表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

森丘でキャンプ

あれから二週間が経った。

刹那はいまだに、命を奪ったあの“リアルな感覚”が嫌で、『モン○○ーハンター2ドスVR』をプレイしていなかった。


その感覚は刹那だけではない。他のプレイヤーたちにとっても、引退の理由のひとつになっていた。


(このゲーム、サイラちゃんにでもあげようかな)

(誕生日プレゼントに、サイラちゃんからこれもらったしね)


ハーブの香りがするアロマキャンドルを手にした刹那は、それを黒い背の低いテーブルの上に置いた。


刹那の誕生日は四月七日、春。

桜山町や桜川町では、満開の桜が見られる季節だ。


(もう私も二十一歳かぁ……そろそろ結婚とか考えないと)


「カチッ」


ライターで、手作りのキャンドルに火を灯す。


(あの長髪のイケメンの人と結婚できたらなあ……)


二週間前、一目惚れした中華系の青年。

その姿を思い出すだけで、胸が高鳴る。


(もう一度、どこかで会えないかな……)


ふわりと広がるハーブの香りが、鼻をくすぐった。


(うーん、いい匂い。頭がすっきりする感じ)

(サイラちゃんの手作り、なかなかやるじゃない)


刹那は手首を返し、指先を上に向けて脇を伸ばす。


(あー……気持ちいい)


左右に体を揺らし、疲れた腕をほぐす。


「ふぅ……」


そのままベッドに倒れ込み、テーブルの上のヘッドギアを見つめた。


(……また、やってみようかな)


朝日がまぶしい。

緑の丘に囲まれ、近くには川の十字路。


森丘エリア1。


刹那はそこに立っていた。


装備は青い皮鎧。中央には青白い布地、腕や膝には鉄のアームが付いている。


(さて、狩るとしますか)


今回のクエストは「生肉を二つ納品」。

草食恐竜のようなモンスター、アプトノスから手に入る。


刹那は駆け出し、そのまま大きく跳躍。

片手剣でアプトノスの胴を斬りつけた。


驚いて動く隙に――


斬り上げ、斬り下ろし。


連続攻撃が続き、やがてアプトノスは横倒しになる。


「うぉぉん……」


(ごめんなさい)


心の中で謝りながら、とどめを刺した。


その後、肉を剥ぎ取り「生肉」を入手する。


それを何度か繰り返し、刹那はベースキャンプへ戻った。

木々に囲まれたそこには、黄色いテントと青い箱、そして赤い納品箱がある。


生肉を入れると、


『クエストクリア!』

『支給品専用アイテムを返却しました』


白い文字が空中に浮かび上がった。


次のクエストは「こんがり肉を四つ納品」。


刹那は焼き肉セットを取り出す。

鉄板の上に焚火、その上に支え木――おなじみの調理器具だ。


生肉を置くと、軽やかなメロディが流れ始めた。


「とぉうとぅつー、てててて、てんてん、てん……」


(よし、今!)


色が変わった瞬間に持ち上げる――


『生焼け肉』


(くっ、早すぎた……!)


再挑戦。


しかし結果は――コゲ肉、コゲ肉、またコゲ肉。


(もう一回……って、生肉ないじゃない!)

(またアプトノス狩らなきゃ……)


「あーもう、イライラする!」


その場で足をバタつかせ、感情を発散する。


そして何度目かの挑戦。


「とぉうとぅつー……てんてん、てん、ててて……」


――上手に焼けました!


「やったぁ! こんがり肉!」


思わずガッツポーズ。


今回の収穫は、タイミング。

BGM終了後、三拍子おいて持ち上げる。


(なんだかんだ言って私、このゲーム楽しんでる)


次のクエストは探索系。

特産キノコ五個、にが虫二匹、生肉四個。


順調に生肉を集めた後――問題はにが虫だった。


草むらで虫あみを振る。


「それっ!」


ぶーん、と羽音。


「きゃあああ! 羽虫!」


青いカブトムシに顔をかすめられ、尻もち。


(無理無理無理!)


科学者として虫には慣れているはずなのに、これは別。


やがて岩の隙間に消える虫を見つける。


(あそこ、巣じゃない?)


意を決して手を突っ込む――


「ぎゃああああ!!」


大量のにが虫が腕や体にまとわりついた。


振り払うと、ひっくり返って足をわさわさ動かす。


「はぁ……はぁ……気持ち悪い……」

「このゲーム、もしかしてクソゲーでは……?」


それでもなんとか回収し、目標達成。


最後は特産キノコ。


エリア3の奥、木の下に広がる赤いキノコ群を見つけた。


「あれだ!」


採取――成功。


すべて納品し、クエストクリア。


朝。仕事の時間。


部屋に残るハーブの香りに、刹那はふと思い出す。


(サイラちゃんにプレゼントもらったんだっけ)

(仕事終わりに、お返し買いに行こうかな)


高級マンションを出ると、満開の桜。


その下に、見覚えのあるTシャツの人物。


(あの子……ちょっとイケメンじゃない?)


「……ん? そんなに見て、何か用ですか?」


濃藍色こいあいいろの髪の少年が振り向く。


「あ、ごめんね。桜が綺麗だったから、それ見てただけ」


「ああ、そうかい……綺麗だな桜」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ