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出会いの春

帰り道の商店街。

刹那はフード付きのジャケットを着ていた。ベージュの、春を思わせる色合いだ。

下は黒いズボンに白いシューズ。


(あの長髪のイケメンの人に会えないかな)


三週間ほど前に一目惚れした、中華系の青年。

ロングヘアーに、アジア系にしては白い肌。大きな唇に大きな目――とにかく整った顔立ちのイケメンだ。


その姿を思い出すだけで、胸が高鳴る。


(会えないかな……)


そんなことを考えていると、不意に見覚えのある人物が目に入った。


褐色の肌にアフロヘアー。白いTシャツにジーンズ。

おしゃれをする気がまるでない男――武蔵坊弁慶だ。


(キモ……真逆のブサメンじゃない)


その弁慶がこちらに気づいたのか、小走りで近づいてくる。


「刹那じゃねーか!久しぶりだな」

「たまには教会に来いよな」


弁慶は、かつて同じ統〇教会に通っていた二世信者の仲間だ。


「いやよ、あんな所!」


刹那は即座に拒絶する。


すると弁慶は、鼻をほじりながら気楽に口を開いた。


「今は昔と変わってよ、高い壺とか勾玉とか売らなくなったぜ」

「法律も変わって、教会もマシになったってことさ」

「まぁ、俺もあんまり行きたくはねーけどな」

「でも昔の仲間に会えるのは教会くらいだぜ」


長々とした話に、刹那は少しだけ考え込む。


「そ、そうよね……」


「無理にとは言わねーけどさ、気が向いたら来いよ」

「声かけて悪かったな。じゃあな」


そう言うと弁慶は、用事があるのか足早に去っていった。


(久しぶりに、みんなに会おうかな……)


気がつけば、VRソフト専門店の前に立っていた。


(あの店員に、改造版について聞いてみようかしら)


店の前で立ち止まっていると、中からサイラと手をつないだ銀髪ボブの少女が出てくる。


(マリー百式!)


「刹那ぁーっ!」


突然の声に肩をびくっとさせつつ、刹那はサイラと目線を合わせるようにしゃがんだ。


「サイラちゃん、こんばんは」


サイラの隣で、緑の瞳を持つハーフ系の少女――マリー百式が口を開く。


「どうも」


思っていたよりシャイな様子に、刹那は少し肩の力を抜いた。


「初めまして。サイラちゃんとたまに遊んでいる刹那と申します」

「どうぞ、よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


マリー百式はクールに短く答える。


そのやり取りを見ていたサイラが、ぽかんと口を開けたあと――


「おねえ、刹那と三人でスイーツでも食べようよ!」


「だめよ。この人に迷惑になるから」


(スイーツ!食べたい、食べたい!)


思わずよだれが出そうになる刹那。

だがマリー百式はサイラの手を引く。


「すみません。もう行きますね」

「サイラ、私の言うことを聞かないと痛い目見るわよ」


その真剣な表情に押されたのか、サイラは小さく「うん」とうなずいた。


「スイーツ……」


刹那の小さな嘆きを残し、二人は歩き去っていく。


(スイーツ……スイーツ……食べたかったな……)


名残惜しそうに、その背中を見送る刹那。

サイラは何度も振り返って手を振るが、マリー百式は一度も振り返らない。


その対照的な様子に、思わず苦笑する。


「あの子……厳しいお姉さんって感じね」


小さくつぶやき、ふぅっと息を吐く。


だが、甘いものへの欲求は消えない。

――むしろ、さっきより強くなっている。


(いや、むしろ悪化してるんだけど!?)


ぐぅぅぅ……


お腹が正直に鳴った。


「……はぁ。もう一人で食べに行くしかないじゃない」


少し拗ねたように頬を膨らませながら、商店街を見渡す。

夕暮れに染まる通りには、パン屋、和菓子屋、小さなカフェが並んでいる。


(どこにしようかな……菓子パンもいいし、パフェもいいし……)


そのとき――


「……あ」


視界の端に、見覚えのあるシルエットが映った。


長い黒髪が揺れ、春の風になびく。

すらりとした体型、白い肌、整った横顔。


(うそ……まさか!)


心臓がドクン、と跳ねる。


三週間前、ほんの一瞬だけ見かけたあの青年。


(あの人だ!)


気づいた瞬間、足が動いていた。


「ま、待って!」


小さな声は雑踏に紛れる。


青年は気づかず歩いていく。


(どうしよう、なんて声かければいいの!?)


頭が真っ白になる。


(「一目惚れしました」とか!?無理無理無理!)


それでも距離は縮まっていく。


あと数メートル――


そのとき、青年がふと立ち止まり、振り返った。


「……僕に何か用ですか?」


イケボで落ち着いた声。


(やばい、声までいい……)


「あ、えっと、その……!」


顔が一気に熱くなる。


首をかしげる青年。


(言え、言うのよ刹那!)


「……あの!」


深呼吸して――


「前に一度、見かけて……」

「ずっと、気になってて!」


青年は少し目を見開き――やがて柔らかく笑った。


「そうなんですね」

「じゃあ、少し、スイーツでも食べながら話しますか?」


その笑顔に、心臓が跳ねる。


(え……?)


「ちょうど、甘いものでも食べようと思ってまして」


(スイーツ……!?)


「い、行きます!!」


即答だった。


それに、青年は小さく笑う。


「ふっ、元気ですね」

「名前はなんて言うんですか?」


「刹那です!」

「あなたは?」


青年はわずかに間を置き、静かに答えた。


「カースド0の飛龍フェイロンです」


(フェイロン……名前までかっこいい!)


偶然の再会から始まる、小さな奇跡。


「スイーツ食べたかったな」という嘆きは、

気づけば「好きな人とスイーツ」という最高の展開に変わっていた。


(今日、最高の日かも……)

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