第117話 母から受け継いだ力
第117話 母から受け継いだ力
「私が……受け継ぐ」
実咲は。
左手を見つめた。
そこに浮かんでいる。
――継承。
金色の文字。
その隣には。
黒い線。
「……怖くないのか?」
熊五郎が聞く。
実咲は少し考えた。
「怖いよ」
「……」
「だって」
実咲は左手を握る。
「これを使ったら、また何か忘れるかもしれない」
熊五郎は黙っている。
「でも」
実咲は敵を見る。
「お母さんが残してくれた力なら」
一歩前へ出る。
「逃げたくない」
巨大な敵が笑う。
「受け継ぐだと?」
黒い魔力が膨れ上がる。
「お前に使いこなせるものか」
――ズドォォン!
黒い腕が地面を叩く。
地面が大きく裂けた。
「散開!」
ガルドが叫ぶ。
レオンが横へ飛ぶ。
熊五郎は実咲の腕を掴んだ。
「走れ!」
「うん!」
四人が同時に移動する。
しかし。
敵の攻撃は止まらない。
黒い腕が地面を這う。
まるで生き物のように。
実咲たちを追いかける。
「速い!」
レオンが振り返る。
「俺が止める!」
レオンが剣を構える。
――ザンッ!
黒い腕を斬る。
しかし。
切断された腕が。
すぐに再生する。
「再生するだと!?」
ガルドが槍を突き込む。
――ズガン!
今度は槍が黒い腕を地面へ縫い付ける。
「こいつは普通の魔物じゃない!」
熊五郎が叫ぶ。
「魔法そのものに近い!」
「ならどうする!?」
ガルドが叫ぶ。
熊五郎は鍋を見た。
「食べる」
「また料理か!」
「そうだ!」
熊五郎が袋を開く。
だが。
残っている食材は少ない。
肉。
野菜。
少量の香草。
そして。
魔力結晶が一つ。
実咲が覗き込む。
「これで作れる?」
「一食分ならな」
熊五郎が火を起こす。
「ただし」
「……?」
「今回は、さっきまでと違う」
熊五郎が魔力結晶を握る。
「料理そのものに守護の力を乗せる」
実咲が驚く。
「私の?」
「そうだ」
熊五郎が笑う。
「お前の力を料理に混ぜる」
「そんなことできるの?」
「やってみる」
熊五郎が調理を始める。
肉を焼く。
ジュッ。
香ばしい匂いが広がる。
野菜を鍋へ。
出汁を入れる。
魔力結晶を最後に入れる。
――パァァッ。
鍋の中が金色に輝いた。
巨大な敵が。
突然反応する。
「その力……!」
熊五郎が鍋を持ち上げる。
「完成だ」
料理を三つの器に分ける。
ガルド。
レオン。
実咲。
そして熊五郎自身も一口食べる。
――パクッ。
次の瞬間。
四人の胸から。
金色の光が伸びた。
「これは……?」
ガルドが胸を押さえる。
熊五郎が説明する。
「今度の料理は、身体を強化するためじゃない」
「じゃあ何だ?」
「繋ぐ」
光が四人を一本の線で結ぶ。
「俺たち四人の魔力を」
「……」
「一つの流れにする」
ガルドが槍を握る。
「つまり?」
熊五郎が答える。
「一人が受けた攻撃を、四人で分散できる」
「それはかなり――」
レオンが言いかけた瞬間。
――ドォォン!
巨大な黒い攻撃が飛んできた。
熊五郎が炎の盾を作る。
だが。
盾を貫通した。
「まずい!」
黒い魔力が熊五郎を直撃する。
――ズガァン!
熊五郎の身体が吹き飛ぶ。
「熊五郎!」
実咲が叫ぶ。
だが。
熊五郎の胸に入った黒い魔力が。
金色の線を伝っていく。
熊五郎。
実咲。
ガルド。
レオン。
四人へ。
「……痛くない?」
実咲が驚く。
熊五郎が立ち上がる。
「いや」
腕を確認する。
「かなり痛い」
「じゃあ!」
「でも」
熊五郎が笑う。
「一人で受けるよりは軽い」
ガルドが頷く。
「これなら戦える」
レオンも剣を構える。
「なら、俺たちは攻撃に集中する」
実咲が左手を見る。
金色の文字――継承。
「私も」
熊五郎が止める。
「実咲」
「分かってる」
「……」
「能力を全部使うつもりはない」
実咲は。
左手を胸へ当てる。
「少しだけ」
金色の光が。
指先から流れる。
――パァァッ。
その光が。
四人を繋ぐ線へ加わった。
「これなら」
実咲が呟く。
「私の力を少しずつ渡せる」
熊五郎が気づく。
「なるほど」
「一人で守るんじゃない」
実咲が笑う。
「みんなに少しずつ分ける」
ガルドの槍が輝く。
レオンの剣も輝く。
熊五郎の炎が。
金色へ変わる。
巨大な敵が。
咆哮する。
「そんな小細工で!」
黒い魔力が。
空を覆う。
無数の黒い槍が。
降り注ぐ。
「来る!」
ガルドが叫ぶ。
実咲が両手を広げる。
「守る!」
巨大な盾ではない。
四人を包む。
小さな盾。
黒い槍が。
次々に突き刺さる。
――ドドドドドッ!
一つ目。
二つ目。
三つ目。
盾が揺れる。
だが。
四人の魔力が。
互いに流れ続ける。
「まだ!」
実咲が叫ぶ。
レオンが前へ出る。
「今度は俺たちの番だ!」
剣を振る。
――ザンッ!
ガルドが槍を突き込む。
――ズガン!
熊五郎が炎を放つ。
――ゴォォォッ!
三つの攻撃が。
敵の胸へ集中する。
だが。
巨大な敵の胸には。
まだ魔法陣が残っている。
「硬い!」
ガルドが叫ぶ。
熊五郎が叫ぶ。
「実咲!」
「うん!」
実咲が。
左手を伸ばす。
金色の文字――継承。
その文字が。
初めて形を変えた。
――守護継承。
実咲が目を見開く。
「……新しい文字?」
その瞬間。
頭の中に。
母の声が響いた。
『この力は』
『一人で使うものじゃない』
『守る人へ渡しなさい』
実咲の目から。
涙が落ちる。
「お母さん……」
声が震える。
『あなたが守る人を』
『あなた一人で背負わなくていい』
実咲は。
顔を上げた。
「分かった」
光が。
一気に広がる。
「私だけで守らない!」
ガルドへ。
レオンへ。
熊五郎へ。
守護の力が流れる。
「みんなで守る!」
――パァァァァッ!!
四人の魔力が。
完全に一つになる。
巨大な敵の胸へ。
金色の亀裂が走った。
「馬鹿な……!」
巨大な敵が後退する。
「守護者の力を」
実咲が叫ぶ。
「返してもらう!」
熊五郎が。
鍋を構える。
「行くぞ!」
ガルドが。
槍を構える。
「おう!」
レオンが。
剣を構える。
「決める!」
四人が。
同時に走る。
――ドォォォォン!!
攻撃が。
巨大な敵の胸へ。
一直線に突き刺さる。
魔法陣が。
大きく砕ける。
しかし。
砕けた魔法陣の奥から。
さらに巨大な黒い紋章が現れた。
熊五郎が。
息を呑む。
「……あれは」
実咲が。
聞く。
「何?」
熊五郎の顔が。
険しくなる。
「王国の紋章だ」
「え?」
「俺の国の」
黒い紋章が。
ゆっくり回転する。
巨大な敵が。
笑った。
「そうだ」
「……」
「お前たちが戦っている相手は」
黒い紋章が。
完全に開く。
「私だけではない」
熊五郎の目が。
見開かれる。
「……まさか」
その紋章の奥から。
大量の魔力反応が現れる。
一つ。
二つ。
十。
百。
「まだ……敵がいる」
ガルドが。
呟く。
レオンが。
剣を握り直す。
「この奥に」
巨大な敵が。
笑う。
「お前の国を滅ぼした者たちが」
黒い門の向こうから。
無数の影が現れ始める。
熊五郎は。
実咲の前に立つ。
「……実咲」
「うん」
「これからが」
熊五郎が鍋を握る。
「本当の戦いだ」




