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第119話 もう一人の王

第119話 もう一人の王


「……俺?」


熊五郎は。


目の前に立つ男を見つめた。


顔。


髪。


背丈。


声。


どれも。


自分とそっくりだった。


ただ一つ違う。


男は。


黒い王冠を被っていた。


「久しぶりだな」


男が笑う。


「もう一人の俺」


熊五郎は。


鍋を握る。


「俺はお前なんか知らない」


「そうだろうな」


男は。


ゆっくり歩いてくる。


「お前は国を捨てた」


「……」


「王座も」


「……」


「国民も」


「違う!」


熊五郎が叫ぶ。


「俺は国民を逃がした!」


男が。


笑った。


「そう思っているのか?」


実咲が。


熊五郎を見る。


「熊五郎……」


熊五郎の拳が震えている。


「こいつは」


低い声。


「俺が一番見たくなかったものだ」


「何?」


「王だった頃の俺だ」


実咲が。


息を呑む。


「王だった頃の……?」


男が。


右手を上げる。


すると。


黒い魔力が。


王冠の周囲へ集まる。


「私は」


男が言う。


「お前が捨てた力を持っている」


――ドン!


黒い魔力が爆発する。


熊五郎が炎を放つ。


――ゴォォッ!


二つの魔力がぶつかる。


――ズガァァン!


衝撃で。


二人が同時に後退する。


ガルドが。


驚く。


「同じ魔力……?」


レオンも。


目を細める。


「いや」


「……?」


「少し違う」


レオンが。


敵を見る。


「熊五郎の魔力は熱い」


「……」


「でも、あいつの魔力は冷たい」


熊五郎が。


頷く。


「正解だ」


男が。


手を広げる。


「私は王だった頃の記憶から作られた存在」


実咲が。


聞く。


「記憶?」


「そうだ」


男が。


自分の胸を指す。


「この世界に残った、王の魔力」


「……」


「それを使って作られた」


熊五郎が。


目を見開く。


「つまり」


「俺のコピー?」


「違う」


男が。


笑う。


「お前が捨てた『王』そのものだ」


熊五郎が。


一歩前へ出る。


「なら」


鍋を構える。


「俺が消す」


男も。


手を上げる。


――ズドォォン!


黒い魔法が。


熊五郎へ飛ぶ。


熊五郎が炎で受け止める。


だが。


押される。


「ぐっ……!」


実咲が。


助けようとする。


「熊五郎!」


「来るな!」


熊五郎が叫ぶ。


「こいつは俺が戦う!」


男が。


笑う。


「一人で戦うのか?」


「……」


「昔のお前と同じだな」


熊五郎の動きが。


止まる。


「一人で全部を背負って」


男が。


魔力を放つ。


「国を守ろうとして」


――ドォォン!


熊五郎が。


吹き飛ばされる。


「熊五郎!」


実咲が。


走る。


「来るなと言っただろ!」


「嫌!」


実咲が。


熊五郎の前に立つ。


「一人で戦わせない!」


男が。


実咲を見る。


「守護者か」


「そうだよ」


「なら」


男が。


指を向ける。


「お前から消す」


黒い魔力が。


実咲へ向かう。


――ズン!


熊五郎が。


炎の壁を作る。


「させるか!」


黒い魔力が。


炎の壁へぶつかる。


――バチバチッ!


熊五郎が。


歯を食いしばる。


「実咲!」


「うん!」


実咲が。


料理の器を見る。


さっきの料理の効果は。


まだ少し残っている。


「この魔力」


実咲が。


自分の胸に手を当てる。


「まだ使える」


熊五郎が。


気づく。


「なら」


「……?」


「俺にも分けてくれ」


実咲が。


驚く。


「私の魔力を?」


「違う」


熊五郎が。


笑う。


「料理の魔力だ」


実咲が。


理解する。


「そうか」


料理の魔力は。


まだ二人の身体に残っている。


実咲は。


手を伸ばした。


金色の光が。


熊五郎へ流れる。


「……!」


熊五郎の身体へ。


温かな魔力が流れ込む。


炎が。


一気に強くなる。


「これなら」


熊五郎が。


拳を握る。


「料理の効果が切れる前に」


実咲が。


頷く。


「決める」


二人が。


同時に走る。


男が。


黒い魔法を放つ。


熊五郎が。


炎で弾く。


実咲が。


光の盾を展開する。


――パァァッ!


盾が。


黒い魔法を受け止める。


「今!」


熊五郎が。


鍋を振る。


炎が。


巨大な渦になる。


――ゴォォォォッ!


男が。


両手を広げる。


黒い魔力が。


王冠へ集まる。


「この力は」


「……」


「お前のものだった!」


黒い魔力が。


巨大な剣になる。


「返してもらう!」


――ズガァァン!


黒い剣が。


熊五郎へ振り下ろされる。


熊五郎が。


炎の剣で受ける。


――ガキィィン!


「ぐっ……!」


力は互角。


実咲が。


後ろから叫ぶ。


「熊五郎!」


「大丈夫だ!」


「違う!」


実咲が。


叫ぶ。


「その人と同じ力で戦わなくていい!」


熊五郎が。


目を見開く。


「……!」


実咲が。


笑う。


「熊五郎には」


「……」


「料理がある」


熊五郎の顔に。


笑みが浮かぶ。


「そうだったな」


鍋を握る。


「俺はもう」


炎が。


黒い剣を押し返す。


「王だけじゃない」


炎が。


巨大な渦になる。


「食堂の店主だ!」


――ドォォォォン!!


熊五郎の炎が。


黒い剣を吹き飛ばす。


男が。


後退する。


「馬鹿な……!」


熊五郎が。


さらに踏み込む。


「俺は」


鍋を振る。


「飯を作る」


炎が。


敵を包む。


「腹を満たす」


炎が。


金色へ変わる。


「そして」


実咲が。


光を重ねる。


「守る!」


――パァァァァッ!!


金色の炎と。


守護の光が。


一つになる。


男の身体に。


亀裂が入った。


「ぐっ……!」


しかし。


男は笑った。


「そうか」


熊五郎が。


止まる。


「何がおかしい?」


男が。


胸の亀裂を押さえる。


「やはり」


「……?」


「お前は変わった」


黒い王冠が。


砕け始める。


「だからこそ」


男が。


熊五郎を見る。


「次は」


王冠の奥から。


黒い光が噴き出す。


「お前が捨てた王国そのものが」


「……」


「お前を選ぶ」


――パキィィン!


黒い王冠が。


完全に砕けた。


その瞬間。


戦場全体に。


熊五郎の王国の紋章が浮かび上がる。


ガルドが。


目を見開く。


「何だ……?」


レオンも。


空を見上げる。


「敵の魔力が変わっていく」


熊五郎は。


動かなかった。


実咲が。


隣へ来る。


「熊五郎?」


熊五郎が。


空を見る。


そこには。


かつての王国の城。


町。


食堂。


そして。


大勢の人々の姿が。


魔力で映し出されていた。


「……幻影か?」


熊五郎が呟く。


すると。


その中から。


一人の女性が。


歩いてくる。


実咲が。


息を呑む。


「……お母さん?」


女性は。


実咲の母にそっくりだった。


熊五郎も。


驚いている。


「守護者……?」


女性が。


ゆっくり口を開く。


「熊五郎」


「……!」


「そして」


女性の視線が。


実咲へ向く。


「私の娘」


実咲の目から。


涙が落ちた。


「お母さん……?」


女性は。


微笑んだ。


しかし。


その身体は。


少しずつ消え始めている。


「時間がない」


実咲が。


一歩前へ出る。


「待って!」


女性が。


静かに言う。


「あなたに伝えなければならないことがある」



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