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第115話 料理に宿る守りの力

第115話 料理に宿る守りの力


「守護者の力が……封印を解く鍵?」


実咲は、自分の左手を見つめた。


黒い線。


その中心には、はっきりと――


『封印』


という文字が浮かんでいる。


巨大な敵が、ゆっくりと腕を上げた。


「そうだ」


低い声が、戦場を震わせる。


「お前が力を使えば使うほど、封印は弱くなる」


熊五郎が前へ出る。


「なら、実咲には力を使わせない」


「できると思うか?」


巨大な敵の腕が振り下ろされる。


――ズドォォン!!


地面が爆発した。


「散れ!」


ガルドが叫ぶ。


レオンが横へ飛び、ガルドも反対方向へ転がる。


熊五郎は実咲の前に立った。


「実咲、下がれ」


「でも!」


「今の敵は、お前を狙っている」


巨大な敵の赤い目が、実咲を捉えている。


「守護者の力を奪えば、封印を解けるからだ」


実咲は自分の左手を握った。


「じゃあ……私は何をすればいいの?」


熊五郎は答えず、鍋を取り出した。


「料理をする」


「……今?」


「ああ」


熊五郎は鍋を地面へ置いた。


肉を切る。


野菜を切る。


鍋へ入れる。


出汁を注ぐ。


そして、火を入れた。


――ボッ!


戦場に、温かな香りが広がっていく。


ガルドが敵を槍で弾きながら叫ぶ。


「こんな状況で料理か!」


「こんな状況だからだ!」


熊五郎が鍋をかき混ぜる。


「実咲!」


「うん!」


実咲が、熊五郎の前に立った。


光を広げる。


――パァァッ!


敵の黒い攻撃が、光の壁にぶつかる。


――ドン!


「くっ……!」


実咲の足が地面を滑る。


「あと少し!」


熊五郎が鍋を見る。


「できた!」


完成した料理を、器へ盛る。


「ガルド!」


「俺か!」


「食え!」


熊五郎が器を投げる。


ガルドが受け取る。


「こんな戦場で……!」


「いいから!」


ガルドが一口食べる。


――パクッ。


次の瞬間。


「……!」


ガルドの身体の内側が、突然熱くなった。


胃の奥から温かな魔力が広がっていく。


胸。


肩。


腕。


そして、槍を握る右手へ。


――パァァッ。


薄い光の膜が、ガルドの身体を覆った。


「これは……?」


熊五郎が説明する。


「料理に込めた魔力が、身体の表面に膜を作っている」


「膜?」


「敵の魔力が直接身体に入り込むのを防ぐ」


ガルドが槍を見る。


さらに、魔力が槍へ流れていく。


「それだけじゃない」


熊五郎が続ける。


「魔力の循環も速くなる」


ガルドが槍を振る。


――ヒュン!


さっきより明らかに速い。


「なるほど……!」


ガルドが敵へ突っ込む。


「これなら!」


――ズガァン!


槍が黒い鎧へ食い込んだ。


巨大な敵が、一歩後退する。


「効いた!」


レオンが叫ぶ。


熊五郎は次の器を投げる。


「レオン!」


「任せろ!」


レオンも料理を食べる。


――パクッ。


レオンの身体にも光の膜が生まれる。


剣へ魔力が流れ込む。


「魔力が……軽い!」


レオンが剣を振る。


――ザンッ!


黒い魔力の腕が、斬り裂かれた。


「今までより魔力を込めるのが速い!」


熊五郎が頷く。


「ただし、効果時間は短い」


「どれくらいだ?」


「三分程度」


ガルドが叫ぶ。


「三分だけか!」


「だから、その三分を使い切れ!」


二人が同時に敵へ向かう。


実咲は、その戦いを見ていた。


「……私の分は?」


熊五郎が、最後の器を持つ。


「お前はこれだ」


実咲が受け取る。


「いただきます」


一口。


――パクッ。


その瞬間。


実咲の身体が、温かな光に包まれた。


だが、ガルドやレオンとは違った。


光が胃から胸へ。


胸から左腕へ。


そして。


黒い線へ集中する。


――パァァッ。


黒い線の周囲に、薄い金色の膜ができた。


「……これ」


実咲が左手を見る。


熊五郎が説明する。


「お前の場合は、もう一つ効果がある」


「もう一つ?」


「記憶の固定だ」


実咲が目を見開く。


「記憶?」


「ああ」


熊五郎が頷く。


「料理を食べている間に感じたことや、直前に交わした会話が、魔力によって一時的に強く固定される」


「つまり……」


「敵に記憶を奪われても、直近の記憶までは抜かれにくい」


実咲は、熊五郎を見る。


「じゃあ」


少し笑う。


「今、食べた料理のことも?」


「ああ」


「熊五郎が作ったことも?」


「覚えている」


「ガルドとレオンが食べたことも?」


「覚えているはずだ」


実咲は頷いた。


「よかった」


その瞬間。


巨大な敵の腕が、再び実咲へ向いた。


「守護者!」


――ズドォォン!


黒い腕が伸びてくる。


実咲が光を出す。


だが。


巨大な腕は光をすり抜けた。


「えっ?」


黒い指が、実咲の左手に触れる。


――ズズッ。


記憶を吸い取られる感覚。


「――っ!」


実咲の目が見開かれる。


熊五郎が叫ぶ。


「実咲!」


頭の中から。


記憶が引っ張られる。


町。


食堂。


料理。


ガルド。


レオン。


そして――


熊五郎。


「嫌……!」


実咲が叫ぶ。


黒い線が、左腕を這い上がる。


しかし。


今までとは違った。


――パァァッ!


左腕を覆う金色の膜が輝いた。


黒い指が弾かれる。


――バンッ!


「何!?」


巨大な敵が驚く。


実咲は自分の腕を見る。


「……弾いた?」


熊五郎が叫ぶ。


「料理の魔力膜だ!」


実咲が気づく。


「直接、触れられないんだ!」


「ああ!」


黒い敵が再び腕を伸ばす。


――ズッ!


今度は二本。


実咲が光を張る。


一本を弾く。


しかし、もう一本が肩へ迫る。


「くっ!」


ガルドが槍を投げる。


――ズガァン!


黒い腕が弾き飛ばされる。


「実咲に触らせるな!」


レオンも走る。


「三分しかないなら!」


剣を振る。


「三分で倒す!」


二人の攻撃が、敵へ集中する。


だが。


巨大な敵の胸の魔法陣が輝く。


――ゴゴゴゴゴ……。


「まずい!」


熊五郎が叫ぶ。


黒い魔力が、巨大な敵の周囲へ集まり始める。


「全員、下がれ!」


しかし。


敵は攻撃を放たなかった。


黒い魔力が、逆に実咲へ集中する。


「……え?」


実咲の身体が。


突然。


重くなる。


「何これ……」


熊五郎が気づく。


「魔力を吸ってる!」


実咲の身体を覆っていた金色の膜が、少しずつ薄くなる。


「料理の効果が……」


「あとどれくらいだ!」


「分からない!」


実咲が答える。


「でも、さっきより薄くなってる!」


黒い魔力が、金色の膜を削っていく。


――パキッ。


膜に亀裂が入る。


「もう少しで破られる!」


熊五郎が鍋を握る。


「実咲!」


「うん!」


「料理の効果が切れる前に!」


熊五郎が炎を纏う。


「決めるぞ!」


ガルドが槍を構える。


「了解!」


レオンも剣を構える。


「行く!」


三人が同時に走る。


実咲は、光を伸ばす。


「守護連結!」


――パァァァッ!


ガルドの槍。


レオンの剣。


熊五郎の炎。


三つが実咲の光で繋がる。


その瞬間。


実咲の身体から、料理の魔力が一気に流れ出した。


「……!」


実咲の顔から血の気が引く。


「実咲!」


「大丈夫!」


料理の効果で増幅された魔力が。


三人へ流れる。


ガルドの槍が輝く。


レオンの剣が輝く。


熊五郎の炎が金色に変わる。


――ズガァァァァン!!


三人の攻撃が。


巨大な敵の胸へ集中する。


魔法陣に。


大きな亀裂が入った。


「ぐおおおおおっ!」


巨大な敵が叫ぶ。


そして。


実咲の身体から。


最後の光が消えた。


――フッ。


「……切れた」


実咲が呟く。


熊五郎が振り返る。


「効果が?」


「うん」


実咲は、自分の左手を見る。


金色の膜は消えている。


黒い線だけが残っている。


「でも」


実咲が笑う。


「まだ覚えてる」


「何を?」


「熊五郎」


「……」


「ガルド」


ガルドが笑う。


「俺も覚えてるぞ!」


「レオン」


「もちろん!」


実咲は胸に手を当てる。


「それに」


「……?」


「さっき食べた料理の味」


熊五郎が。


少し笑った。


「それなら十分だ」


だが。


巨大な敵の胸に入った亀裂から。


黒い光が漏れ始める。


「……!」


熊五郎が表情を変える。


「まだ終わってない」


亀裂の奥から。


別の魔法陣が現れる。


そして。


その中心に。


見覚えのある紋章が浮かび上がった。


――守護者の紋章。


実咲の左手が。


突然、熱くなる。


「……え?」


黒い線が。


守護者の紋章へ反応する。


巨大な敵が。


低く笑った。


「やはり」


「……」


「お前の中には」


黒い魔力が膨れ上がる。


「まだ、母親から受け継いだ力が残っている」


実咲が。


息を呑む。


「私の中に……?」


巨大な敵が。


手を伸ばす。


「ならば」


「……」


「次はその力を――」


奪おうとする。


その瞬間。


熊五郎が。


実咲の前へ立った。


「絶対に渡さない」


鍋を握る。


「この料理で」


炎が燃え上がる。


「お前の狙いを全部潰す」


実咲も。


その隣に立つ。


「私も戦う」


左手の黒い線を見つめる。


「今度は、ちゃんと自分の力で」


二人の前で。


巨大な敵が。


ゆっくりと立ち上がった。


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