23.閑話 とんびに油揚げをさらわれた男
俺はカシム•フレイ。
小さい頃、俺は捻くれたガキだった。
なまじ頭が悪くなかったからこそ、自分の人生がどうしようもないものだと分かっていた。
親に捨てられ、孤児院で世話になっている。
この先、ここを出たところで、自分に何ができるのかも分からない。
だから、最初から諦めていた。
どうせ、俺の人生なんてこんなものだ。
そんなときだった。
ハルが孤児院に引き取られてきた。
あいつは達観したガキだった。
身体は弱いくせに、弱音は吐かないし、泣き言も言わない。
何をされても、じっと耐えている。
最初の俺は、そんなハルを特に気にしていなかった。
むしろ、面倒そうな奴だと思っていた。
けれど、あまりにも身体が弱かった。
おまけに運動神経も悪い上に、運も悪い。
何をするにも、いつも一歩遅れる。
見ているうちに、どうにも放っておけなくなった。
最初は、ほんの少し手を貸してやっただけだった。すると、ハルは俺の後をついてくるようになった。
最初は煙たがって追い払っていた。
「ついてくるな」
そう言えば、俯いて服を握り立ち止まる。でも、少しするとまた近くにいる。
何度追い払っても、ハルは諦めなかった。
いつの間にか、一緒にいることが当たり前になった。
そして、ハルの世話をすることが、俺の役目になっていた。思えば、孤児院で浮いていた俺に、ハルは役割をくれたのだと思う。
俺がここにいてもいい。
俺を必要としてくれる。
そんな居場所を、ハルがくれた。
そのうち、ハルと一緒にいる時間が増えていった。
ハルは、いつも真っ直ぐだった。
自分が辛くても、人のことを心配する。
自分が損をしても、誰かを助ける。
そんなハルを見ているうちに、ふと気づいた。
自分がひねくれて、何もかも諦めていることが、馬鹿らしくなってきたのだ。
なるようにしかならない。だったら、やるだけやってみればいい。
そう思えるようになった。
そこから、俺は少しずつ前向きになった。
ハルに影響されるように、何もかもが良い方向へ向かっていった。
俺の優秀さを認めてもらい、大きな商家への養子入りも決まった。
嬉しかった。自分の人生が、初めて動き出した気がした。
ただ、ハルと離れることだけが、寂しくて、心配だった。
あいつは身体が弱い。俺がいなくなったら、大丈夫なのか。
そう思った。
だから、いつかハルを呼んで、また一緒に暮らす。
それを目標にして、がむしゃらに働いた。
時々、孤児院へハルに会いに行った。
ハルの顔を見るたびに、また頑張ろうと思えた。
いつか、必ず迎えにいく。
そして、嫁にする。
そう決めていた。
なのに、ちょっと油断した隙にやられた。
大事に、大事に守ってきた。
俺が守って、俺が育ててきた、俺のハルを。
……あの公爵に。
だけど、まだ婚約だ。
まだ、結婚したわけじゃない。
俺にだって、チャンスはある、はずだ。
それに、ハルの信頼も、「兄ちゃん」という立場もあいつには手に入れられない。
これは、俺のものだ。
ハル。
これからも、俺はお前のそばにいてやるからな。
お前は、俺を幸せにしてくれた。
だったら俺も、お前の幸せを見届けたい。
お前は、今、幸せなんだろうな。
公爵と一緒にいるときのお前は、嬉しそうに笑っていた。
あんな顔をするんだな。
……なら、今は、このままでいい。
俺はハルの兄ちゃんだからな。
そう自分に言い聞かせる。
でも、今は、だ!
はぁ、ハルが恋しい。




