話 避難する町

第27話 避難する町


町の北側。


魔物が迫っているという知らせは、瞬く間に町中へ広がっていた。


「南区へ避難してください!」


「北通りは使うな!」


「東通りを通ってくれ!」


兵士たちが大声で叫んでいる。


だが――。


人が一斉に動き始めたことで、町の中は混乱していた。


「どっちへ行けばいいんだ!」


「南門だ!」


「違う! 南門は混んでいる!」


「じゃあ、どこへ行けばいいの!?」


「東の大通りを使え!」


「子供がいるんです!」


「先に通して!」


人々の声が重なっていく。


荷物を抱えた人。


子供の手を引く母親。


老人を支える家族。


荷車を押す商人。


それぞれが、自分たちの避難先を探していた。


「押さないで!」


「子供がいる!」


「止まって!」


道の途中で人の流れが詰まる。


一台の荷車が道を塞いでしまったのだ。


「荷車を端へ!」


兵士が叫ぶ。


「動かせない!」


「みんなで押せ!」


「せーの!」


数人の男たちが荷車を押す。


ギギギ……。


ようやく道が開く。


「通って!」


「急いで!」


人々が再び動き始めた。


---


町には、避難するための道が決められていた。


北区の住民は、まず中央通りへ。


そこから東通りと西通りに分かれる。


東通りを進んだ人々は、南東広場へ。


西通りを進んだ人々は、南西広場へ。


そして最終的に――。


町の南側にある大広場へ集められることになっていた。


大広場には、教会と倉庫がある。


教会は老人や子供、怪我人を受け入れる。


隣の倉庫は、食料と水を保管する場所。


広場には簡易のテントも張られていた。


「こちらは子供と老人!」


「怪我人は教会へ!」


「元気な人は奥の広場へ!」


兵士たちが役割を分けて誘導していく。


教会の前では、神官たちが毛布を用意していた。


「こちらへ!」


「寒い人は毛布を!」


「水はこちらです!」


子供たちは母親に抱きしめられながら、泣いている。


「お家に帰りたい……」


「大丈夫よ」


母親が子供の頭を撫でる。


「みんなでここにいようね」


だが、その母親自身の手も震えていた。


---


南東広場。


避難してきた人々が次々と集まってくる。


「ここでいいんですか?」


「はい。北区の方はこちらです」


「家族とはぐれました!」


「名前は?」


「息子の名前は――」


兵士が紙に名前を書いていく。


「見つかったら、ここで待ってください」


「お願いします!」


別の場所では、家族とはぐれた子供が泣いていた。


「お母さん……」


「お母さんは?」


兵士がしゃがんで尋ねる。


「……分からない」


「大丈夫だ。ここにいれば見つけてもらえる」


兵士は子供を教会へ連れていく。


「この子をお願いします」


「分かりました」


教会の中には、すでに多くの人が集まっていた。


老人。


子供。


怪我をした人。


疲れ切った人。


床には毛布が敷かれている。


「ここで休んでください」


「ありがとうございます……」


外ではまだ、人の流れが続いていた。


---


一方、魚屋の店主は避難経路を確認していた。


「北区はもう空になったか?」


「まだ確認できていません!」


「もう一度確認しろ」


「はい!」


「東通りは?」


「人が集中して詰まっています!」


「西通りへ誘導しろ!」


「分かりました!」


店主は地面に簡単な地図を書いた。


「ここを一方通行にする」


「一方通行?」


「ああ。東から来た人間は南東広場へ。西から来た人間は南西広場へ」


「混ざらないようにするんですね」


「そうだ」


店主はさらに指を動かす。


「荷車はこの道を使わせるな。人が多すぎる」


「では荷車は?」


「東の裏道を使わせろ」


「分かりました!」


兵士が走っていく。


店主は周囲を見渡す。


人々は恐怖で混乱している。


だからこそ、道を決める必要がある。


「子供と老人を優先する」


「はい!」


「怪我人は教会へ」


「はい!」


「食料は倉庫へ集めろ」


「分かりました!」


店主は次々と指示を出していく。


そして――。


また、胸の奥がざわついた。


「……」


この感覚。


昔にも同じことをしていた。


大勢の人間を避難させた。


戦場から民を逃がした。


そして――。


誰かに報告していた。


『陛下、避難は完了しました』


「……陛下」


店主は呟いた。


「俺は……何度も、こうやって人を守ってきたのか」


---


夕方。


『まずは飯だ』。


店の前を通る人影は、ほとんどなくなっていた。


実咲は窓から外を見る。


「みんな、南へ避難したんだね」


「ああ」


熊五郎は食材を確認していた。


「食料は?」


「まだある」


「避難した人たち、食べるもの足りるかな……」


実咲は心配そうに言う。


熊五郎は少し考える。


「魚屋へ行く」


「え?」


「食材を持っていく」


「でも危なくない?」


「南区へ運ぶだけだ」


「……」


実咲は少し考えた。


「私も行く」


「駄目だ」


「なんで?」


「危ない」


「一人で行くほうが危ないでしょ」


熊五郎は実咲を見る。


「……分かった」


「よし」


実咲は少しだけ安心した。


二人が店を出る。


町の通りは静かだった。


だが、遠くの北側からは――。


まだ、兵士たちの声が聞こえている。


「北門を守れ!」


「絶対に通すな!」


そして――。


魔物の咆哮。


グオオオオオッ――!


実咲の足が止まった。


「……」


熊五郎が振り返る。


「行くぞ」


「う、うん」


実咲は熊五郎の袖を掴んだ。


二人は南へ向かって歩き始める。


その先には、避難してきた人々で埋まり始めた広場がある。


教会。


倉庫。


仮設のテント。


そして、食料を待つ大勢の人々。


町の北では戦いが始まろうとしている。


南では、生き延びようとする人々が身を寄せ合っている。


そしてその間を――。


熊五郎と実咲は歩いていく。


この町の運命が、大きく動き始めていた。

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