第113話 王国を滅ぼしたもの
第113話 王国を滅ぼしたもの
――ゴゴゴゴゴ……。
空に開いた。
巨大な黒い門。
その向こうから。
何かが。
ゆっくりと姿を現す。
最初に見えたのは。
巨大な腕だった。
黒い。
だが。
ただの黒ではない。
無数の魔法陣が。
腕そのものに刻まれている。
「……何だ、あれ」
レオンが。
剣を握り直す。
ガルドも。
槍を構える。
「分からない」
熊五郎が。
答えた。
「……いや」
一瞬。
熊五郎の顔が。
強張る。
「知ってる」
実咲が。
振り返る。
「知ってるの?」
「ああ」
熊五郎は。
空を見上げる。
「昔」
黒い腕が。
門から出てくる。
「俺の国を」
もう一本。
腕が出る。
「滅ぼしたものだ」
――ズン。
地面が。
揺れた。
巨大な足が。
門から現れる。
その姿は。
人間に似ている。
だが。
大きすぎる。
城よりも。
はるかに巨大だった。
全身を。
黒い鎧のようなものが。
覆っている。
そして。
胸の中央には。
巨大な魔法陣。
王冠を逆さにしたような紋章が。
刻まれていた。
「……あれが」
実咲が。
呟く。
「熊五郎の国を?」
「そうだ」
熊五郎は。
拳を握る。
「俺はあいつと戦った」
「勝ったの?」
熊五郎は。
首を振る。
「負けた」
実咲が。
驚く。
「熊五郎が?」
「ああ」
熊五郎は。
静かに答える。
「俺一人では」
「……」
「守れなかった」
その言葉を。
聞いた瞬間。
実咲の左手が。
熱くなった。
――ピカッ。
黒い線が。
光る。
「……っ」
頭の中に。
また。
映像が流れた。
燃える王城。
逃げる人々。
そして。
幼い実咲。
その手を握る女性。
『走って』
母の声。
『振り返らないで』
「お母さん……」
実咲が。
呟く。
映像の中で。
母親が。
何度も後ろを振り返っている。
そこには。
若い熊五郎がいた。
王冠を被った。
熊五郎。
傷だらけで。
巨大な敵と戦っている。
『王様!』
母親が。
叫ぶ。
熊五郎が。
振り返る。
『この子を頼む!』
『……分かった!』
映像が。
そこで切れた。
実咲が。
目を開く。
「……今の」
熊五郎を見る。
「お母さんは」
息を整える。
「熊五郎を知ってた」
熊五郎は。
答えない。
「それだけじゃない」
実咲が。
続ける。
「私を熊五郎に預けようとしてた」
「……」
熊五郎が。
目を伏せる。
「そうだ」
実咲が。
息を呑む。
「知ってたの?」
「ああ」
「じゃあ……」
実咲の声が。
震える。
「どうして今まで言わなかったの?」
熊五郎は。
少し黙る。
「お前が思い出すまで」
「……」
「俺から話すべきじゃないと思った」
その時。
巨大な存在が。
初めて。
口を開いた。
――ゴォォォォ……。
声だけで。
空気が震える。
「王……」
熊五郎が。
顔を上げる。
巨大な目が。
開いた。
赤い光。
「まだ……生きていたか」
熊五郎が。
一歩前へ出る。
「お前もな」
「……」
「随分と待たせたな」
巨大な存在が。
腕を上げる。
――ズドォォォン!!
黒い魔力が。
地面へ落ちる。
「散開!」
ガルドが。
叫ぶ。
全員が。
左右へ飛ぶ。
爆発。
地面が。
大きくえぐれる。
「実咲!」
熊五郎が。
叫ぶ。
「分かってる!」
実咲が。
両手を広げる。
――パァァッ!
光の壁が。
ガルドとレオンを守る。
しかし。
巨大な魔力の衝撃は。
あまりにも強い。
「くっ……!」
実咲の足が。
地面へ沈む。
黒い線が。
左腕を走る。
「実咲!」
熊五郎が。
叫ぶ。
「まだ!」
実咲が。
歯を食いしばる。
「まだ守れる!」
――パキッ。
何かが。
頭の中で。
切れた。
「……」
実咲の表情が。
一瞬。
無になる。
「実咲?」
「……熊五郎」
「何だ?」
「私」
少し。
首を傾げる。
「何でここにいるんだっけ?」
熊五郎の顔が。
凍る。
「……」
実咲は。
周囲を見る。
「ここ……」
「戦場だ」
「戦場……?」
実咲の声が。
不安になる。
「私、何をしてた?」
熊五郎は。
拳を握る。
「俺たちを守ってた」
「……私が?」
「ああ」
実咲は。
自分の左手を見る。
黒い線。
「また……忘れたんだ」
「そうだ」
熊五郎が。
実咲の肩に手を置く。
「でも」
「……?」
「今は思い出さなくていい」
熊五郎が。
前を見る。
「俺が覚えてる」
実咲が。
熊五郎を見る。
「……」
「お前が何を守ったか」
「……」
「全部、俺が覚えておく」
実咲の目に。
涙が浮かぶ。
「ありがとう」
巨大な敵が。
再び。
腕を振り上げる。
「話は終わりだ」
熊五郎が。
鍋を構える。
「まだ終わってない」
「料理するの?」
実咲が。
聞く。
「ああ」
熊五郎が。
笑う。
「俺たちの戦い方は」
火を起こす。
「いつもこれだ」
鍋へ。
肉を入れる。
野菜を入れる。
出汁を入れる。
「食べて」
ガルドが。
驚く。
「今か!?」
「今だ!」
「分かった!」
ガルドが。
鍋から料理を受け取る。
一口。
――パクッ。
身体に。
力が戻る。
「……!」
ガルドが。
槍を握る。
「力が戻った!」
レオンも。
食べる。
「俺もだ!」
二人が。
同時に。
巨大な敵へ向かう。
――ドォォォン!!
槍と剣が。
黒い鎧へ叩き込まれる。
しかし。
傷は。
浅い。
「硬い!」
レオンが。
叫ぶ。
「なら」
熊五郎が。
実咲を見る。
「守れるか?」
実咲は。
一瞬。
迷った。
自分の左手を見る。
黒い線。
そして。
ガルド。
レオン。
熊五郎。
「……全部は無理」
熊五郎が。
頷く。
「それでいい」
「でも」
実咲が。
手を伸ばす。
「三人なら」
光が。
三人へ伸びる。
「守れる」
――パァァァッ!
光が。
熊五郎。
ガルド。
レオン。
三人を繋ぐ。
だが。
実咲の左腕に。
激痛が走る。
「――っ!」
黒い線が。
肩へ到達する。
「実咲!」
熊五郎が。
振り返る。
「大丈夫!」
実咲は。
歯を食いしばる。
「これ以上は……」
息をする。
「長くは無理」
「なら」
熊五郎が。
前を見る。
「短時間で決める」
ガルドが。
槍を構える。
「分かった!」
レオンも。
剣を構える。
「一気に行く!」
熊五郎の魔力が。
燃え上がる。
実咲の光が。
その炎を包む。
炎が。
金色に変わる。
「これが……」
実咲が。
呟く。
「王と守護者の力」
熊五郎が。
笑う。
「行くぞ!」
三人が。
同時に走る。
――ドォォォォン!!
巨大な敵の胸へ。
三つの力が。
集中する。
炎。
光。
槍。
剣。
すべてが。
一つになる。
――ズガァァァァン!!
胸の魔法陣に。
亀裂が入った。
「効いた!」
レオンが。
叫ぶ。
巨大な敵が。
初めて。
後退する。
だが。
その瞬間。
巨大な目が。
実咲を見る。
「守護者……」
低い声。
「お前の母も」
実咲の動きが。
止まる。
「……!」
「同じように」
巨大な存在が。
言う。
「俺と戦った」
実咲が。
息を呑む。
「お母さんが……?」
熊五郎も。
驚く。
巨大な存在が。
続ける。
「そして」
黒い魔力が。
胸の魔法陣へ集まる。
「最後に」
巨大な目が。
実咲を見つめる。
「お前を逃がした」
実咲の頭の中で。
また。
記憶が弾ける。
母の顔。
燃える王城。
そして。
最後の言葉。
『この子を……王様に……』
「……え?」
実咲が。
目を見開く。
「今……」
熊五郎を見る。
「お母さんが」
震える声で。
「熊五郎に私を預けた理由……」
その時。
黒い線が。
実咲の首元まで。
伸びた。
「――っ!」
熊五郎が。
駆け寄る。
「実咲!」
しかし。
実咲は。
首元の黒い線を押さえながら。
一つの言葉を。
呟いた。
「私のお母さんは……」
そして。
巨大な敵を見上げる。
「熊五郎の国の――」
「守護者だったの?」
戦場が。
静まり返った。
巨大な存在は。
答えなかった。
ただ。
その沈黙が。
すべてを語っていた。




