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第108話 守護者を知る者

第108話 守護者を知る者


「みんな守る」


実咲の言葉と同時に。


光が。


町全体へ広がった。


避難所。


兵士。


食堂。


そして。


外壁。


すべてが。


一本の光で繋がっていく。


――パァァァァッ!!


「……すごい」


ガルドが。


空を見上げる。


「これなら黒い霧を――」


その瞬間。


実咲の膝が。


ガクッと落ちた。


「……っ」


熊五郎が。


すぐに気づく。


「実咲!」


「大丈夫……」


実咲は。


立ち上がろうとする。


しかし。


足に力が入らない。


「待て」


熊五郎が。


肩を支える。


「何かおかしい」


「……ちょっと疲れただけ」


「違う」


熊五郎が。


実咲の手を見る。


光が。


指先から漏れている。


しかし。


その光と一緒に。


実咲の身体から。


小さな粒子のようなものが。


抜けていた。


「これは……」


熊五郎の顔が。


険しくなる。


「魔力じゃない」


「じゃあ何?」


実咲が。


聞く。


熊五郎は。


答えに迷った。


そして。


小さく言った。


「記憶だ」


「……え?」


実咲が。


瞬きをする。


「今」


熊五郎が。


実咲を見る。


「何を思い出せない?」


「何って……」


実咲は。


少し考える。


「……」


「実咲?」


「……おかしい」


実咲の顔が。


青ざめる。


「さっきまで」


目を閉じる。


「何か……」


「何を?」


「誰かと話してた気がする」


「誰と?」


実咲は。


必死に思い出そうとする。


しかし。


出てこない。


「……分からない」


熊五郎が。


息を呑む。


「やっぱり」


実咲の能力は。


ただ魔力を消費するものではない。


守る対象が増えるほど、実咲自身の記憶を燃料にする。


実咲が。


光を見上げる。


「じゃあ」


町全体を守っている今。


「もっと使ったら……」


熊五郎は。


答えなかった。


実咲が。


理解する。


「もっと記憶がなくなる」


「そうだ」


「どれくらい?」


「分からない」


熊五郎が。


首を振る。


「お前自身も、まだ知らない力だからな」


実咲は。


しばらく黙っていた。


そして。


町を見る。


光の中で。


人々が逃げている。


ガルドが。


負傷者を運んでいる。


レオンが。


黒い根を止めている。


そして。


熊五郎が。


料理を作っている。


実咲は。


拳を握った。


「……それでも」


「実咲」


「守る」


光が。


再び強くなる。


「今は」


実咲が。


熊五郎を見る。


「忘れてもいい」


熊五郎の表情が。


変わる。


「よくない」


「え?」


「お前が忘れていいものなんて」


熊五郎が。


静かに言う。


「一つもない」


実咲が。


黙る。


熊五郎は。


鍋を持ち上げる。


「だから」


火を強くする。


「全部をお前一人で背負うな」


「……」


「俺にも料理を作らせろ」


ガルドが。


笑う。


「俺にも戦わせろ」


レオンも。


頷く。


「守られるだけじゃない」


実咲が。


二人を見る。


「守る側も、守られるんだな」


熊五郎が。


頷く。


「ああ」


その瞬間。


黒い男が。


笑った。


「美しい話だ」


「……」


「だが」


男が。


黒い剣を構える。


「代償を知っても、その力を使うか?」


実咲は。


男を見る。


「使う」


「記憶を失っても?」


「……」


実咲の表情が。


少しだけ揺れる。


「それでも」


「なぜだ?」


実咲は。


熊五郎を見る。


「熊五郎が」


少し笑う。


「私の記憶がなくなっても」


「……」


「料理を食べさせてくれるから」


熊五郎が。


目を丸くする。


「お前……」


「忘れたら、また教えて」


実咲が。


言う。


「この食堂のこと」


熊五郎は。


しばらく黙った。


そして。


小さく笑う。


「ああ」


鍋を。


火にかける。


「何度でも教える」


実咲が。


頷く。


しかし。


その瞬間。


黒い線が。


実咲の左手に浮かんだ。


「……!」


熊五郎が。


気づく。


「実咲!」


実咲は。


左手を見る。


そこには。


熊五郎の右腕にあるものと。


よく似た黒い線。


ただし。


実咲の線は。


指先から手首へ。


ゆっくり伸びている。


「これ……」


熊五郎の表情が。


険しくなる。


「それが代償か」


「たぶん」


「触るな」


熊五郎が。


実咲の手を掴む。


だが。


黒い線は。


消えない。


むしろ。


光を使うほど。


少しずつ伸びていく。


「……能力を使うたびに」


熊五郎が。


呟く。


「記憶だけじゃない」


実咲を見る。


「身体にも残る」


黒い男が。


笑う。


「ようやく気づいたか」


「……」


「守護者の力は」


男が。


語る。


「守る対象が増えるほど」


黒い霧が。


渦を巻く。


「守護者自身を壊していく」


実咲は。


自分の左手を見る。


それでも。


光を消さない。


「だったら」


「実咲?」


「壊れる前に」


実咲が。


熊五郎を見る。


「みんなで終わらせればいい」


熊五郎が。


笑った。


「その通りだ」


そして。


熊五郎は。


鍋を持ち上げた。


「だから俺が作る」


実咲が。


光を広げる。


「私は守る」


ガルドが。


槍を構える。


「俺は戦う」


レオンも。


剣を構える。


「俺も」


四人の力が。


一つになる。


しかし。


実咲の左手の黒い線は。


さらに一筋。


腕へ伸びていた。


誰も。


その先に何が起こるのか。


まだ知らない。


そして。


実咲自身も。


まだ気づいていなかった。


――この黒い線が。


彼女が忘れた記憶そのものを、形にしたものだということを。



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