表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

疾風のドランポス

「ダカダカダカダカ!」


工房二階の壁に開いた横穴から、背の低い工房のおばちゃんが勢いよく顔を出した。


「ほっ! 村に“疾風のドスランポス”が現れたわ!」


唐突すぎる登場に、刹那は思わず肩を跳ねさせる。


「い、いきなりですね……」


「今は人手が足りないのよ! 二人がかりでいいから、さっさと狩ってきておくれ!」


半ば押し付けるような依頼に、刹那は反射的にうなずいた。


「……あ、はい」


その横で天津が、面白そうに口角を上げる。


「ふーむ、いいけどなーう。報酬とかはあるのん?」


「あるともさ!」


おばちゃんはニヤリと笑い、工房の隅を指さした。


「あそこにある大剣、持っていきな!」


視線の先には、無骨な鉄の大剣が立てかけられていた。刃の根元には、何かを引っかけるような穴が開いている。


「バスターソードを、ワシが鍛え直したやつよ」


刹那は近づき、そっと手を触れる。すると視界にステータスが浮かび上がった。


【バスターソード改】攻撃力720


(……強い)


思わず息をのむ。


(これ、かなり当たりじゃない?)

(最悪、クエスト失敗しても武器は残るし……)


一瞬の打算のあと、刹那は顔を上げた。


「分かりました。その大剣、いただきます」


「あいよ、持っていきな!」


中央広場。


そこにいたのは、青い体毛を逆立てた巨大なラプトル――疾風のドランポスだった。


(あれを狩ればいいのね)


新しい装備の重みと硬さに、どこか安心感を覚えながら刹那は一歩踏み出す。


「セツセツ、援護は任せるのーよ」


見上げると、工房の屋根の上。天津がライトボウガンを構えていた。


「いくわよ!」


刹那は一気に間合いを詰め、大剣を振り下ろす――


しかし。


まるでそれを読んでいたかのように、ドランポスは紙一重で後方へ跳んだ。


「避けた!?」


その身体から、風のようなエフェクトが立ち上る。


次の瞬間。


「とんだ!」


ドランポスが空中へ跳躍し、刹那の頭部を蹴り上げた。


「ぐっ……!」


視界が揺れる。


着地したドランポスに、天津の弾丸が脚へ命中するが、致命傷にはならない。


(強い……!)


一連の動きだけで理解する。


(こいつ、普通じゃない)


左右へ高速で跳ね回るドランポス。刹那は踏み込み、薙ぎ払う。


――が。


(重っ……!)


大剣の重さに動きが鈍る。


その隙を逃さず、ドランポスが接近する。


「この武器、使えない!」


刹那は即座に判断し、大剣を放り捨てた。


そして――拳を握る。


「なら!」


ドンッ!!


予想外の拳打がドランポスの顔面を捉える。


「効いたでしょ!」


ワン、ツー、フック。リズムよく叩き込む。


ドランポスの身体がぐらついた。


「すまないぬーん、当たらないなう!」


天津の弾は地面へ着弾していた。


「いいの! 殴り勝つ!」


怯んだ隙に大剣を拾い上げ、振り下ろす。


(やっぱり重い……!)


歯を食いしばりながら、刹那は大剣を振り回した。


まるでハンマー投げの助走のように。


ゴッ! ゴゴッ!


多段ヒット。血が飛び散る。


(いける――!)


そう思った瞬間。


「ぐあああああん!!」


暴風が吹き荒れた。


「なに……!?」


ドランポスの体を風が包む。


次の瞬間、風のブレスがたおれていた刹那を襲う。


「っ……!」


視界が白く霞む。


(目が……開かない……!)


その隙を逃さず、強烈な蹴りが顔面に叩き込まれた。


意識が途切れる。


「……負けたのね」


オシャレな寝室。朝日がカーテン越しに差し込む中、刹那はぽつりとつぶやいた。


その話を研究所の個室で、大和に伝えた。


「……ドランポス、強すぎない?」


話を聞き終えた大和は、静かに目を細める。


「そのドスランポス、無茶苦茶ですね」

「ブレスを吐くなんて、聞いたことありません」


「そうよね……」


刹那は苦笑する。


「まあ、私も通常種知らないんだけど」


「いえ、それを差し引いても異常です」


大和の声は冷静だった。


「回避行動、風のブレス……完全に別個体です」


天津がストローをくわえたまま呟く。


「もっとすいたかったぬーん」


「……え?」


刹那が振り向く。


「今なんて?」


「なんでもないタコニコニコ」


天津は笑ってごまかした。


だが大和は続ける。


「もう一つ。報酬です」

「武器が報酬というのも不自然です」

「改造品とはいえ、ここまで条件が変わっているのはおかしい」


刹那はまだ完全には理解できていないが、うなずく。


「そう、よね……」


「つまりこれは」


大和はゆっくり言った。


「開発者クラスの誰かが、意図的に調整している可能性があります」


空気が変わる。


「あるいは……それ以上の存在」


天津が小さく笑った。


「楽しい世界になってきたぬーん」


刹那はその言葉に、なぜか寒気を覚えた。


そんな中、大和が静かに立ち上がる。


「すみません、もうすぐ学校の時間なので――」


時計に視線を落とした大和は、続けて言った。


「今日はここまでで帰らせてもらいますね」


「うん、ごめんねえ。もうそんな時間だったね」


時計を見ると朝の8時になっていた。 その後、朝食を買いに二人は研究所内にあるコンビニによった。


「何食べようかな……」


「悩んでるぬーんね」


袖を引かれ、刹那は微笑む。


「天ちゃんは何食べるの?」


「ホタテサンド!」


結局、同じものを選ぶ。


個室で食べる。


ホタテの旨味、大根のさっぱり感、パンの柔らかさ。


「……美味しい」


「おいしいなーん」


もぐもぐ食べる天津を見て、刹那はふと思う。


(この子……ペットみたい)


「……いやいや」


首を振る。


その後、チョコ入りアイスを分け合う。


甘さが口いっぱいに広がる。


「美味しいわ。生きてて幸せ!」


刹那は小さく笑った。


その笑みの奥で、まだ説明のつかない違和感だけが静かに残っていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ