森丘でキャンプ
あれから二週間が経った。
刹那はいまだに、命を奪ったあの“リアルな感覚”が嫌で、『モン○○ーハンター2ドスVR』をプレイしていなかった。
その感覚は刹那だけではない。他のプレイヤーたちにとっても、引退の理由のひとつになっていた。
(このゲーム、サイラちゃんにでもあげようかな)
(誕生日プレゼントに、サイラちゃんからこれもらったしね)
ハーブの香りがするアロマキャンドルを手にした刹那は、それを黒い背の低いテーブルの上に置いた。
刹那の誕生日は四月七日、春。
桜山町や桜川町では、満開の桜が見られる季節だ。
(もう私も二十一歳かぁ……そろそろ結婚とか考えないと)
「カチッ」
ライターで、手作りのキャンドルに火を灯す。
(あの長髪のイケメンの人と結婚できたらなあ……)
二週間前、一目惚れした中華系の青年。
その姿を思い出すだけで、胸が高鳴る。
(もう一度、どこかで会えないかな……)
ふわりと広がるハーブの香りが、鼻をくすぐった。
(うーん、いい匂い。頭がすっきりする感じ)
(サイラちゃんの手作り、なかなかやるじゃない)
刹那は手首を返し、指先を上に向けて脇を伸ばす。
(あー……気持ちいい)
左右に体を揺らし、疲れた腕をほぐす。
「ふぅ……」
そのままベッドに倒れ込み、テーブルの上のヘッドギアを見つめた。
(……また、やってみようかな)
朝日がまぶしい。
緑の丘に囲まれ、近くには川の十字路。
森丘エリア1。
刹那はそこに立っていた。
装備は青い皮鎧。中央には青白い布地、腕や膝には鉄のアームが付いている。
(さて、狩るとしますか)
今回のクエストは「生肉を二つ納品」。
草食恐竜のようなモンスター、アプトノスから手に入る。
刹那は駆け出し、そのまま大きく跳躍。
片手剣でアプトノスの胴を斬りつけた。
驚いて動く隙に――
斬り上げ、斬り下ろし。
連続攻撃が続き、やがてアプトノスは横倒しになる。
「うぉぉん……」
(ごめんなさい)
心の中で謝りながら、とどめを刺した。
その後、肉を剥ぎ取り「生肉」を入手する。
それを何度か繰り返し、刹那はベースキャンプへ戻った。
木々に囲まれたそこには、黄色いテントと青い箱、そして赤い納品箱がある。
生肉を入れると、
『クエストクリア!』
『支給品専用アイテムを返却しました』
白い文字が空中に浮かび上がった。
次のクエストは「こんがり肉を四つ納品」。
刹那は焼き肉セットを取り出す。
鉄板の上に焚火、その上に支え木――おなじみの調理器具だ。
生肉を置くと、軽やかなメロディが流れ始めた。
「とぉうとぅつー、てててて、てんてん、てん……」
(よし、今!)
色が変わった瞬間に持ち上げる――
『生焼け肉』
(くっ、早すぎた……!)
再挑戦。
しかし結果は――コゲ肉、コゲ肉、またコゲ肉。
(もう一回……って、生肉ないじゃない!)
(またアプトノス狩らなきゃ……)
「あーもう、イライラする!」
その場で足をバタつかせ、感情を発散する。
そして何度目かの挑戦。
「とぉうとぅつー……てんてん、てん、ててて……」
――上手に焼けました!
「やったぁ! こんがり肉!」
思わずガッツポーズ。
今回の収穫は、タイミング。
BGM終了後、三拍子おいて持ち上げる。
(なんだかんだ言って私、このゲーム楽しんでる)
次のクエストは探索系。
特産キノコ五個、にが虫二匹、生肉四個。
順調に生肉を集めた後――問題はにが虫だった。
草むらで虫あみを振る。
「それっ!」
ぶーん、と羽音。
「きゃあああ! 羽虫!」
青いカブトムシに顔をかすめられ、尻もち。
(無理無理無理!)
科学者として虫には慣れているはずなのに、これは別。
やがて岩の隙間に消える虫を見つける。
(あそこ、巣じゃない?)
意を決して手を突っ込む――
「ぎゃああああ!!」
大量のにが虫が腕や体にまとわりついた。
振り払うと、ひっくり返って足をわさわさ動かす。
「はぁ……はぁ……気持ち悪い……」
「このゲーム、もしかしてクソゲーでは……?」
それでもなんとか回収し、目標達成。
最後は特産キノコ。
エリア3の奥、木の下に広がる赤いキノコ群を見つけた。
「あれだ!」
採取――成功。
すべて納品し、クエストクリア。
朝。仕事の時間。
部屋に残るハーブの香りに、刹那はふと思い出す。
(サイラちゃんにプレゼントもらったんだっけ)
(仕事終わりに、お返し買いに行こうかな)
高級マンションを出ると、満開の桜。
その下に、見覚えのあるTシャツの人物。
(あの子……ちょっとイケメンじゃない?)
「……ん? そんなに見て、何か用ですか?」
濃藍色の髪の少年が振り向く。
「あ、ごめんね。桜が綺麗だったから、それ見てただけ」
「ああ、そうかい……綺麗だな桜」




