↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/36

15.みんなどうやってるの?

 




 ハルとエドガーがこっそりアレクシスの話をしてから、数日後のこと。

 ハルは悩んでいた。


 僕の存在が、アレクシス様にとって良い影響を与えられているのなら、嬉しい。

 アレクシス様が笑っている顔が、僕は好きだ。

 だから、この先もずっと笑っていてほしい。僕もその隣で一緒に笑いたい。それに僕は、アレクシス様に大事にされていると思う。体調が悪ければすぐに気づいてくれるし、仕事だって無理をさせないようにしてくれる。


 だから、思う。


 僕もアレクシス様に何かしてあげたい。

 そう思うのに、何をすればいいのか分からない。なんだか、もどかしい。

「ありがとう」とか、「大好き」とか、口に出して伝えるだけでは足りないような気もする。

 みんなは、どうしているんだろう。


 そこで、ふと思い出した。


 アレクシス様の願い。

 僕には、ひとつだけ、僕が叶えてあげられる願いに心当たりがある。


『ハルに触れたい』


 アレクシス様は、そう言っていた。僕は、自分の気持ちだけではなく、アレクシス様の気持ちにも向き合わなければいけない。

 でも、僕はアレクシス様が好きなのに、どうして一歩踏み出せないんだろう。


 思い返すと、僕にはそういった経験がまったくない。誰だって、未知のものは怖い。もしかしたら、これが踏み出せない原因なのかもしれない。

 ならば、まずは知るところからだ。



 こうして僕は、密かに調査を始めることにした。


 僕はそういったあれこれのやり方を、なんとなく知っている、という程度の知識しか持っていない。だから、具体的な方法が分からない。


 男の人同士って、どうすればいいんだろう。


 誰か相談できる人はいるかな。公爵邸のジャックさんやアンナさんたちには聞きにくい。

 自慢じゃないが、学園では庶民は少なく、周りは貴族ばかりで僕は相手にされず、友達も少ない。

 孤児院で構ってもらっていた兄ちゃんは忙しいから無理。

 僕は職場での知り合いも少ない。そんな僕の頭に浮かんだのは、二人だった。


 アーデル補佐官かアシュフォード閣下。

 うーん。難しい選択だ。


 ……まずは、安全第一。

 アーデル補佐官に相談してみよう。


 そう決めて、アレクシス様がいないときを見計らい、僕はアーデル補佐官に声をかけた。


「あの、アーデル補佐官……」


「はい。どうしました?」


「その……今、悩んでいることがあって。相談できる人がいなくて。それで、突然なんですけど……男の人同士って、どうすればいいんですか?」


 アーデル補佐官が、ぴたりと動きを止めた。

 数秒の沈黙。

 それから、悟りを開いたような顔で僕を見る。


「ハル君。……アレクシス様に、まず相談したほうがいいと思いますよ。方法については……ご存知かと思います。おそらく」


 ということは、アレクシス様は経験豊富なのかな。そう思って尋ねようとしたけれど、アーデル補佐官は先回りするように口を開いた。


「私からは、何も申し上げられません」


 ガードが硬い。

 仕方がない。

 次だ。


 次に僕が相談相手として選んだのは、アシュフォード閣下だった。僕はまた、アレクシス様の不在を狙って行動に出た。

 そして、なぜか廊下をうろうろしていたアシュフォード閣下を発見した。面会の申し入れをしに行こうと思っていたのだが、手間が省けた。


 ……しかし、この人、何してたのかな?


「こんにちは、アシュフォード閣下。少しお時間よろしいですか?」


「こんにちは。どうしたの、ハル君」


 アシュフォード閣下が満面の笑みですすすっと近寄ってくる。今回は内容が内容なので、接近禁止命令のことはいったん横に置いた。

 それでも念のため、少し距離を取る。

 まずは、アーデル補佐官と話をして、気になったことを聞いてみた。


「あの……アレクシス様って、昔からモテたんですか?」


「アレクシス?」


 ルシアンは一瞬きょとんとしたあと、すぐに笑った。


「ああ。男女関係なくモテモテだったよ! ふふ。ハル君、今日も可愛いね。今から僕の部屋でお茶でもどう? いいの入ってるよ」


 アシュフォード閣下が楽しそうに笑う。

 ……なんか、あやしさに磨きをかけてきたな。

 これ以上は相談しないほうがいいような気がする。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました。それでは……」


 僕は早々に退避することにした。


 しかし、モテモテか。


 何だか、急にもやもやして不安になってきた。しかし、ここで諦めてはいけない。

 僕は、誰かに聞くのを諦め、本の返却ついでに、城の図書室で調べてみた。さすがに城の図書室に、その手の詳しい書物は置いてなかった。


 僕は少し途方に暮れた。





 その頃。


 アレクシスは、ここ数日、ハルの様子がおかしいことに気づいていた。

 一緒にいても、たびたび何かを考えているような顔をする。そして、アレクシスが声をかけると、どこか慌てたような反応をする。

 何かある。

 そう思った。

 だが、ハルは何も話してくれない。

 ハルが書類を届けに行っている隙に、エドガーに尋ねても、


「私からは、何も申し上げられません」


 そう言われるだけだった。

 ハルはエドガーには相談したのか。そんなことも気になって、仕事にも集中できない。だが、それ以上聞くこともできなかった。


 胸の奥に、嫌な予感が広がっていく。

 ハルは、何を悩んでいる? 私には言えないことなのか。

 

 どうして、私に相談してくれない。

 いや、相談できないのでは?

 もし、ハルが私から離れようとしているのだとしたら。

 ハルが私から離れる?


 そんなことを考えるだけで、胸の奥が冷たくなる。

 もし、ハルが私から離れようとするなら、逃げられないように、閉じ込めてしまおう。嫌がっても、私のものにしてしまえばいい。

 そんな考えが、頭をよぎった。

 ハルを失うことを考えるだけで、気がおかしくなりそうだった。



 その夜。

 ハルの部屋を訪れたアレクシスは、窓際のソファに腰を下ろした。今日は温かいハーブティーを準備した。


 隣に座ったハルを、じっと見つめる。

 ハルはゆっくりカップに口を付けている。しかし、何も話してはくれない。アレクシスは自分から切り出した。


「ハル。何に悩んでいる? 私は、相談するに値しない男だろうか」


 ハルが、目を泳がせる。

 しばらく黙っていたが、ハルはやがて観念したように小さく息を吐いた。


「笑わないでくださいね。……あの。僕、そういうことをしたことがないんです」


「……そういうこと?」


「……恋人同士の、そういうことです。だから、どうしたらいいのか分からなくて」


 アレクシスは、きょとんとしたまま、しばらく黙り込んだ。


「……そうか。それで、悩んでいたのか」


 アレクシスは心から安堵した。ハルは悲しそうに俯いた。


「アレクシス様、モテモテだと聞いて……余計に不安になってしまって」


 その瞬間、アレクシスの表情が変わった。


「誰と話した?」


「……アシュフォード閣下です」


 アレクシスは、ゆっくりと息を吐いた。それから、ハルを見る。


「……ハル」


 その表情は、今度はどこか嬉しそうにも見えた。


「ハルが、私たち二人のことを考えてくれるのは嬉しい。だが、一人で悩まないでほしい」


 アレクシスは、静かに続けた。ハルの手を取る。


「これは、二人のことだ。ハルが分からないことは、私に聞いてくれ。一緒に少しずつやっていこう」


 アレクシスの手は温かかった。ハルは少しだけ安心したように頷いた。

 しかし、次の言葉で固まった。


「今日から。」


 アレクシスは、真剣な顔で続けた。


「悩んでくれたということは、少しは私に触れられてもよいと思ってくれているんだろう? しかし、ハルに無理はさせられない。だが、明日から休日だ。次の日は、ゆっくりできる」


 アレクシスは繋いだハルの手を持ち上げ、そっと自分の口元に持っていく。

 ハルは、アレクシスの勢いに押され、焦った。


「確か、準備が必要だと、思ったんですが……」


「必要だ。だが、やり方はいろいろある。今日は最後まではしない」


 アレクシスは、ハルを見つめる。その瞳の青が、深みを増していく。


「できれば……今夜は、このまま一緒に寝たい。ハルに触れたい。もう、いろいろと限界なんだ」


 そう言って、アレクシスは少し赤くなった顔を片手で隠した。

 ……何だか、可愛い。

 僕は、この人を幸せにしたいんだった。


 ハルは、そんなアレクシスの顔を見つめて、観念することにした。



 そして、

 薄暗く照明を落とした部屋。


 アレクシスのベッドの上で、二人は向き合っていた。

 ハルは緊張で心臓が大きく脈打ち、すっかり固まっている。そんなハルを見て、アレクシスは少しだけ笑った。


 そして、両腕をハルの背中に回し、ゆっくりと優しく抱き寄せる。薄い夜着越しに二人の体温が触れ、胸が重なる。


 あ。アレクシス様の鼓動もすごく速い。


「……一緒だ」


 アレクシス様が僕の耳元で囁く。


 ああ、アレクシス様も僕と同じなんだ。

 触れないと分からないこともあるんだ。


 そうか。だから、みんな抱き合うのかな。

 言葉だけでは伝えきれない気持ちを、こうやって伝えているのかもしれない。


 アレクシス様の腕の中は、あたたかい。

 そして、こうしているだけで、アレクシス様は僕のことが大好きなんだって分かる。


 嬉しい。




 ――と、そのときは思っていた。


 しかし、翌朝。

 僕は、特大の恥ずかしさと共に、少し後悔することになる。

 いろいろある「やり方」の具体的な内容を、事前に確認しておくべきだった。



 まだ、この先があるなんて。


 信じられない。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。