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4.完璧目指したくなるよね

 



 僕は、緊張していた。


 扉をノックし、許可を得て開けた。

 その瞬間、膝から崩れ落ちそうになった。


 まさか、面接官の中に宰相閣下がいらっしゃるとは思わなかった。


 アレクシス・ヴァン・グラント宰相閣下。


「冷血宰相」と呼ばれる、冷徹な判断さえも無表情で下すという確かな手腕を持つ、この国の政治のトップ。


 己に厳しく人にも厳しい。

 そんな噂を僕は何度も耳にしていた。


 また、容姿の良さでも知られていた。

 立派な体躯。長い黒髪を三つ編みにして流し、至宝と言われる青い瞳。鼻筋の通った、整った顔立ち。人前に立つことの多い彼の姿は有名だ。


 しかし、今は面接中だ。

 美人が黙っていると怖い。威圧感が半端ではない。

 心臓が踊りすぎて、そのまま口から出そうだ。

 いや、吐きそう。


 そんな僕を、入室してからずっとグラント閣下が見ている。

 お願いまばたきして。

 いや、面接官なんだから見るのは当然なのもしれないが。


 僕はさらに緊張して、歩くときに手と足が一緒に出てしまった。

 とりあえず、指定された椅子まで決死の思いでたどり着く。

 礼をして、座る。ここまではよし。


 大丈夫。

 あとは質問に普通に、無難に答えるだけだ。

 僕は自分にそう言い聞かせ、質疑応答に臨んだ。質問にはできるだけ落ち着いて答えた。

 ここで失敗するわけにはいかない。


 そう思うが、僕の正面に座る宰相閣下は机に両肘をつき、口元で手を組んだまま無言。

 そして、無表情で僕をみている。

 お願い何か反応してください。


 僕、何か顔についてます?

 そんな緊張と不安を抱えたまま、面接終了の声がかかる。


 ようやく終わったと、少しほっとしながら、僕は立ち上がり、頭を下げる。


「本日はありがとうございました。どうぞよろしくお願いいたします」

 よし。あとは退室するだけ。

 そう思って、一歩踏み出そうとした、その瞬間。


 ガッ。


 椅子の脚に靴が引っかかった。身体が後ろへ傾く。

 まずい。

 そう思ったときには、もう遅かった。


 ドサッ。ゴツリ。


 そこで、僕の意識は途切れた。



「起きて。って夢の中で起きてはおかしいか。」


 誰かの声がする。

 恐る恐る目を開けると、そこには見覚えのある人物がいた。

「久しぶり。覚えてるかな? この世界を担当してる神だよ」

 神様は嬉しそうに笑った。

 そして、ペラペラと一人で話し始める。これは、夢か?


「ちなみに、世界ってたくさんあるんだよ。その数だけ、神様もいるんだ。いやー、実はさ、生まれる前にも言ったけど、君の魂を割るときに、私くしゃみしちゃって。割るのに失敗したんだ。ごめんね。余りにも可哀想になって、出てきちゃった。」


 軽い。実に軽い。絶対反省してない。


「まあ、それはいいとして。それより、君は魂の番の話は知ってる?」


 まぁ夢だしいいか。

 僕は頷いた。


 魂の番の話は、この世界では、誰もが知っている話だ。神を祀る神殿でも、毎回そのくだりが読み上げられるため、子どもでも知っている。それに、事実、魂の番は存在する。

 しかし、魂の番は出会える確率は低く、巡り会えないまま一生を終える者がほとんどだ。


 神様がうんうんと頷いている。


「それから、今日は忠告しにきたんだ。

 実は人間って、魂が球体に近いほど、欠けていることが我慢できなくなるんだ」


「……どういうことですか?」


 神様は、ぺらぺらと続けた。


「大きく欠けていれば、諦めもつく。けど、ちょと欠けてるだけ、となると、それを埋めたくなる。あとちょっと、ってなると、完璧にしたくなるでしょ?それと一緒。だから、出会っちゃうと、もう絶対に離してもらえない」


「つまり?」


「魂が球体に近いほど、魂の番への執着が、すごく強くなるんだよ。君の番はきっと執着がすごいと思う」


「執着……?」


 神様は頷き、話を続ける。


「普通にふたつに割れた魂も、全員が魂の番を見つけられるわけじゃない。出会えないことの方が圧倒的に多い。だから人は、番の代わりに自分の魂の欠けた部分に近い形の魂を持つ相手を選ぶ」


「選ぶ?」


「選ぶ。言い換えると、恋する、愛するでもいいかな。

 でも、君は魂の形が特殊すぎるからね。もちろん、君の番も。だから、妥協とか、適当な相手として番以外を選べない。下手したら、一生恋せず独身とか。君も今まで恋とかしたことないんじゃない?」


 確かに。言われてみれば、初恋もまだだ。

 生きるのに必死で気づかなかった。


「まあ、頑張って。魂が二つ以上に割れちゃうこともあるし、三人で番とかよりマシでしょ」


 マシかもしれない。

 大人の世界を想像した。


 そして、ついでのように付け加えた。


「ああ、そうそう」


 と、世間話でもするように。


「ちなみに、あの宰相が君の番だね!」


 神様は、にこにこと笑っている。


 僕は固まった。

 宰相閣下が僕の魂の番。


 魂の番って、出会ったらわかるもんじゃないの?

 全然ピンと来なかった。


 もしや、僕はすでに面接でドキドキしていて、魂の番に気づかなかったのか?

 そんなことある?


「ちなみに、夢で私と話したこと、バレないようにね。神と話せるってバレたら、神殿に捕まって聖者認定されて、一生籠の鳥だよ!また、暇な時来るね!」


 神様は光の中に去って行った。


 夢であって欲しい。






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