第118話 黒い門から来た軍勢
第118話 黒い門から来た軍勢
黒い門の向こうから。
一体。
また一体。
さらに一体。
次々と影が現れる。
その数は。
十。
二十。
五十。
「……多すぎる」
レオンが。
剣を構えながら呟いた。
ガルドも。
槍を握り直す。
「これ全部が敵か?」
熊五郎は。
答えなかった。
ただ。
黒い門を見つめている。
「熊五郎?」
実咲が。
声をかける。
熊五郎の顔には。
今まで見たことのない表情が浮かんでいた。
「……知ってる」
「この敵たちを?」
「ああ」
熊五郎が。
ゆっくり頷く。
「俺の国にいた」
「兵士?」
「違う」
熊五郎が。
首を振る。
「兵士を殺した連中だ」
その瞬間。
先頭の影が。
一歩前へ出た。
黒い鎧。
巨大な斧。
そして。
胸には。
熊五郎の王国と同じ紋章。
「王」
低い声が響く。
「まだ生きていたか」
熊五郎の目が。
鋭くなる。
「お前……」
「覚えているか」
敵が。
斧を肩に担ぐ。
「城門を破壊した日のことを」
熊五郎の拳が。
震える。
「あの日……」
「そうだ」
敵が笑う。
「お前は国民を逃がすために戦った」
「……」
「だから殺さなかった」
熊五郎の目が。
細くなる。
「俺を殺さなかった?」
「ああ」
敵が。
黒い魔力を放つ。
「お前を生かしておけば」
「……」
「いつか戻ってくると思っていた」
実咲が。
熊五郎の隣に立つ。
「だったら」
左手を見る。
「今度は戻ってきた」
敵が。
実咲を見る。
「守護者……」
その瞬間。
敵の軍勢が。
一斉に動いた。
「来るぞ!」
ガルドが叫ぶ。
――ドドドドドドッ!
地面が震える。
無数の敵が。
一気に走ってくる。
「熊五郎!」
「分かってる!」
熊五郎が。
鍋を取り出した。
「料理を作る!」
レオンが。
驚く。
「また戦場でか!」
「戦場だからだ!」
熊五郎は。
素早く材料を並べる。
肉。
玉ねぎ。
根菜。
香草。
そして。
魔力結晶。
「今回は全員分は無理だ」
熊五郎が。
材料を見る。
「なら」
実咲が。
言った。
「誰に食べさせるか選ぶ」
熊五郎が。
頷いた。
「そういうことだ」
ガルドが。
敵を槍で受け止める。
「俺は前線を支える!」
レオンが。
その横へ入る。
「俺もだ!」
熊五郎が。
鍋を振る。
「二人には攻撃用!」
肉を強火で焼く。
ジュッ!
香草を入れる。
魔力結晶を少量。
――パァッ。
「これを食べれば」
熊五郎が。
器を二つ投げる。
「次の一撃だけ、魔力を最大まで集中できる!」
ガルドが。
受け取る。
「一撃だけ?」
「ああ!」
「なら十分!」
ガルドが。
一口食べる。
――パクッ。
次の瞬間。
槍に。
大量の魔力が集中する。
「……重い!」
槍そのものが。
震えている。
レオンも食べる。
「これは……!」
剣に。
金色の光が集まる。
「一撃だけなら」
レオンが。
敵を見る。
「全部叩き込める!」
二人が。
同時に突撃する。
――ズガァァン!!
ガルドの槍が。
敵の盾を貫く。
――ザンッ!!
レオンの剣が。
その後ろの敵を斬り倒す。
「道が開いた!」
「次だ!」
だが。
その瞬間。
別の敵が。
二人を囲む。
「まずい!」
ガルドが叫ぶ。
熊五郎は。
次の料理を作る。
「実咲!」
「うん!」
「お前は守りだ!」
「分かった!」
実咲が。
光を広げる。
――パァァッ!
ガルドとレオンの周囲に。
小さな光の盾が複数現れる。
黒い矢が。
次々と飛んでくる。
――ドドドドドッ!
盾が。
一枚。
二枚。
三枚。
砕ける。
しかし。
そのたびに。
次の盾が生まれる。
「これなら!」
レオンが。
敵を斬る。
ガルドが。
槍を振る。
前線が。
少しずつ押し戻される。
しかし。
敵の数は減らない。
「多すぎる!」
実咲の息が。
荒くなる。
左手の黒い線が。
少しずつ伸びていく。
熊五郎が。
それに気づく。
「実咲!」
「大丈夫!」
「違う!」
熊五郎が。
叫ぶ。
「お前一人で全員を守るな!」
実咲が。
驚く。
「でも!」
「料理の力を使う!」
熊五郎が。
新しい器を持つ。
「これを食べろ!」
実咲が。
受け取る。
「何の料理?」
「今度は攻撃じゃない」
一口。
――パクッ。
温かな魔力が。
身体へ広がる。
だが。
今度は。
光が左手ではなく。
胸の奥へ集まった。
「……?」
熊五郎が説明する。
「これは守護力の回復速度を上げる料理だ」
「回復?」
「ああ」
「じゃあ」
実咲が。
手を開く。
「盾を作り続けられる?」
「ただし」
熊五郎が。
指を一本立てる。
「強い盾は一枚だけだ」
実咲が。
頷く。
「なら、一番守るべき場所に使う」
実咲が。
戦場を見る。
ガルド。
レオン。
そして。
後ろにいる町の人々。
「町を守る」
巨大な光の盾が。
町の前に現れる。
――ドォォン!
黒い攻撃が。
盾にぶつかる。
しかし。
今度は。
実咲の魔力が。
すぐには減らない。
料理の効果によって。
使った守護力が。
少しずつ戻っていく。
「これなら……!」
実咲が。
歯を食いしばる。
「守れる!」
その時。
黒い軍勢の中から。
別の敵が。
前へ出てきた。
細長い杖。
黒いローブ。
「守護者を狙え」
杖を上げる。
「直接ではない」
――パチン。
指を鳴らす。
すると。
実咲の足元から。
黒い鎖が飛び出した。
「えっ!?」
鎖が。
実咲の両足へ絡みつく。
「実咲!」
熊五郎が走る。
だが。
別の敵が。
熊五郎の前に立ちはだかる。
巨大な斧。
「王は俺が相手だ」
――ガキィィン!
熊五郎の炎と。
斧がぶつかる。
「邪魔だ!」
「こちらの台詞だ!」
熊五郎が。
炎を爆発させる。
敵が後退する。
その間にも。
黒い鎖が。
実咲の身体を締め付ける。
「力を使えない……!」
杖を持つ敵が笑う。
「守護者の力を封じる」
「……!」
「そして」
敵の杖が。
実咲へ向く。
「お前の力を少しずつ奪う」
実咲の左手から。
金色の光が。
吸い取られていく。
「――っ!」
黒い線が。
一気に伸びる。
「実咲!」
熊五郎が叫ぶ。
しかし。
目の前の敵が。
斧を振り下ろす。
――ズドォォン!
熊五郎は。
避けるしかない。
「くっ!」
「王!」
敵が笑う。
「お前は守れない」
熊五郎が。
歯を食いしばる。
「……」
その時。
実咲が。
鎖を見た。
そして。
小さく笑った。
「熊五郎」
「何だ!」
「料理」
「……!」
熊五郎が。
気づく。
「そうか」
実咲の胸の中には。
まだ料理の魔力が残っている。
「料理の魔力は」
実咲が。
鎖を見る。
「私の身体を守るだけじゃない」
「……」
「私が守りたいものにも」
金色の光が。
鎖へ流れる。
――パァァッ!
黒い鎖に。
亀裂が入った。
「なに!?」
敵が驚く。
実咲が。
力を込める。
「触らせない!」
――パキィィン!
鎖が砕ける。
実咲が。
自由になる。
「熊五郎!」
「任せろ!」
熊五郎の炎が。
一気に膨れ上がる。
――ゴォォォォッ!!
目の前の敵を吹き飛ばす。
その隙に。
ガルドとレオンが。
敵の魔法使いへ突っ込む。
「逃がさない!」
――ズガン!
槍が。
杖を弾き飛ばす。
レオンの剣が。
地面へ突き刺さる。
「終わりだ!」
魔法使いが。
後退する。
しかし。
その背後から。
巨大な黒い門が。
さらに開いた。
――ゴゴゴゴゴ……。
熊五郎の顔が。
険しくなる。
「……まだ出てくるのか」
門の向こうから。
巨大な影が。
ゆっくりと姿を現す。
だが。
今までの敵とは違う。
黒い鎧ではない。
白い服。
王冠。
そして。
熊五郎と同じ顔。
実咲が。
息を呑む。
「……熊五郎?」
熊五郎本人も。
動きを止めた。
「……俺?」
門から出てきた男が。
ゆっくり笑う。
「久しぶりだな」
「……」
「もう一人の俺」




