第10話 熊五郎、食材調達を任される
第10話 熊五郎、食材調達を任される
熊五郎が魚屋に着くと、店主がちょうど店先で魚を並べていた。
「おう、熊五郎!」
「来たぞ」
「どうした?」
「夕方の料理に使う魚が欲しい」
「分かった。ちょうどいいのが入ってるぞ」
店主は魚を見せていく。
熊五郎は一匹ずつ確認する。
「これと、これを頼む」
「分かった」
魚屋の店主が魚を包んでいく。
「それから――」
熊五郎が続ける。
「明日の分も必要だ」
「明日の分?」
「ああ。今日、かなり客が来た」
店主は笑った。
「聞いてるよ」
「もう知ってるのか?」
「町中で噂になってるぞ」
「そうか」
「『まずは飯だ』っていう食堂の料理がうまいってな」
熊五郎は少し嬉しそうに頷いた。
「うまいからな」
「自分で言うか?」
店主が笑う。
「でも、本当に評判がいいみたいだな」
「ああ」
熊五郎は真剣な顔になった。
「だから、明日の分は多めに欲しい」
「任せろ」
店主は即答した。
「魚なら俺に任せてくれ」
「助かる」
「ただな……」
店主が少し考える。
「魚だけじゃないだろ?」
「そうだ」
熊五郎も頷く。
「肉も必要だ」
「野菜もだな」
「ああ」
熊五郎は腕を組んだ。
「どうしたらいい?」
「肉なら、知り合いに頼んでみる」
「手に入るか?」
「任せておけ」
店主は胸を張った。
「俺もこの町で長く商売してるんだ。肉を扱っている知り合いくらいいる」
「そうか」
「野菜も手配できると思う」
熊五郎は少し驚いた。
「そこまでしてくれるのか?」
「当たり前だ」
店主は笑った。
「せっかくうまい飯を食わせてくれる店ができたんだ。俺も、うまい飯が食いたいからな」
「……なるほど」
熊五郎は頷いた。
「じゃあ、頼む」
「ああ。食材のことは俺に任せろ」
店主は胸を叩いた。
「魚だけじゃなく、肉も野菜も、できる限り揃えてやる」
「助かる」
熊五郎は深く頷いた。
すると店主が、ふと思い出したように言った。
「それとな」
「何だ?」
「お前さんたち、これからも家に帰ってくるんだろ?」
「ああ」
「だったら、遠慮するな」
店主は笑った。
「しばらくと言わず、ずっとここに住めばいい」
熊五郎が顔を上げる。
「いいのか?」
「ああ」
「実咲も?」
「もちろんだ」
店主は笑った。
「お前さんたちが来てくれてから、家の中が賑やかになった」
「……」
「それに――」
店主は少し照れくさそうに言った。
「毎日、うまい飯が食えるからな」
熊五郎はしばらく店主の顔を見ていた。
そして――。
「分かった」
「おう」
「しばらく頼む」
「もちろんだ」
熊五郎は魚を受け取る。
さらに、明日の食材について店主と確認する。
「明日の朝には魚を用意しておく」
「ああ」
「肉も知り合いに声をかけておく」
「頼む」
「野菜も探してみる」
「助かる」
熊五郎は食材を抱えた。
「じゃあ、戻る」
「おう。気をつけてな」
「ああ」
熊五郎は食材を抱え、食堂へ向かって歩き始めた。
---
その頃。
食堂では――。
「……」
実咲は椅子に座ったまま、眠っていた。
昼間の忙しさで、すっかり疲れてしまったのだ。
腕を組んだまま、静かに寝息を立てている。
店内は静かだった。
「……熊五郎……」
寝言まで言っている。
しばらくして――。
カラン。
食堂の扉が開いた。
「戻ったぞ」
熊五郎が食材を抱えて入ってくる。
「……」
実咲は起きない。
熊五郎は実咲を見る。
「寝ているのか」
返事はない。
「……疲れたんだな」
熊五郎は食材を厨房へ運んだ。
そして、眠っている実咲を起こさないように、少しだけ声を落とした。
「まあ、今日はよく働いたからな」
熊五郎は厨房で食材を並べる。
魚。
野菜。
明日の食材について考えながら、熊五郎は満足そうに頷いた。
「これなら、明日も料理ができる」
そして――。
食堂『まずは飯だ』の夜が、静かに始まった。




